表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/66

パトリック・ブルックスの遭遇‐八


ゴーレムが再び、溶岩を滾らせ、巨大な岩のように鎮座する。

動き出す前の静けさが、なんとも恐ろしく感じた。

前線に向かう者たちが、入念に各自の動きを確認する。


「パディ様、どうか……無茶だけはしないでください。」

パトリックの袖を掴もうとするが、諦めたように、自身の左手首を握り込む。

“行かないでください”が、どうして言えずにいるノエルだった。


「無茶なんてしませんよ。へーレーを庇いに行ったのも、無謀じゃなくて“恩を売る”ためですし。」


どこか裏があるような笑み。

パトリックと出会ってから数ヶ月。

その表情は、何かを企んでいるということを、ノエルは嫌でも知っていた。

ノエルが黙っていることを、パトリックは『納得していない』と勘違いした。


「……そんなに心配なら、口付けの一つも贈ってくれて構いませんよ?」


いたずらっ子の笑みに変え、パトリックはくすくすと笑う。

「なんて、冗談ですよ」と言おうとした数秒後。


――自分も使っている石けんの香りが、ふわっと香ってくる。

それでも、パトリック自身の匂いではないとわかったのは、少し混じる汗のせいだろうか。

目の端に、ミルクティーの髪色を捉える。

彼女がうちに来た時よりは、髪質が良くなったな、とゆっくりと動く思考の中。

パトリックは、ぼんやりと『もう少しで、目が合うな』と考えながら、見つめていた。

次の瞬間、口の端に、柔らかい感触が触れた。


――チュッ


「心配のしすぎで、身が持たないので、ほどほどにお願いします……」


恥ずかしくなったのか、のぼせたのかわからない顔のノエル。

小走りで、その場から離れていく。


控えめなリップ音だったはずなのに、全ての音が、世界から消えてしまった。


「あッ……あの痴女ォー!僕だって!僕だって、そんな大胆なこと、ッしたことないのにっ!!」

悔しいせいか、膝から崩れ落ち、血涙を流すアーリヤ。


「……したら、殴られるどころじゃないから、賢明な判断だな。」

アーリヤを慰める(?)ノア。


「始業式の時も思ったが、婚約者殿は案外、大胆だよな!アッハッハッ!」

やるなぁ!と笑い飛ばすカイル。


そんな周りの声さえもパトリックには、聞こえていなかった。

鎖骨から上へと込み上げてくる熱は、溶岩ゴーレムの影響のせいなのか。


……それとも?


―――


「ゴーレムを倒して、僕もパティにキスを贈るッ!!」

「受け取り拒否しますね。」

「えっ!?それって、僕にキスしてくれるってこと!?」

「会話のできなさが、致命的すぎる。」


いつものように軽口を叩き合い、ガラガラと音を立てて、動き出すゴーレムを見上げる。

ノアとカイル、アーリヤ、そしてパトリックとへーレーが、三方向に分かれて走り出した。


「俺にあいつの攻撃を通すなよ、カイル?」

ノアが鼻で笑いながら、カイルに話しかける。


「誰に言ってる!」

飛んできた溶岩の塊を、全て弾くカイル。


『凍てつく氷よ、敵を切り裂く刃となれ』

魔法陣が浮かび上がり、氷の刃がゴーレムへと飛んでいく。

水蒸気を発生させながらゴーレムは、よろめいた。

しかし、致命傷にはなっていないようだった。


「チッ、やっぱ詠唱が短いと威力も弱いな。」

「だが、魔法が当たったところが、固まってきてないか?」


カイルの言葉を聞いて、攻撃が当たった個所を見る。

そこだけ、溶岩が固まったかのように、黒く変色していた。


「アーリヤ、頼む!」

ノアが、アーリヤに大声で呼びかける。


『我、頂きに立つ者。故に汝、我が命に従うべからず。“止まれ”』

アーリヤの詠唱と共に、ゴーレムが動きを止める。

しかし、無理に動こうとしているのか、バラバラとゴーレムの巨体から、小石が落ちていく。


「これが効くってことは、人間の言葉を理解してるのか……」

知能が高い。

壊さず、持って帰って、パティの屋敷の警護を任せたいな。

――どこまでも、ブレないアーリヤだった。


「……“コールマン嬢”、失敗はないからな。」

アーリヤが、ノエルを鋭い目で見つめ、圧をかけながら指示を出す。


「……ッはい!」

そんな視線にも臆せず、ノエルは胸の前で手を組む。

『主よ、どうか、彼の者たちに、護りの加護をお与えください。』


パトリックと、彼女を抱えて飛んでいたへーレーが、淡い光に包まれる。

ノエルはそのまま祈るように、パトリックたちを見上げる。


主よ、どうか――どうか。


―――

「まるで、世界が崩壊するかのような不安が、心を蝕む――」

「なんですか、重いって言いたいんですか。」


へーレーの顔に“ギクリ”と書いてあった。

どうやら、図星だったらしいので、首だけ動かし、ジロリと睨む。

……無理もない話だ。

見た目は変わらないが、筋力増加の魔法が施されたパトリック。

それと、ノアが錬金術で作り出した、大きめのハンマーを抱えているのだから。

へーレーも筋力増加がかけられているが、それでも重いものは重い。


そろそろへーレーの腕が、限界かもしれない。

彼の腕が震え出した。


「トリシア!行けっ!!」


ノアから合図があり、へーレーがゴーレムに向かって、パトリックを放る。


「ノア!王子!強化魔法、頼みましたよ!」


ハンマーの重さで、落下速度が上がる。

身体を捻り、どうにか回転させる。

回る視界の中で、ノアとアーリヤが何かを唱えているのは、確認できた。


王子の魔法で、身動きが取れなくなったゴーレム。

ノアが放った魔法で、黒く脆くなった頭部。

あとは、

――倒すだけだ。


「くらえ!」


ゴーレムの頭が、粉々に砕ける。

まるで、叩いて割れたクッキーのようだった。

それでもまだ動こうと、ゴーレムが手を伸ばす。


「大人しくしていただける?」


迫り来る手さえも、ハンマーで粉砕する。

溶岩の塊が近づいて来ては殴りつけ、また近づいては、砕き続ける。


砕いた岩が、粗めの砂になり、砂埃となって周囲に舞い上がる。

砂埃に隠れて、パトリックの姿が見えなくなる。


ハンマーを振り下ろし続けていたら、ゴーレムの核を見つけた。

半透明の赤い玉。

躊躇いなく、それを壊そうと振りかぶる。

――ヒュンッ

最後の悪あがきのように飛んできた、小さな溶岩の塊が、パトリックの首元を掠めた。

カランっと軽い音を立てて、小石が弾かれる。


他に攻撃が来るかと、少し身構える。

そして、斬首刑あのひのことが、瞬間、脳裏に過ぎる。


……しかし、それ以上のことは起きなかった。

ゴーレムの攻撃も。

たまに起こる首の激痛も。


「……あはっ!夢の中の未来だったら、わたくしの首を斬れたかもね。」


恍惚の表情を浮かべるパトリック。

「ごきげんよう!」

ゴーレムの核に別れを告げた。


――ゴーレム討伐、完了である。



星、評価、レビュー、感想を教えもらえますと大変、喜びます!

励みにもなるので、どうかよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ