パトリック・ブルックスの予兆‐二
「貴族科、普通科混同で赤、青、白、緑の四チームに分かれてもらいます。」
競技大会まで、あと一ヶ月。
朝のミーティングでペイジ先生から説明を受ける。
話している最中、生徒たちに紙が配られ、パトリックも、前の生徒から紙を受け取る。
紙に目を通しながら、ペイジ先生の声に耳を傾ける。
「今、配った種目一覧の競技を、チーム全員で力を合わせて、勝利を目指しましょう!」
爽やかな笑みを浮かべ、右手の拳を小さく上げるペイジ先生。
あ、ちなみに僕は赤チームですので、よろしくお願いしますね。と付け加えていく。
前の席の生徒が引き終えると、後ろの席へと、くじが入っている箱が渡されていく。
そして、パトリックにくじ引きの番が回ってきた。
アーリヤ、ノア、ノエルは青組。
カイルとヘーレーは赤色だった。
「青、青、青……青を引いてくれ……っ」と左隣から繰り返すアーリヤの声が聞こえる。
血走った目をした彼が、顔の前で手を組み、パトリックを見つめていた。
無視してくじを引き、後ろの席へと回す。
遠くの方から「赤か青を引く……」と呪詛のように呟いている声が聞こえる。
……テイラーの声だろうか?
とりあえず、聞こえない振りをしておいた。
―――
「嫌だっ!特別授業の時も別だったんだから、今回はパティと一緒のチームになるっ!!」
ノアに引きずられながら、教室を移動するアーリヤ。
ノエルが少し振り返り、パトリックに向けて小さく手を振った。
彼女も「また後で」という意味を込めて、手を上げ返した。
「では、赤組の皆さん。一致団結して勝ちに行きましょう!」
朗らかな笑顔だが、やる気に満ち溢れた声のペイジ先生が、みんなに声をかける。
「っんで、緑なのよっ!?」
緑組だったらしいテイラーが、同じチームの生徒に心配されながら、半ば引きづられるように連行されて行く。
その光景を横目に、パトリックは後ろの席に移動してきた、カイルとヘーレーに声をかける。
「カイル兄さん、ヘーレーよろしくお願いします。やるからには圧倒的一位を取りましょう。」
「おうさ!」
「我が赤薔薇に、一位を捧げよう!」
「その変な言い回し……呪いが再発してませんか、ヘーレー?」
そんなやり取りをしていると、黒板に文字が書き出されていく。
競技内容とそれとは別に、貴族科にいる“男子”全員参加の模擬戦という言葉が追加されていく。
見ない顔の、おそらく普通科の男子が手を上げる。
「貴族科だけですか、普通科は参加しなくてもいいんですか?」
今から説明しますね、と指に付いたチョークの粉を払うペイジ先生。
「普通科は任意参加となっています。普通科の男子生徒で、剣術の授業を取ってない方への配慮となってます。」
腕に自信がある方は、是非!と優しい笑みを浮かべる。
男子生徒が一斉に、ざわつき始める。
「おれ……参加しようかな……」
「僕も!」
「剣術の授業苦手なんだよなぁ!」
「貴族科は必修なのが、辛いよな。」
「我が赤薔薇は参加するのか?」
他の男子生徒たちの声に紛れて、ヘーレーが小声で聞いてきた。
「貴族科の男子生徒“全員”って言ってたじゃないですか、当然ですよ?」
「いや、しかし……」
何を当たり前のことを言ってるんだ?とパトリックの視線で訴えられ、口ごもるヘーレー。
「まあまあ、パットはこれでも強いんだぞ?なんたって、オレの弟弟子だからな!……ん?妹弟子か?」
悪い顔で笑いながら、ヘーレーに答えるカイル。
「おや、上から目線ですね、カイル兄さん。今回の模擬戦で兄さんを負かしてもいいんですよ?」
「アッハッハッハ!言ったなパット!だが、オレにも兄弟子としての体目があるからな、まだ勝たせてはやれないなあ?」
バチりとパトリックとカイルの間に、火花が散る。
ヘーレーは、ぽかんと二人を見る。
腕を組み、男女の友情はあるんだなと、感心していた。
―――
競技大会、前日。
明日の本番さながらの、予行練習が行われた。
何回も動きを確認し、本番で存分に力が出せるようにしておく。
流れ的に、大きな問題は特になかった。
あるとすれば、保険医が自己紹介と、怪我をしないようにと注意喚起をした時。
テイラーが「えっ!?」と叫んだ時――
それぐらいしかなかったはずだ。
救護テントの中で、テイラーが保険医に何やらアピールをしていたのを見かけた。
が、軽くあしらわれていた、同じく救護テントの中いたノエルに手を上げておく。
ノエルもこちらに気づいて、手を握りしめたあと、意を決したように、ひらひらと手を振り返してくれた。
……パトリックが去った後。
ノエルは、テイラーが保険医に向かって、意味がわからない言葉を話してるのを聞きながら、空を見上げる。
――ああ、どうか、何事もなく競技大会を迎えられますように。
そんな小さな願いの行先を知るのは――魔王だけだった。
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