パトリック・ブルックスの遭遇‐九
「レリーフって、最下層の部屋に置いてあるんだとばかりだと思ってましたけど……」
核を壊したあと、ゴーレムは光の粒となって消えてしまった。
その跡に残されていたのは、『レリーフ』と『手鏡』だった。
パトリックは、砂利まみれのアイテムを拾い上げた。
粉塵が落ち着いた時を見計らって、全員が彼女の元へ集まり出す。
「パディ様っ!ご無事ですか!?」
「ノエルの防御魔法のおかげで、怪我一つないですよ。」
駆け足でパトリックに近寄り、外傷の確認をするノエル。
彼女の言葉通り、怪我ないことを確認すると、思わず抱きついてしまった。
「こんっの痴女めッ!僕のパティから離れろッッ!!」
「アッハッハッ!婚約者とのあつい抱擁を、邪魔してやるなよ、アーリヤ!」
「まったく……攻略達成の余韻に、少しは浸らせろよ。」
いつものやり取り。
誰もパトリックが、失敗するなんて思っていなかった。
「お疲れ様です!と、言いたいところですが、まだ終わってないですよ。」
にこにこと笑いながら、歩いてくるペイジ先生。
「えっ、まだ何かあるんですか?」
「もちろん!」
張り詰めた空気の中、先生の次の言葉を待つ。
「――学園に帰るまでが、地下迷宮探索ですよ!」
全員が、胸を撫で下ろす。
ホッと空気が和らぐのがわかった。
……その束の間、影を落とす少女が一人。
「それって、“真実の光鏡”……?」
まるで幽霊のように佇んでいたテイラーが、パトリックの手にある『手鏡』を指さす。
くぐもった声のせいで、パトリックにはよく聞き取れていなかった。
「それがあれば……ッ!」
少し焦ったようなテイラーが、つかつかとパトリックに近づいていく。
「それさえあれば、簡単に好感度が上がるのっ!!」
なりふり構わずといった様子で、手鏡をパトリックの手ごと掴み取る。
「なんですか、いきなり……!」
テイラーの行動の意図がわからず、身体が動かなかった。
しかし、手鏡を奪われてはいけないと、更に力を込めて抱え込む。
「ッ……わたしの邪魔をしないで!“パトリシア”・ブルックス!!」
――何故テイラーが、“パトリシア”の名前を知っているのか。
頭が真っ白になり、ほんの少しだけ力を抜いてしまった。
そのせいで勢いよく抜けた手鏡は、テイラーの手からもすり抜け、宙を舞う。
目線だけで、手鏡を追う。
視覚の端で、テイラーが既に受け止めようと、手を伸ばしていた。
崩れた体勢から、彼女に追いつくのは難しい。
追いかけるのを諦めて、手鏡が落ちるであろう場所を確認する。
――そこにいたのは、
「我が前に立ちはだかる、これは一体――」
不思議そうな顔で、空に浮かぶ手鏡を見つめていた、
……へーレーだった。
彼の両手にポスッと収まり、なんの疑いもなく手鏡を開いた。
突如としてへーレーの足元から、魔法陣が浮かび上がる。
白い光が、彼を包み込んだ。
その直後、鏡にピシッとヒビが入り、そのまま割れてしまった。
そして、手鏡は最初から存在していなかったかのように、姿を消していた。
「ああ、あぁ……」
テイラーが、絶望したような顔で、地べたに座り込む。
彼女のことも気になるが、身体への変化がないか、へーレーに確認をする。
「へーレー、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。なんの問題もないぞ、我が赤薔薇よ。」
「……貴方、そんな“普通”に話せるんですか……?」
さっきまでの“独特な言い回し”ではない。
まるで別人のように話すへーレーに、違和感を覚えるパトリック。
「話せているのか……!我はちゃんと、話せているか!?」
「え?……まあ、はい。」
興奮気味のへーレーに、肩を掴まれ揺さぶられる。
「ペアだったからといって、僕のパティに気安いぞ。」
アーリヤがパトリックの腰を、自身へと引き寄せる。
へーレーを見る瞳は、人を殺せそうなほど鋭いものだった。
――が、そんなことは気にもせず、「暑苦しい、離れてください。」と王子を引き剥がすパトリックだった。
―――
「――という訳で、呪いのせいで我は、他者との意思疎通が困難な状態だったのだ。」
まだ若干、詩的な言い回しが抜けきれていないが、へーレーが自身に起きたことを、説明してくれた。
「呪いだとは思ってもみませんでしたが、呪いが解けて何よりです。」
にこりと愛想良く笑うパトリック。
へーレーは、嬉しそうに顔を輝かせた。
「(パディ様のあの笑顔……交渉用の顔だわ……)」
数ヶ月の間に培われた経験値が、ノエルにそう告げる。
冷や汗が背中を伝う。
「身体を張って我を守ったばかりか、解呪までしてしまうとは、どのような礼を尽くせばいいか……」
「でしたら、お構いなく。こちらの方で、謝礼品を指定させていただいて――」
「だから、我の妃になってくれ!」
腰に手を当て、にぱっと音が付きそうな笑顔を浮かべるへーレー。
「「「は?」」」
アーリヤとペイジ先生を除く、全員が声を揃える。
「あ、謹んでお断りします。――イグニス王国の第二王子、へーレー王子。」
どこまでも、通常通りのパトリックだった。
地下迷宮編終わり!
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