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聖女テイラーの探索‐三

テイラー目線です


鏡の迷路らしく、右に曲がって行き止まり、引き返してを繰り返す。

しばらく進んだあと、突然アーリヤが何か呟き、迷いなく走り出す。

声を聞き取れたのは、ノアだけだったらしく「おい!待て、バカ!!」と、後を追いかける。

何が起きたかわからないが、トリナと共に、ノアの後を追う。


―――

追いついた先に見えたのは、ヒビが入った鏡。

そして、アーリヤと対峙している――アーリヤから不自然に伸びている“影”だった。


「僕の愛を邪魔するのか……鬱陶しいな。さっさと消えてくれないか?」


鬼気迫る顔で、腰にさしていた剣を、己の影に向けるアーリヤ。


「(あれ?これって……)」

鏡の迷路に、自分の影。

鏡……

反射……?


「(……そうだ、ここってバグが多くて、何回もアプデが入った“模倣者の鏡迷路だ!”)」


鏡に攻撃しなければ、ただの迷路でしかない。

しかし、近道をしようと攻撃したら、自身の影が攻撃してくる。

――現代では、『右に曲がる』という選択をしたのに、『攻撃する』になっていたり、またその逆なんていうバグであった。


ところで、なんでアーリヤが鏡を攻撃したのか?

テイラーには、さっぱりわからなかった。


「ノアさん〜!現状報告〜!」


手を振りながらトリナが、ノアに状況を説明させる。

少し苦い顔をしながら、躊躇いがちにノアが話し出す。


「あいつ昔から、トリシア……幼馴染に関して、見境がなくなるというか、周りが見えなくなる。これも、その一環のようなものだ……」


まったく要領を得ないノアの説明に、テイラーもトリナも頭に疑問符が浮かぶ。


鏡に攻撃するのが一環?

ヤバめの病気なのでは……?


そして、この“模倣者の鏡迷路”、攻略も少しめんどくさい。

成功条件が、自分の弱さを見つめ『己の影と握手すること』だからだ。

自身の影と向き合っている、アーリヤの様子を伺う。


「僕の剣術や使える魔法が、そのまま使えるみたいだね。」


恐ろしい殺気を放ちながら、冷静に自分の影の分析をしている。

とても握手できる雰囲気ではない。

絶対に無理だ、断言できる。


「(本来、攻略キャラの悲しき過去とか、秘めてる想いとかを、わたしと一緒に乗り越えるイベントのはずだったのにっ!)」

これじゃあ、好感度上がんないじゃない!

一人、苛立ちを募らせ、スカートをぎゅっと握るテイラー。

さっきノアがぽろっと言った“幼馴染”のことも気になる。

設定資料には“トリシア”なんて幼馴染は、いなかったはずだ。

その人物について聞こうと、トリナとノアの間を割ろうとした時。


アーリヤは、影の攻撃で切れてしまった袖を見ながら、ぽつりと呟く。


「切り傷とか、大きめの外傷があると、パティが心配しちゃうかもな……」


ちらりとノアの方を見たあと「よし。」と言い、

――そして

剣を、鞘に収めた。


「(えっ!?なんで剣、仕舞ってるの!?)」


軽く準備運動をしだすアーリヤを、思わず凝視するテイラー。

「(もしかして、一人でこのイベントを攻略しようとしてる!?)」


背中に冷たい汗が流れていく。

「(せめて、わたしが慰められそうな過去話とか言ってってよ!)」

思わずアーリヤの元へ走り出しそうになるが、少し思い止まる。

「(怪我を治すシチュエーションの方が、好感度上がりそうかも?)」


そう思い直した矢先――


「えっ!うわっ!?」


視界が何かに覆われてしまった。

うごうごともがいていると、向こうからアーリヤの声が聞こえた。


「ノア、上着を預かっててくれ。」

「お前、相変わらず投擲センスないな。」


どうやら目の前を覆っているものは、アーリヤの上着だったらしい。

こちらを一瞥もせず、投げて寄越したようだった。

上着は、すぐさまノアに奪われてしまった。


「あと、こいつに勝ったあと、怪我してたら、治してくれるかい。」

「カイルとトリシアに隠れてるけど、アーリヤも見た目の割には脳筋だよな。」


ため息をつき、ノアが愛用している魔法杖ロッドを取り出す。


「……デカめの怪我は治さねぇからな。」


青春じみたやり取りをする二人の間に、爽やかな風が吹く。

それをぽかんと口を開けて、呆けることしかできないテイラーとトリナであった。


―――

結果から言おう。

アーリヤは、目立った外傷はなく、己の影に打ち勝った。

物理的な意味で。

勝利の拳が、頭上に上がる。

テイラーの脳内では、ゴングの音が鳴り響いていた。


「(自身の弱さに向き合って、弱い自分を受け入れるための握手ってあったのに……)」


「「……勝っちゃった。」」


勝てちゃうんだ。

テイラーとトリナの声が重なる。

トリナは、ハッとした顔をして、バインダーにものすごい勢いで、文字を書いていく。

その顔は、おもちゃを与えられた子供のような笑顔だった。


テイラーは一人、俯き小刻みに震える。

傍から見れば、泣いているようにも見えたが、あいにくテイラーを見ているものは誰もいなかった。


なんということだろう。

正攻法あくしゅ以外にも攻略方法があるだなんて、思いもしなかった。


「(せっかくの好感度上げのチャンスがーっ!)」


テイラーの悲痛な叫びが、心の中だけにこだましていた。

魂の叫びは、誰の耳にも届かない。



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