聖女テイラーの探索‐二
テイラー目線かも?
「(……どうやって、手を繋いで後ろ向きに三歩、歩けばいいんだろうか?)」
この場所の説明書きを知っていただけで、怪しまれた。
それどころか、解決方法も知っているとなると、疑わしいどころの話じゃない。
とにかく、最初に考えることは、一つ。
――手を繋ぐ理由は、何にすればいいだろうか?
「(ゲームの時は、ある一定の好感度になったら、攻略キャラから“そっと手を差し出す”ってあったのにー!)」
……手を差し出すも何も、好感度さえ上がっていないことを、気づいていないテイラー。
ええい、どうにかなれっ!
思考を破棄し、強行突破を試みる。
下にある文字を、しげしげと見つめるアーリヤとノア。
「あ、あの!」
声が裏返りながらも、二人に声をかける。
「わたしも考えてたんですけど、“心を繋ぎ”って目に見えないじゃないですか!」
息を吸う音が聞こえるぐらい、大きく空気を吸い込む。
「このイベント……じゃなかった、ここの空間が“心を繋いでる”のが見えるようにするのはどうかな?」
もじもじと下を向いているので、アーリヤとノアの顔はわからない。
そっと手を前に出す。
顔を上げたら、手のひらに汗が流れる感覚に気づいた。
「試しに、手、とか繋いでみたり……!」
心臓から聞こえる音で、自分の声が聞こえない。
ドッドッドッと、心臓が爆発する五秒前だ。
―――今のわたしの顔、めちゃくちゃ恋する乙女じゃない!?
緊張で逃げ出したい自分と、そんな自分を冷静に見てる自分。
二人いるような気分だった。
アーリヤとノアが顔を見合せたあと、ノアが小さく頷く。
ノアの手が、テイラーの方へと伸びる。
手が触れる感触がした。
「おぉ〜、とても素敵なお考えですね〜!ものは試しです。やってみよ〜!」
テイラーの手と、ノアの手を同時に握ったのは――
トリナだった。
アーリヤ、ノア、トリナ、テイラーの順に並んでいる。
「は!?……なっ!?……うぅ……っ!」
『なんで、あんたがわたしの手を握るのよっ!』
そう叫びそうになる。
しかし、これ以上アーリヤたちに不信感を持たれたくない。
必死に、開きそうになる口を閉じる。
「手を握りましたけど、何も起きないですね〜。」
によによと笑いながら、テイラーを煽るように見上げるトリナ。
後ろの方では「手を繋ぐなんて、幼少期以来だね。」「なんだ、今も繋いでほしいのか?」なんて和んでいるアーリヤとノア。
今頃、アーリヤとノアの間で、好感度が上昇する予定だったのに!
心の中でトリナをボコボコにした後「あと、思うんですけどぉ!」と笑顔を引き攣らせながら続ける。
「“真の勇気”って普通に進むんじゃなくて、何かしらの工夫をしてみたら、いいんじゃないかなぁって!」
ほほぅ。と楽しそうに首を傾げるトリナ。
声には出ていないが『例えば?』と目が物語っていた。
わたしは、攻略キャラの好感度を上げたいのにっ!
食いついてくるのは、モブキャラばっかりなのよっ!
絶対におかしい!!
だんだん苛立ってきたテイラー。
落ち着くために、深呼吸をする。
「例えば、後ろ向きに歩いてみたり」と口を開きかけた時。
「おい、いつまでこの状態なんだ。」
不機嫌な声で、トリナと繋いでいる手をグイッと引っ張るノア。
身長差のせいでトリナがよろめき、テイラーも後ろへとバランスを崩す。
一歩
二歩
三歩
「あっ」
テイラーが声を上げた瞬間、先ほどまでとは違う空間に変わっていた。
「(後ろに三歩って、私だけでもいいんだ……)」
テイラーが呆然としていると、トリナがパッと手を離す。
「おめでとうございます〜、皆さん無事に脱出成功〜!」
“テイラーさん、なかなか観察眼がありますね〜”とバインダーに書き込むトリナ。
「トリナ先輩は、あの罠のことをご存知だったんですか?」
「もっちのロンですよ〜!……なんて、去年たまたま遭遇した子達から、話を聞いたんですけどね〜!」
ケラケラと笑いながら、アーリヤの質問に答えるトリナ。
「毎回、あのギミックが出るわけじゃないのか?」
「いやいや、完全なるランダム!皆さんは本っ当に運がいい!」
ノアの疑問に、右手に持っていたペンを、白衣の胸ポケットにしまいながら、トリナは返事をする。
「とにかく、今回の立役者はテイラーさんですね〜!さぁさ、お二人とも、褒めてあげてください〜!」
テイラーを押し出すトリナ。
アーリヤとノアは、視線を少し合わせた。
その後ノアが、アーリヤの脇腹を肘でトンッと押す。
『君のおかげで罠から抜け出せたよ、ありがとう。』
柔らかく微笑むアーリヤ。
▶︎『少しは、やるみてぇだな。そんなに俺に置いていかれたくなかったのか?』
目を細め、小悪魔のように笑うノア。
「(えっ!?もしかして、めっちゃ好感度上がった!?)」
内心でキャーキャーと騒いでいるが、なるべく顔には出さずに、
「お二人のお役に立てて良かったです!」
と笑い返すテイラー。
―――これは、妄想である。
テイラーが、脳内でゲームの画像と照らし合わせただけだった。
実際、アーリヤの表情は、画像とかけ離れた冷たい笑顔のままで「君のおかげではあるか、ありがとう。」と言い放ち。
ノアは、口角が上がりもせず「……感謝はする。」とぶっきらぼうにセリフを吐いていた。
これもスチルにない表情、逆にレアである。
……なんなら、テイラーも思いっきりニヤけた表情が顔に出ていた。
―――
少し華美な装飾が施された、大きめの扉を見上げる四人。
先ほどの罠もあってか、扉に手を当て、魔法の気配を探るノア。
「さっきとは違うが、魔法の気配がある。」
ノアの言葉に、にこにこと頷き、バインダーに文字を書いていくトリナ。
「じゃあ、ここも特殊な条件で、達成だと判断されるかもしれない。」
「ふむ。」と顎に指を当てていたアーリヤが、全体を見回す。
「気を引き締めていこう。」
ノアとテイラーが頷く。
その様子を見て、バインダーから顔を上げたトリナが「出発進行〜!」と声をかける。
―――
扉を開いた先は、壁や天井、床さえも鏡張りの空間だった。
圧倒的な景色に、「すごい……」と声が漏れるテイラー。
何処もかしこも自分だらけで、まるで万華鏡のようだった。
鏡の空間。
「(中盤のイベントだったような……?)」
何のミニゲームだったか思い出せない。
そこそこ難易度が高かったような気がする。
「テイラーさん〜!単独行動は減点ですよ〜!アーリヤさんとノアさんも、声かけてあげてくださいよ〜!」
トリナの声で、置いていかれてることに気づく。
すたすたと先に進んでいた三人を、慌てて追いかける。
「(あれ?さっきので、好感度上がったはず……だよね?)」
都合のいい妄想を、現実だと認識したテイラーの中では、好感度が五分の二ぐらいにはなっていた。
―――実のところ、五分の一も、ない。
「(テイラーは、こんなにかわいいんだもん。ちょっと恥ずかしがってるだけだよね!)」
どこまでも自分に甘いテイラーであった。
パディたちと合流するまでもう少し……!
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