パトリック・ブルックスの遭遇‐五
鏡の迷路から抜け出し、パトリックたちは、豪華な模様が描かれた巨大な二枚扉の前に立つ。
ノアが扉に手を当て、魔法の気配を探る。
「さっきの迷路みたいに、部屋自体に、魔法がかかっている気配はない。」
少しホッとした表情を見せたのは、テイラーだけだった。
他のメンツは、険しい顔で大扉を見上げる。
散々、罠が仕掛けられていて、この部屋だけ魔法の気配がないのはおかしい。
原始的な罠か、もしくは部屋に入ったあとに発動するものなのか。
より一層、気を引き締めなければならない。
「……それと――部屋の中で、どこかのペアが戦ってるな。」
動く気配がある、とノアが続けて言った。
ペイジ先生に判断を煽る。
ペンで、バインダーをトントンと叩くペイジ先生。
「そうですね、採点基準的には、中の人たちが出てくるまでは、扉の前で待機が好ましいんですが……」
ペイジ先生が言い終わらないうちに、勢いよく扉が開き、誰かがごろごろと転げながら退室してきた。
「カイル様!ご無事ですか!?」
転がってきた人物を心配する声。
その声は――パトリックがよく知る人物だった。
「……ノエル?」
「えっ!パディ様!?……何故、ここに?」
砂埃で少し汚れているが、目立った怪我はないようだった。
少しだけ安心したように、息を吐く。
「ノエル、怪我は?」
首をふるふると横に振るノエル。
「私は大丈夫です。その代わり、カイル様が……」
ノエルが、転がっていったカイルの方を見て、パトリックもその視線の後を追うように顔を向ける。
「生きてるな、カイル?」
「おうともさ!そういうアーリヤも、怪我はなさそうだな。」
転がり倒れ込んでいるカイルの顔を、覗き込むアーリヤ。
ボロボロではあるが、アーリヤのセリフにニカッと笑い返事をするカイル。
―――
「戦況は?」
慌てた様子もなく、部屋の中の状況を聞くノア。
「部屋の中にいたのは、溶岩が積み重なったようなゴーレムが一体。あいつが吐き出すマグマで、足場が悪い。……それと、溶岩でできているせいか、部屋の中が暑い。」
ノエルに手当てされながら、カイルは部屋の説明をする。
カイルたちの引率役であろう女生徒とペイジ先生、それからトリナが、少し離れたところから全員の様子をバインダーに記していく。
「カイル兄さんなら、ゴーレム一体ぐらい余裕じゃないですか?」
パトリックは首を傾げた。
剣術の訓練時、人間の相手にするが、基本は土属性のゴーレムがほとんどである。
そのゴーレムたちを、難なく土に戻しているカイルが苦戦している……?
うまく想像ができなかった。
「いやはや、いつもならそうなんだが、溶岩なのがな。」
アハハと短く笑い、カイルは右手から小さな竜巻を起こしては、すぐに消した。
「火属性に風属性の魔法をぶつけても、火属性が強化されるだけだからな。」
ノアが、チラリとカイルを見て、再び目を閉じた。
アッハッハッと豪快に笑うカイル。
「風属性と強化魔法しか取得してなかったのが、仇になったな。」
明るく振る舞うも、左手で拳を作る表情は、少し固かった。
「しかし、この程度の怪我で済んだもの、婚約者殿の防御魔法のおかげだ!改めて感謝する。」
座ったまま、ガバッと頭を下げるカイル。
「やめてください、カイル様!……私が、攻撃魔法を習得してないばっかりに、カイル様が怪我を……」
彼の頭を上げさせ、代わりに下を俯くノエル。
「感謝は受け取るべきですよ、ノエル。」
ノエルの顔を上に向かせたのは、パトリックだった。
「カイル兄さんは、素直にノエルの魔法を賞賛したんです。それを受け取らず、自分を卑下することは……賞賛してくれたカイル兄さんをも卑下することになります。」
パトリックの言葉にハッとして、「申しわけございません、カイル様。」と頭を下げるノエル。
「そういう時は、“ありがとうございます”でいいんですよ。」
そんなことを言いながら、ノエルの肩に頭を乗せるパトリック。
「ひゃっ!?どうしましたパディ様!?ご気分でも優れませんか!?」
恥ずかしがりながらもノエルは、パトリックの心配をする。
少し照れくさそうに、パトリックは頬を膨らませた。
「……私が、ノエルを守れてたら良かったのに……」
ノエルの肩に頭を乗せたまま、チラッと彼女の顔を見るパトリック。
のぼせたかのように、赤い顔のノエルがいた。
「ふふっ、耳まで真っ赤ですね。」
甘い空気が流れる。
二人しかいないような錯覚を起こす。
そんな雰囲気を壊すのは――アーリヤだった。
ノエルにビシッと指をさすアーリヤ。
「僕は、婚約者だなんて認めないからなっ!パティ、僕の膝が空いてるよ?こっちにしよ?ね?ねっ?」
「硬そうなんで、お断りします。」
「座り方?座り方がダメなのかい?パティ!?」と正座の体勢から、足を崩した座り方をするアーリヤ。
「そういうことではないと思うぞ、アーリヤ!」
カイルは、口を大きく開けて笑い、アーリヤに指摘する。
「(えっ?やっぱりノエルの恋人……?でもゲームの設定だと……)」
誰にも聞こえないような声で、ぶつぶつ呟くテイラー。
「我が身に宿る焔が勝つか、敵の業火に、この身は焼かれるのか――」
自分の世界に生きているへーレー。
全体を見渡し、ノアは頭を押さえながら、溜息をついた。
―――
意見を出し合い、数分後。
各々の役割を決め、再び大扉の前に立つ。
――ゴーレム討伐、開始である。
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