パトリック・ブルックスの遭遇‐六
重い大扉を開けた先。
広間の中央に佇む、巨大な溶岩の塊。
屋敷で使っているキングサイズベッドが霞むほどの大きさで、呆気にとられてしまった。
黒く焦げ付いた岩の中は、意志を持っているかのようにマグマが蠢いていた。
ガラガラと小石をこぼしながら、岩がゴーレムへと形を変えていく。
「来るぞ!」
カイルの声と同時に、ゴーレムはこちらに目掛けてマグマを飛ばす。
躱されたマグマが、ゴポリと音を立て床を溶かしていく。
「避けるのは簡単なんだが、床が溶かされると、あいつに近づきづらくてな……」
ぼやくようにカイルが呟く。
「弾いたとしても、先に剣先が溶かされそうですね……」
カイルと共に前衛を務めるパトリックが、自身の武器を見る。
カイルの剣より、刃幅が細いものを使用しているので、マグマを受けたら即座に折れるだろう。
すぅっと息を吸い、上を向く。
「弱点のようなものは見つかりましたか、へーレー!」
ゴーレムの上に、滞空飛行していたへーレーに呼びかけるパトリック。
カイルの号令と同時に、火魔法で空中に飛んでいたのである。
「虚空に漂う、未熟なる存在……我が魂はまだ燃え尽きぬ――」
「まだ見つけてないんですね?」
パトリックに言葉を遮られたへーレーが、こくりと頷く。
「……よくわかるな、パット。」
「慣れですね。あと、アーリヤ王子も大体あんな感じですし。」
ゴーレムは、大きく振りかぶり、パトリックとカイルがいるところを殴りつける。
危なげなく回避し、「さすがに、アーリヤが不憫だ……」とカイルが零し、「そうですか?」とパトリックも続ける。
「余裕かまして、足元すくわれるなよ!……次が来るぞ!」
かなり後ろの方で、ノアが大規模な水魔法の詠唱を始めていた。
その合間に、前衛の二人を叱咤する。
ゴーレムの胴体部分だけが回転しだし、拳ぐらいの大きさの溶岩石を飛ばす。
「俺たちがゴーレムに遅れを取る、という意味なのか、足場が悪いから転けるぞ、という意味なのか……オレには難しくてわからんな!」
カイルは、声を出して笑いながら、落ちてくる溶岩石を、できる限り避ける。
パトリックもある程度は避け、時々、剣の柄頭で溶岩石を弾く。
「ノアが洒落を言うなんて、珍しいですね。明日は、槍が降るかもしれません。」
「石なら、今降ってるな!アッハッハッ!」
「うるさいぞ!貴様らァ!!軽口を叩いてないで、ちゃんと囮に徹しろ!」
「おう!」「言われなくてもやってますけど?」と返事が聞こえてきた。
ったく、と声を漏らすノアの姿を見て、アーリヤが小さく笑う。
「なに笑ってんだよ、アーリヤ。」
「ごめん、ごめん、昔のことを思い出しちゃってね。」
剣術と魔法を習いだして、自分たちが十歳をすぎた頃。
レオニール師範に「何事も実践!」と言われ、魔獣などが生息する森に四人で放り出されたことがあった。
「あの時から、配置が変わってないなぁって思って。」
この中で一番、剣が得意なカイルと、その次に剣の扱いが長けているパトリック。
二人を前衛にして、魔法特化のノアが最大威力の魔法の準備をして、無防備なノアを護衛するアーリヤ。
そんなこともあったな、思い出してノアも思わず口が緩む。
「皆さんって幼なじみなんですかぁ?」
回復要員として、ノアたちの後ろに控えていたテイラーが話しかけてくる。
さっきまで微笑んでいたアーリヤも、少しだけ口角が上がっていたノアも、途端にスっと表情を消した。
「まあ、そうだな。」と言葉短く返事をして、詠唱を続ける。
―――
詠唱が終わるすんでのところで、ノアとペイジ先生が何かに気づく。
「まずい。」と少し焦ったように呟くペイジ先生。
ほぼ同時にノアが、全員に聞こえるように叫ぶ。
「全員、緊急回避!!」
ゴーレムが手を前にかざした途端、体内にあるマグマが、ゴーレムの手のひらに集まる。
みるみるうちに、巨大な球体になっていった。
その声を聞いて、ゴーレムから素早く、一定の距離を開けるカイルとパトリック。
――しかし、へーレーが出遅れてしまった。
「早く離れろ!」
カイルの叫ぶ前に、パトリックが走り出した。
それを目視したノアは、チッと舌打ちをした後、ノエルに指示を出す。
「おい、アンタ!トリシアと、あの飛んでた奴に、防御魔法を全力でかけろ!!」
「えっ?あのっ?」
「急げっ!」
「……ッ、はいっ!」
『主よ、どうか、彼の者をお護りください。』
パティ!とパトリックの元へ走り出そうとするアーリヤを、テイラーとトリナが必死に止める。
ノアも水魔法の詠唱を、防御魔法に再構築し直し、全員に施す。
「間に合えっ!」
この叫びは、誰のものだっただろうか。
―――
ゴーレムの体内にあったマグマが、全て球体に収まった。
部屋全体に、今までに聞いたことがないような、轟音が響く。
数分経った。
あるいは、数秒だったかもしれない。
小さな地鳴りを残して、音が止む。
へーレーは、恐る恐る目を開ける。
そこにいたのは――
滝のように汗を流し、背中と左頬が赤く爛れたパトリックの姿だった。
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