パトリック・ブルックスの遭遇‐三
パトリックたちは、広い空間に出る。
入口の右側に、教卓ぐらいの大きさの石碑があり、文字が記されている。
床には無数のタイルがあり、薄ぼんやり光っていた。
その先には、下に続くであろう扉が一つ。
パトリックは、石碑に近づき文字を読む。
『正しく進み、真実の扉を開け。二度の軌跡は辿れぬ。』
「なんで、誰一人まともに話せないの!?」
思わず吐き捨てるパトリック。
ヘーレーも石碑に近づき、「うむ」と呟く。
「赤薔薇よ、我々は恐らく同一の道を辿ることはできぬのだろう。この異次元の扉を開く覚悟を決めよ。」
『同じタイルを踏まずに、すべてのタイルを使って、あの扉に辿り着け―――ということだろう。』
なんて、彼の言葉を意訳したようなセリフが頭の中に浮かんだ。
『まさかな。』と思いながらも「全部のタイルを踏んで行けって、ことを言いたいんですか?」とヘーレーに尋ねる。
彼は満足気に、こくりと頷いた。
……このよくわからない言葉が少しずつ、理解できるようになっている――そんな事実に、少し落ち込む。
気を落としていても仕方ない。
ヘーレーの言うことを信じるとして、どの道順を辿ればいいか……
「正確なタイルの数が知りたいですね。」
仕組みは単純だが、もし目測を間違った時に、何があるのかが予測できない。
パトリックは、ぼやくように呟く。
「……というか、手っ取り早く、飛べたりしたら扉が開いてる可能性あったりしそうですが……」
その呟きを聞き、ヘーレーが「任せろ」と言わんばかりの顔で、自身の胸を叩く。
「炎の翼を広げ、高速で空を舞う!我が身を灼熱の炎に包み込み、全てを焼き尽くせ―――」
「突然なんです、か……!?」
パトリックがヘーレーの方を向く。
するとヘーレーが嵌めている指ぬきグローブに赤い魔法陣が浮かび上がる。
その直後、爆発音と共に、ヘーレーは一瞬で宙に舞った。
「火魔法が発動する時に起こる爆発を、推進力に変換して、飛んでる……?」
―――発動する瞬間の威力を高めれば、できない芸当ではない。
幼い頃、似たようなことができるのかノアに聞いたことがある。
そして、返ってきた答えがさっきのセリフだった。
でも、そんなことをするのは、馬鹿だけだ。
……とも言われたのも思い出す。
楽しそうに飛び慣れている様子の彼を、ペイジ先生と共に呆けた顔で見上げる。
彼は馬鹿なのか、天才なのか。
ヘーレーが扉の一歩手前のタイルに着地し、扉を開けようとする。
しかし、うんともすんともいわなかった。
「……なるほど、タイルを踏むことが、鍵の役割も果たしているみたいですね。」
ハッとした顔になり、評価を付けている紙にさらさらと書き足すペイジ先生。
パトリックは、ヘーレーに大声で呼びかける。
「ヘーレー、その浮き上がる魔法は、空中に留まれたりしますか?」
「幽玄の闇が広がる、造作も――」
「あ、そういうのいいんで。できるなら、お願いします。タイルの縦の数と横の数を教えてください。」
「ヘーレー君の扱いに慣れてきてるね、パトリックさん。」
バインダーから顔を上げ、ペイジ先生が苦笑いをする。
「ええ、方向性は違いますけど、似た性質の友人がいますから……」
遠い目をしながら、返事をするパトリック。
思い出していたのは、毎日のように求婚してくる幼馴染でもある王子のことだった。
―――
無事に謎を解き、扉を開くパトリックたち。
その後も、剣山が敷き詰められている落とし穴や、矢が飛んでくる罠などを通過して行く。
階層の突き当たり。
少し威厳のある大きな扉をそっと開く。
足を踏み入れた先の景色は一面、鏡張りの迷路だった。
今までの壁とは違い、手で触れることを躊躇させる、なんとも不気味な壁であった。
「方向感覚を狂わせるものでしょうか?それとも別の……?」
何かヒントはないかとちらり、ペイジ先生の顔を見る。
朗らかに首を少し傾け、にこにこと笑うだけであった。
なんとも食えない人だ。
「(まあ、想定の範囲内ですけど)今まで以上に慎重に行きましょ……」
進もうとした時、前から聞き慣れた声がした。
「やあ、パティ!こんなところで合流できるなんて、やっぱり僕たちは運命で結ばれているんだね!いつ婚約する?」
「しません。」
「おい、アーリヤ!突然“パティの気配がするっ”て走り出すな!」
先行していたはずのアーリヤとノア。
それから―――
「やぁん!二人とも、待ってくださぁい!」
何故か、聖女がいた。
その後ろから、「待ってくれよぉ〜」となんとも間延びした話し方をする、丸メガネの少女。
サイズが合わないブカブカの白衣を着ているが、教師には見えない。
おそらく先輩だろう。
とにかく、アーリヤとノアが聖女と行動している理由を聞かなければならない。
身長差で、上目遣いになるのは癪だが、ジト目で睨みつけ顎をしゃくる。
『こっちに来て、説明しろ』
アーリヤとノアは顔を見合せ、こくんと頷き、パトリックの元に近づく。
意味はちゃんと通じたようである。
「えぇー?二人とも、どこに行くんですか?……あれ?そこにいるのは――」
アーリヤとノアの背中のおかげで、パトリックの姿は見えてないはずであった。
三人が、身体を強ばらせる。
「えっ!ヘーレーもいるの!?やばい!めっちゃラッキーじゃん!やっと神様がわたしに味方してるっ!」
聖女の言葉に少し疑問を持ちつつも、胸を撫で下ろす。
隣りにいたペイジ先生に、休憩をお願いし、了承を得た。
テイラーがはしゃぎながらヘーレーを構っている。
その隙にパトリック、アーリヤ、ノアの作戦会議を始める。
議題は『聖女との関わりをどれだけ最小限に留められるか』である。
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