パトリック・ブルックスの遭遇‐一
入学式が終わってすぐに、部下を使い、テイラーを調べさせる。
しかし、いくら調べさせても『ノエル様トノ接点ナシ』の報告書しか上がってこなかった。
「(そんなはずがない)」
別件を任せていた部下数人にも調べさせたが、同じ結果だった。
彼女の実家の方まで調べさせたが、手がかりは何も得られなかった。
ノエルの名前を知っていた理由がわからず、ぞわりと鳥肌が立つ。
「(まさか、ね。)」
考えたくはないが、とある仮説が脳裏を過ぎる。
――聖女も、わたくしと同じ記憶を持っている。
首を斬られた未来では、学年が一つ下だった。
クラスでの交友関係なんてものは、あの時は調べなかった。
“あいつが許せない”の一心で、聖女の心を壊したかったから。
自室内でうろうろと歩き回りながら、下唇を少しつまむ。
本当にあの時は、爪が甘かった。
交友関係も調べておけば、もっと聖女を貶められたのかもしれない。
……今となっては、どうしようもない話だが。
はぁ、と息をつき、窓から空を見上げる。
斬首刑の二の舞にならないように、生き方を変えた。
夢の中の未来では、卒業パーティで彼女の顔を溶かす年である。
少し冷たいうなじを触る。
やれることはなんでもしてやる。
嫌いだった勉強ができるようになったのだから、斬首されることも回避できるはずである。
とりあえず、しばらくは聖女との関わりを避けることに専念しよう。
何が斬首刑の引き金になるか、分からないからだ。
ノエルが「一緒にお勉強しませんか?」と部屋を尋ねてくるまで、晴れ渡る青空を見る。
……あの時の空は、何色だったのかしら?
今日みたいな空色なら、私の心も少しは晴れたのかもしれない。
―――
入学式から三ヶ月。
クラス内でも、生徒同士のグループが出来上がる頃。
“特別授業”という名目で、学園に併設されている地下迷宮の前にクラス全員が集められる。
「これより特別授業として、この“地下迷宮”で探索をし、最下層にあるレリーフを取ってきてもらいます。」
ざわざわと「なんだ簡単じゃん!」「地下迷宮、入るの初めて!」「暗いのやだな……」など小声が飛び交う。
「しかし、ただ取って来るわけではありません。」
騒がしさを打ち消すように、ペイジ先生がピシャリと言い放つ。
「道中では、様々な魔法が使用された罠や、原始的な仕組みの罠が設置されています。
それを観察し、推察して、ペアの人と協力してレリーフを持ってきてください。」
ペイジ先生の髪が風に揺れ、朗らかな笑みを浮かべる。
「――それでは皆さん、前後の人とペアになって、くじを引いてください!」
説明を受け、一人ずつくじ引く。
紙を開くとカイルとノエル、アーリヤとノア、そしてパトリックは黒のフィンガーレスグローブを付けている男子とペアになっていた。
パトリックは「よろしく」と声をかけるが、相手は小さく会釈をするだけだった。
二人一組が、順番にくじを引いていき、パトリックが引いた番号は、ペイジ先生の腕章と同じ数字であった。
「該当の数字の腕章を付けている先生もしくは、先輩たちの元へ集まってください。」
ペアになった男子は、紙に書かれた番号を再度確認すると、足早に先生の元へ向かってしまった。
遠くの方で「なんで、攻略キャラと被んないのよ!?好感度上がんないじゃない!おかしいわっ!」と聖女のものだと思われる声が聞こえるが、関わり合いになりたくないので、無視をする。
アーリヤは「僕もパティと一緒に行く!」と暴れるも、ノアに回収されていく。
「初歩の初歩もできないトリシア、せいぜいペアになった奴の足を引っ張ってやるなよ?」とノアは、意地の悪い笑みでパトリックを一瞥し、アーリヤを引きずりながらその場を後にする。
「パディ様、差し出がましいとは思いますが……ご武運を。」
ノエルが自身の胸の前で手を組み、心配そうな顔で、パトリックに声をかける。
「ありがとう。そちらこそ、どうか無事で。」
パトリックはノエルの左頬に、自身の右頬を寄せる。
ノエルが小さく「ぴゃっ!?」と悲鳴を上げた。
「カイル兄さんがいるから、心配はないと思いますけどね。」
「アッハッハッ!パットの大事な婚約者殿だ、傷一つ付けないことを約束しよう!……代わりと言ってはなんだが、婚約者殿にやったようなやつを、オレに頼めるか?前報酬ってことで!」
パトリックは片眉を上げて、カイルに尋ねる。
「――で、本心は?」
「……最近の婚約者殿に対する、アーリヤの態度が目に余る。なら、嫉妬する対象を分散させようかと思ってな!」
パットはなんでもお見通しだなと、照れたように頭をかいたあと、パチンとウィンクをするカイル。
思わず「兄さんらしい考えですね。」とくすくすと笑うパトリック。
「屈んでください。」と言われ、顔をパトリックの近くに寄せる。
「兄さんも、ご武運を。」
おでこに小さなリップ音を立てる。
「今から、嫉妬で狂うアーリヤが目に浮かぶな!」
彼の父でもあるレオニール師範を思い出させるような、豪快な笑い声を上げたあと、ノエルに右手を差し出すカイル。
「では、行こうか婚約者殿。」
「はい!……それでは行ってまいります、パディ様。」
二人の背中を見送り、自分もペイジ先生の元へ向かった。
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