パトリック・ブルックスの遭遇‐四
「二人の話をまとめると……」
パトリックは腕を組み、二の腕をトントンと指で叩く。
「ペアから溢れた聖女が、勝手に着いてきて。」
嬉しそうに笑うアーリヤと、少し気まずそうなノアを半目で睨む。
「非常に珍しい罠を乗り越え、この鏡迷路に足を踏み入れた。」
アーリヤにしっぽが生えていたら、はち切れんばかりに振られているであろう笑顔である。
「で、しばらくしたら、私の気配がすると言って走り出したアーリヤ王子。」
「うん!」
うん!じゃなくて、と喉まで言葉が出かけるが飲み込み、組んでいた腕を腰に当てる。
「私に会うために、近道をしようと鏡を割ったら、影が伸びて攻撃されて?」
右手で、眉間の皺を伸ばすパトリック。
「その影と殴り合いで勝ち、無事に私たちの元まで辿り着いたと?」
「そうだよ!」
「ほぼ、その通りだ。」
パトリックは、すぅっと息を吸い込む。
「何をしてるんですか、二人とも。」
大きめの声で、話し出す。
二人に反省の色が、見えないからだ。
「考えなしに、罠を作動させないでくださいよ。」
「僕の心配をしてくれるのかい?やっぱりパティは優しいなぁ!!」
「違います。」
満面の笑みを、パトリックの顔に近付けるアーリヤ。
パトリックは、嫌な顔を隠さないで、アーリヤから顔を離す。
「万が一、罠が発動している時に、鉢合わせでもしたら、私たちが危ないじゃないですか。」
己の身が、一番かわいいパトリック。
彼女の言葉にハッとして「ごめんよ、パティ!不安にさせてしまったね!」と慌てて謝るアーリヤ。
「……仮にも王族なんだから、もうちょい、アーリヤの心配もしてやらないか?」
さすがにアーリヤが不憫に思えたノアが、フォローを入れる。
「王族である前に、幼馴染です。耳を引っ張ってでも止めてくださいよ、ノア。」
完全に飛び火したノア。
「止める前に走り出して……」と言い訳をしようとするも、口論ではパトリックに敵わないので、「……以後、気を付ける」と返すしかなかった。
ふん、と息を吐き、顎に手を当てるパトリック。
「とりあえず、今は聖女との関わり方を考えましょう。」
アーリヤとノアの隙間から、聖女を盗み見る。
一生懸命、へーレーに話しかけているが、うまく会話ができていないみたいだった。
……あの独特の言い回しだ、無理もない。
顎から手を離し、しっかりとアーリヤとノアの目を見た。
そういえば、なぜ聖女を避けるのか話していなかったな、と思い口を開く。
「私……ああいうタイプの女性、苦手なんですよ。」
――という建前で行く。
本心であるところの、
『夢の中の未来で、首を切られた原因になったので、関わりたくないです。』
なんて言おうものなら、アーリヤどころがノアも騒ぎ出すだろうから。
「頭は大丈夫か?」と、馬鹿にしたように笑いながら。
アーリヤとノアも、視線だけ後ろにいる聖女を見る。
「あー……」という小さな声が二人から漏れ聞こえてくる。
「わかるな、その気持ち……」
「……同感。」
あまり親しくもない学友から、まるで昔から仲が良いように振る舞われるのは、違和感でしかない。
――聖女の態度は、“近すぎる”のだ。
しかも、いくら彼女の背景を調べても、自分たちとの接点がない。
……距離感が近い人間がいることは、知っている。
だが、初対面の『王族』や『貴族』に対して、あまりにも馴れ馴れしい。
「国が保護している聖女ですから、完全に避けるのは無理でしょう。」
アーリヤとノアは、視線をパトリックに戻し、諦めたような顔で、こくりと頷く。
「……でも、上手くやれば私は、関わらずに済むので、どうかお二人は、聖女を構い倒してあげてください。」
パトリックがふんわりと、柔らかく笑う。
アーリヤとノアの口元が、揃ってひくりと上がる。
彼女の言葉の裏に隠された、
『お前たちを囮にして、私は逃げるから、よろしく。』
という意味が、はっきりとわかったからだ。
「酷いよっ!パティ!僕には、パティしかいらないのに!」
「俺だって、(お前だけでいいのに)ッ……あんなやつのお守りなんてゴメンだぞ!」
「うるさいですよ、二人とも。……なら、話しかけられた時以外は、極力、目を合わせないとかすればいいじゃないですか。」
三人で騒いでいると、「もう、そろそろ作戦会議を終わらせてくださいー!」とペイジ先生が声をかけてくる。
「三人で、何の話をしてたのぉ?」
きゅるんと効果音が付きそうな仕草と笑顔で、話しかけてくるテイラー。
奥の方を見ると、やつれたように見えるへーレーがいた。
先頭を歩いていたのが、パトリックだったので、返事をせざる得ない。
彼女に気付かれないよう、小さく溜息をつく。
「情報の擦り合わせをしていました。状況確認は、基本ですからね。」
爽やかな笑みを作り、返事をするパトリック。
その顔を見たテイラーは、赤く頬を染めた。
「そ、そういえば、君の名前を聞いてなかったんだけど……」
裏返る声にも気付かないで、テイラーはパトリックに手を伸ばす。
――その瞬間。
パトリックの目は、アーリヤの右手に覆われた。
左手で彼女の肩を抱き寄せる。
そして、ノアも、パトリックを庇うように、テイラーとの間に入り込む。
「そんな目で、僕のパティを見ないでくれるかな?パティが溶けちゃうだろ?」
「……」
何も話さず、ただテイラー睨みつけるノア。
テイラーは数秒、固まってから、両手で頬を押さえる。
「えーっ!かっこいいーっ!!」
耳を突き刺す甘い高音だった。
その声に、評価基準を確かめていたペイジ先生とトリナ。
それから、少し気力を取り戻したへーレーも近づいて来た。
「何かありました?」
「いえ、何もないです。いい加減、離してください、王子。」
邪魔だと言わんばかりに、アーリヤを払い除け、返事をするパトリック。
少ししょんぼりしているアーリヤのことは、無視をする。
そんなアーリヤに、同情の視線を向けるノア。
テイラーはまだ、キャーキャーと黄色い声をあげていた。
「そうだ、ペイジ先生?別のチームと合流したわけですが、また別行動の方がいいですよね?」
「それに関してはですね、トリナさんとも話していたのですが、大人数での動きも見たいので、一緒に行動していきましょう!」
内心、『聖女と行動するのか』と舌打ちをする。が、顔に出さずに「わかりました。」と返事をするパトリック。
―――
“攻撃しなければ、ただの鏡張りの迷路である”
ノアが魔法で作り出した、小石を置いていき、迷路を攻略するパトリックたちであった。
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