聖女テイラーの探索‐一
テイラー目線です。
少し遡ること。
アーリヤとノア、それからテイラーは、引率をしてくれる先輩と合流し、テイラーもついてくることを説明する。
「ま、そういう時もあるよね〜。これも貴族に必要な“臨機応変に”ってことで。三人に増えても、厳しめ採点するからね〜。それじゃあさっそく地下迷宮に行ってみよ〜!」
丸メガネをかけ、サイズが合っていない白衣を着た先輩の言葉で、地下迷宮に潜り込む。
足元は悪く、辺りは暗い。
「そういや、自己紹介してなかったね〜。うちは、トリナ。トリナ先輩って敬ってね〜。」
トリナの話し方で、いまいち緊張感が持てない三人だった。
「アーリヤ・ガルシアです。よろしくお願いします。」
「……ノア・オールデン。」
「わたしはぁ、テイラーです!よろしくです!」
自己紹介を終えて、無言の時間が生まれる。
アーリヤとノア、トリナはなんとも思ってないようだったが、テイラーは違った。
話し出したいけれど、話題が見つからない。
なんとも言えない焦りを感じていた。
『……地下迷宮イベントの時って、どんな選択肢だったっけ?』
テイラーは、必死にアーリヤルートの選択肢と、ノアルートの選択肢を思い出そうとする。
しかし焦りのせいか、『あの選択肢はこのイベントのものだったろうか?』と不安になってしまう。
……せっかく好感度上昇イベントに、攻略キャラが二人いるんだもん!
好感度を上げなきゃ、もったいないよね!
ちょっかいかけてくるはずの、悪役令嬢も今のところいないみたいだし、今回の難易度は優しめだったりするのかな?
そうだ、邪魔をしてくる悪役令嬢がいないじゃない、と思い出し、テイラーはアーリヤに尋ねる。
「そういえば、アーリヤの婚約者って……」
「……僕、君に名前を教えてないよね?」
アーリヤは振り向き、にこりの笑う。
「もうちょっとだけ、遠慮してね?」
『今、一年生だよね?』という質問は、アーリヤの返答でなかったことにされてしまった。
「(あ、あれ……?こんな雰囲気だったっけ?)」
爽やかな笑顔のはずなのに、なんでこんなにも手先が冷たくなっていくのだろう。
温めるために、不安を落ち着かせるために、両手をぎゅっと握りしめる。
「ごめんなさい……」
思わず謝ってしまった。
うっすら寒いと思うのは、地下へと進んでいるせいだと信じたい。
気を取り直して、ノアとの会話を試みるテイラー。
「ノアは、いつから魔道士を目指してたの?」
「……それ、いま関係ある?音に反応する罠があるかもしれないから、足音以外、立てないでくんない?」
不機嫌そうに返事をするノアに、少し怖気付くテイラー。
それでもなお、会話を続けようとする。
「え、でも……協力してねって、ペイジ先生が……」
「だから何?元々、アーリヤと俺のペアだったのに、勝手に着いてきたのはお前だろ?」
ノアは、馬鹿にするように鼻で笑う。
「邪魔にならないように配慮して。」
事実なので、言い返せないテイラー。
「ギスギスなのは、ダメですよ〜!減点しちゃいますからね〜」と雰囲気を壊してくるトリナ。
「(ノアって、小悪魔キャラだったはずなんだけど、全然“小悪魔”じゃない!むしろ悪魔!)」
もしかして、好感度がまだ足りてない?
でも、チームには入れてもらってるから、そこまで低くはないと思うんだけど……
なんとも的はずれな憶測を立てるテイラーであった。
―――
歩き続けて、最初に違和感に気づいたのはアーリヤだった。
「……これ、同じところを、ぐるぐると歩かされてるね。」
その言葉を聞いて、壁を触り、魔法の気配があるか調べるノア。
トリナは、『やっと気づいたか』みたいな顔をしてバインダーを取り出す。
テイラーは、「何?どういうこと?」とわたわたしていた。
「ごく微量ながら、魔法の気配がする。しかも、この空間全体にだ……チッ、もうちょい早めに気づけたな……」
ノアは、悔しそうに顔を歪める。
トリナは「おぉ〜」と感嘆とも取れる声を出し、バインダーに書き込んでいく。
「(あれ……なんか、あったような……?)」
同じところをぐるぐる?
空間全体がループしてる……?
「(……思い出した!ここってランダムで発生するミニゲームの“既視感の回廊”じゃない!)」
テイラーはサッとしゃがみこみ、壁の下をぺたぺたと触る。
「何してんだ、お前?」とノアに声をかけられたと同時に、壁に書かれている文字を見つける。
「ありました!これ見てください!」
『迷える者たちよ、真の勇気を持って心を繋ぎ、未来へ進め。』
たしか、このミニゲームのクリア条件は、
『壁の文字を見つけること』
『攻略対象と手を繋ぐこと』
そして
『後ろ向きに三歩、進むこと』
だったはずだ。
この二人と手を繋げると思うと、緊張しちゃうな。
手汗がビショビショどころじゃない。
まるで滝みたいだ。
「この空間の説明ってところかな?」
アーリヤが釈然としないながらも、そうとしか思えないと考え込む。
「お前、なんで下にそんなもんが書いてあるってわかったんだ?」
疑いの目でテイラーを見つめるノア。
テイラーの中では、「すごい!さすが聖女だね」や、「やるな、お前!」など褒められることしか想定していなかった。
『なんで知っているか』の説明を用意するのを忘れていた。
「あー、えーっと、孤児院にあった冒険譚の中に、似たようなのが、あったなーって思ってぇ……」
誰とも視線を合わさず、しどろもどろになりながら説明をする。
アーリヤとノアの勘ぐる視線は、しばらく続いた。
「黙ってても、進めないですよ〜?」
ニヤニヤしながら声をかけ、ペン回しをするトリナ。
助かった、とほっと胸を撫で下ろす。
手汗でぐっしょりな手のひらを、制服で拭う。
――いざ、好感度上昇イベント攻略!
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