聖女テイラーの催事
始業式から三ヶ月。
テイラーは少し焦りを感じていた。
攻略対象たちとの関係が、まったく発展していないからだ。
一人、自室でうろうろ動き回る。
「なんで、ノアもカイルも、アーリヤさえも話しかけてこないの!?」
教室での攻略キャラの選択が、ゲーム通りではなかったことは認める。
その後は自分なりに、声をかけやすい雰囲気を作ったつもりだった。
ある時は、中庭にカイルがいるタイミングで、うたた寝のふりをしてみたり。
またある時は、ノアがいる目の前で転んでみたり。
結果は、見事なまでに惨敗であった。
うたた寝のふりをした時は、カイルではなく、違うクラスの先生に起こされた。
ノアの時も、他のクラスメイトたちばかり声をかけてきて、ノアは一瞥してその場から去るだけだった。
アーリヤに食堂で「ご飯、ご一緒してもいいですか?」と聞いたりしてみた。
「僕はもう食べ終わったから、この席を使いたかったら、そのまま使っていいよ。」と言われ立ち去られてしまった。
まだ食器の上には、食事が半分以上残ってたのに!
――どう見ても、嘘じゃない!なんで!?
部屋を歩き回るのをやめ、ベッドに腰掛ける。
「ノエルに話しかけようにも、ずっと黒髪くんと一緒にいるのよねー。」
自己紹介時にいなかったせいで、名前がまだわからない黒髪くん。
「ノエルの恋人?……でも、そんな設定あったかな?」
攻略キャラのプロフィールは、ざっと読んではいたが、サポートキャラまでは読んではいない。
それほど、重要だと思っていなかったからだ。
「(こんなことなら、目を通すくらいはしとけば良かったな。)」
なんて、後悔しても後の祭りであった。
――とにかく、攻略キャラとどうやって、親しくなっていくか、それが今の課題だった。
ベッドの上に横になる。
「……ゲームみたいに、選択肢が目の前に出てくるわけじゃないし、待つよりも行動あるのみよね!」
そろそろ、好感度上げイベントがあったはずだ。
それで一気に親密になるしかない。
ベッドの上にあったクッションをギュッと抱きしめながら、ごろりと仰向けになる。
「がんばれ、わたし!やれるぞ、わたし!」
テイラーは、えいえいおー!と右手を伸ばす。
――ノアやカイル、アーリヤは、意識的にテイラーのことを避けていた。
彼女が現れてから、パトリックの様子がおかしい。
傍目から見れば、わからないぐらいの小さな違和感だが、幼少期から共に過ごしている者たちから見れば、一目瞭然だった。
愛しの幼馴染の身を案じて、テイラーとの接触を避けていたのだ。
……そんなことも露知らず、イケメンを攻略するぞ!と決意を新たにするテイラーであった。
―――
貴族科のみで行われる特別授業。
それが“地下迷宮探索”である。
ゲーム内では、攻略対象と共に迷宮を探索――という名のミニゲーム――を進めていく。
好感度を上げやすいアイテムだったり、直接、好感度が上がったりと中々、おいしいイベントだったとテイラーは記憶している。
「――それでは、前後の人でペアになってください。」
担任の教師で、攻略対象でもあるペイジ先生がにこっと笑いながら指示を出す。
「(大人の色気溢れる先生って書いてあったけど、実際はなんか、ぽやんとしてるのよねー。好感度が上がれば変わるのかしら?)」
少し考え込むが『今は、攻略キャラの誰とペアになってるかよね!』と気持ちを切り替える。
テイラーが後ろを向いた。
そこには―――
『どうやら君とペアみたいだね。一緒に頑張ろうか。と優しく微笑むアーリヤ』
『聖女とペアか……使えないなら、置いてくからな?――だから、あんまり離れるなよ?とイタズラっぽく笑うノア』
『ふむ、君と一緒か……国にとっても(俺にとっても)大事な人だからな、君に傷一つ付けないことを約束しよう!と豪快に笑うカイル』
―――しかし、現実では。
▶「テイラーさんと一緒だなんて嬉しいなぁ!おれ、精一杯頑張りますね!」
ペアになったのは、パッとしない顔のクラスメイトだった。
テイラーの頭の中で、何かが切れた。
「なんで、攻略キャラと被んないのよ!?好感度上がんないじゃない!おかしいわっ!」
突然、わけがわからないことを叫ぶテイラーに、クラスメイトも慌てる。
「えっ!?何!?テイラーさん、どうしたの?」
テイラーは、フーッフーッと肩で息を切らし、クラスメイトを睨みつける。
その鋭い眼差しに、ペアになった彼は思わず短い悲鳴を上げる。
ガシッと彼の肩に掴みかかるテイラー。
「すみませんけど、これから体調を崩してくれない?」
「……は?」
テイラーはそう言うや否や、ブツブツと何かを呟く。
すると途端に、ペアの彼がお腹を押さえだして、うずくまってしまった。
浄化魔法が使える聖女は、黒き瘴気にも耐性があった。
それを体内に溜め込み、害のない程度に調整して、他人へ移すことができる。
――浄化魔法の、歪んだ応用である。
「(一周目のわたしは、なんでか使ってない魔法だったけど、使えるものは使わなきゃ損よね!)」
テイラーは、すぐさま近くにいた教師に駆け寄った。
「先生ーっ、ペアの人が“お腹痛い”ってなっちゃいました!保健室に連れて行ってあげてください!」
先生を、彼の元まで連れていき、自分はそそくさと人がいる所へ走り出した。
目当てはもちろん、攻略キャラたちだ。
近くにいたのは、『アーリヤ、ノアペア』だった。
「(ラッキー!まとめて好感度上げよ!)」
右手を振り、アーリヤとノアの元まで駆け寄る。
「すみませぇんっ!ペアの人が、お腹が痛くなっちゃったみたいでぇ……良かったら、入れてくれないかなぁ、なんて……」
しなを作り、自身が可愛く見える斜め四十五度の角度で、二人を見上げる。
瞬きも多めにしておく。
アーリヤとノアは、無言で目線のやり取りをしていた。
「(どうするアーリヤ)」
「(本当はもう少し情報を集めたいから、関わりたくないんだよね)」
「(断るか?)」
「(いや、カイルたちの所に行っても面倒だし、何より……)」
「(トリシアの所に行くかもしれないのが、気に食わないって?)」
目を細めて笑うアーリヤ。
その目が氷のように冷たいのを知っているのは、ノアだけだった。
ため息をつき、ノアは顎で“着いてこい”と仕草をする。
「……あー、しょうがねぇな。ただし、遅れを取るようなら、置いていくからな。」
「頑張って着いてきてね、聖女さん。」
その声に感情というものを感じ取れなかった。
そのまま踵を翻し、紙に書かれた数字と同じ腕章を付けている人物を探し出すアーリヤとノア。
そんな二人の様子を見て、テイラーは俯く。
「(やったー!選択肢とほぼ同じ言い回し!これは、好感度が上がったってことよね!)」
テイラーは、二人からの冷たい目線など気づかなかった。
「待ってくださぁい!」とスキップでもしそうな勢いでアーリヤとノアの後を追いかけるのであった。
星、評価、レビュー、感想を教えもらえますと大変、喜びます!
励みにもなるので、どうかよろしくお願いいたします!




