パトリック・ブルックスの遭遇‐七
焦りからか、それとも罪悪感からか。
口を開いては閉じるのを繰り返すへーレー。
「我が赤薔薇に……謝罪を……」
「……お礼の、一つも、まともに、言えないんですか……」
崩れ落ちそうなパトリックを、へーレーが支える。
ゴーレムが動かないことを確認し、カイルが走って近づいてくる。
「……本当は、むやみに動かさない方がいいんだが、仕方ない。」
そういうと、カイルはパトリックの脇の下のえくぼに、自分の首を差し入れた後、肩の上に彼女を担ぎ上げる。
現代でいうところの、いわゆる消防士搬送だ。
……それに加え、空いている左手でへーレーも担ぐ。
本当に、同い年なのか?と疑いたくなるような筋力を目の前にして、へーレーは思わず、固まってしまった。
まさに、借りてきた猫のようだった。
「……兄さん、もっと、静かに、走れませんか……?」
パトリックが、弱々しく抗議する。
「無茶を言うな!これでも平坦なところを、選んで走ってるんだからな?」
カイルは苦笑いしながら、窪んでない床を器用に飛んで移動する。
「うぅ……声が、傷に、響く……」
減らず口は、健在のパトリックであった。
みんなが揃っている場所に、へーレーを下ろすカイル。
テイラーは、ペイジ先生の指示のもと、パトリックに慣れない手付きで、彼女の背中に手を当て、回復魔法をかけていく。
「パディ様っ!申しわけございません、私が……ッ私がもっと早くに、防御魔法をかけていれば……こんなことには……」
ボロボロと大粒の涙を零すノエル。
担がれたまま治療を受けるパトリックが、少し呻きながらも、ノエルへと手を伸ばす。
「その顔は、きらいです……私の怪我が、この程度で、済んだことを、誇りに思って、ください。」
伸ばした指で、ノエルの涙をそっと拭う。
ノエルは、近づいてきた手を受け入れる。
そして、躊躇いがちに、その手をぎゅっと両手で包む。
「はいっ!パディ様!」
ノエルは、涙を溢れさせながら、パトリックのために笑う。
『良い子だ。』と言わんばかりに、目を細めて笑ったあと、目を瞑るパトリック。
―――
動きを見せていなかったゴーレムに、変化が起きる。
徐々に赤いマグマが、体内に集まり始めていた。
「――オレとノエル嬢が対峙していた時には、あんな攻撃を仕掛けてこなかった。」
苦虫を噛み潰したような顔で、報告をするカイル。
おそらく、人数が増えたことで、攻撃の範囲が広がったのだろう、と推測を立てる。
考え込んでいたアーリヤが、口を開ける。
「……次は、僕も出る。」
怒りを押し殺した、低い声が、静かに響く。
ノアもカイルも止めようと、身体が少し揺れるが、アーリヤの顔を見て、何も言えなくなってしまった。
「「(本気で、怒っている)」」
自分たちでは、アーリヤを止められない。
アーリヤを止められるとしたら、“あいつ”しかいない。
無意識に視線が“あいつ”へと向く。
「いや、仮にも王族なんですから、後方にいてくださいよ。」
ノエルに包帯を巻かれて、身体が動くか確かめるパトリック。
回復魔法とポーションのおかげで、普通に動く分には、問題ないまでに回復していた。
「私だから良かったですけど、王子が怪我をしたら、特別授業がなくなるどころじゃないですので、また、ノアの護衛をしてくださ……」
「王族である前に、幼なじみ……なんでしょ?」
さっきノアとした会話を、聞いていたらしい。
治療されて、跡も残っていない左頬を、優しく撫でるアーリヤ。
「大事な人も守れないなら、王族なんて肩書き、要らないよ。」
悲しそうに笑う彼を見て、諦めたように、大きくため息をつくパトリック。
「今回のわがままは、トリシアでも止められないか。」
ノアが腕を組みながら、フッと笑う。
「大人しく、アーリヤに従うぞ、パット!」
肩を組もうとするが、怪我のことを思い出して、ポンと肩を叩くカイル。
「さっきの大技が来たら、投げ飛ばしてでも、後方に下がってもらいますからね。」
にやりと笑うパトリックを見て、満面の笑みを見せるアーリヤ。
「やっぱり、パティも僕のことを想ってくれてるんだね!今すぐ婚約する?」
「しません。そんなことより、もう一度、役割を見直しましょう。」
―――
「王子が出るなら、私はここに……」
「それなら、後方がガラ空きになる。だったら、こちらを……」
「いや、そこに居られると、俺の魔法が直撃するぞ。」
王子を無視して、作戦を練り直す三人。
地面にのの字を量産するアーリヤを、少し同情的な眼差しを向けるノエル。
会議に参加したそうにうずうずしているへーレー。
テイラーは「(ゴーレムがドロップするアイテム……好感度が……)」と別のことを考えていた。
トリナと、カイル・ノエルペアを引率していた女生徒――クランが、ペイジ先生に話しかける。
「ペイジ先生が担当なされてる、ブルックスさんって、あの噂の……?」
「噂?」
クランの問いかけに、首を傾げるペイジ先生。
「あれ?ご存知ありませんか?アーリヤ王子が八歳の誕生日の時に……」
「あれは、話題になりましたよね〜!」
「その頃の僕は、社交界にいなかったもので……」
アハハと気まずそうに笑う。
「でも噂って本当だったんですね〜。」
トリナが、関心したように言う。
「本当に、男みたいに振舞ってるなんて。」
その声に気付き、聞き耳を立てる人物が一人。
じりじりと、ペイジ先生たちに近づき、黙って話を盗み聞く。
その人物が小さく呟く。
「ブルックス……?悪役令嬢と同じ“苗字”……?」
何も知らなかった少女が、答えに辿り着いてしまった瞬間であった。
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