聖女テイラーの登校
始業式当日。
学年が上がる者は、式が始まるよりも早めに登校することと、事前に知らせがあった。
テイラーはいつもより入念に、身だしなみを整える。
――どの攻略対象に告白されても、大丈夫なように。
鏡の前で、前髪を左に流したり、スカートのヨレがないか確認をしながらゲームのオープニングを思い出す。
「最初って、主人公が普通科と貴族科を繋ぐ中庭で、うたた寝をしちゃって、ノエルに起こされるところから始まるのよね。」
背中にゴミなどが着いてないか確認しつつ、ゲームのストーリーの順序を思い浮かべていく。
「ノエルに教室まで連れて行ってもらって、『君は普通科だろ?あとはこちらで案内するよ。』のセリフのあとに、どんな見た目の攻略対象に声をかけられた?って選択になるのよね……」
▶『太陽の光を反射するような銀の髪に、空よりも深い青色の瞳の青年【アーリヤルート】』
『水色の髪をなびかせて、蠱惑的な笑みを浮かべる青年【ノアルート】』
『落ち着いたワインレッドの髪色で、太陽のような笑顔の青年【カイルルート】』
「ゲームでも、転生しても、一周目は無難に王子だったから、次はノア……いや、カイルも捨て難い……でも、好感度を上手く調整できれば、ヘーレーも加わるのよねーっ!」
うきうきと今から出会える攻略対象たちに思いを馳せながら、時間を確認する。
「やばっ!もうこんな時間!?ノエルが中庭を通るのが、式が始まる前なのよね!急がなきゃ!!」
―――
少し駆け足で、中庭にたどり着く。
まだ生徒の数は多くなかった。
よいしょ、っとゲームのパッケージにも写っていた、桜によく似た木の下に腰を下ろす。
「(あとは目をつぶって、ノエルが来るのを待つだけ……)」
生徒が増えだしたのか、話し声が多くなる。
「私は職員室に寄るから、少し待ってなさい。」
「(お、一緒に教室行こうってことかな?やるなー!わたしも早く攻略対象たちとイチャイチャしたいなー!)」
そう思いつつ、目をつぶっているだけのつもりが、いつの間にか本気で寝ていたらしい。
鐘の音を聞いて飛び起きる。
「えっ!ウソ!?ノエルどころか、誰も起こしてくれなかったの!?」
やだ、最悪!とぼやきながら、教室に走るテイラー。
教室の扉をスパンと開き、クラスの空気を完全に無視して叫ぶ。
「ノエルが全然来ないから、攻略イベントが始まったのか全然わかんないじゃん!……(じゃなかった)ごほん、すみません!道に迷ってました!テイラーです!聖女してます!よろしくです!」
静まり返る教室。
クラス中の視線が、テイラーに向く。
思っていたことが、全部口から出ていたが、攻略対象たち以外興味ないからいいか。と、開き直るテイラー。
目当てのキャラたちを、目だけで探す。
視線より少し上のあたり、ゲームのテキストに書かれていた『銀色の髪』『水色の髪』『ワインレッドの髪』とついでに、ノエルだと思われるシルエットを見つける。
「(なんでノエルがここにいるのかは、わからないけど、とりあえず)ちゃんと攻略イベントが解放されてるわね!」
テイラーは、これから起こるであろう攻略イベントの数々に期待を膨らませる。
……見つけた『銀色の髪』『水色の髪』『ワインレッドの髪』がものすごい剣幕で、自身を睨みつけていることにも気付かずに。
―――
授業と授業の合間の時間。
攻略対象たちに話しかけに行こうにも、他の生徒たちに足止めを食らう。
「テイラーさんってお呼びしていい?」
「浄化魔法が使えるって本当!?」
「学生寮から通ってるの?」
明るく返事をしていくが、意識は攻略対象たちに釘付けだった。
どのキャラを攻略するか、つい選り好みしてしまう。
それから気になったのは、黒髪の美少年。
『えっ!?あんなお人形さんみたいに綺麗なキャラいたっけ!?モブにしてもビジュ良すぎっ!!』
隠しキャラ?二週目限定キャラだったり?
……何よりもまず、イケメンたちに囲まれているノエルと知り合うことだ。
ノエルと友達になれば、必ず接点ができるはずと彼女をジッと見つめるテイラー。
ノエルと目が合ったと思った矢先に、黒髪の少年で視界が遮られてしまった。
『うわっ!後ろ姿も美形なのズルすぎる!今回、落とすのはあの子にしようかなーっ?』
そのまま見続けていると、アーリヤとノアがその背で、黒髪の美少年の姿を隠してしまった。
『うぅん、やっぱりノアも捨て難い……』
ばちりとカイルとも目が合う。
『えっ!?カイルから声掛けてくれたりする!?』
立ち上がろうと、身体が僅かに揺れる。
それに反応してカイルが視線を元に戻してしまった。
『攻略対象たちが、チラチラとわたしを見ている。――もしかして、既に逆ハーエンドのフラグが立ってるとか!?』
きゃー!どうしよう!わたしは、まだ誰の好感度上げるか決めてないのに!
いや、全員上げる気ではいるけれど!!
初手ってやっぱり大丈夫にしたいわ!
途中から会話が途切れ、不思議そうな顔をし出す他の生徒たち。
攻略キャラたちの険しい視線の意味など全く考えず、脳内で一人、騒ぐテイラーであった。
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