パトリック・ブルックスの登校‐二
「それで、婚約者殿の名前を伺ってもいいかい、パット?」
赤胴の髪色の青年が、人懐っこい笑みを浮かべ、パトリックに話しかける。
「あ?カイル、トリシアがどこにいるって?」
目元が少し、前髪で隠れた青年が、きょろきょろと見回した。
「……ああ、いたのかトリシア!相変わらず小さくて見えなかったぜ。」
目の前にいたパトリックに気付く振りをし、嫌味な笑みを浮かべる。
「前髪のせいですかね?いい加減、切ったらいかがですか、ノア?」
そう言うと間髪入れず、ノアのみぞうちに一発、お見舞いするパトリック。
「ヴッ!?……ッ!」
「綺麗に決まったな!パット!」
「こら、パティ!乱暴をしちゃいけないと、いつも言ってるだろう?手は怪我してない?次にノアを殴る時は、何か握ってから殴ると威力が上がるよ。」
慣れたやり取りを目の当たりにして、思わずふふっと小さく笑ってしまったノエル。
「ノエルが置いてけぼりでしたね、すみません。アーリヤ王子は会ってるから、飛ばしますね。」
パトリックは、赤胴の髪色の青年に手のひらを差し出す。
「こちらはカイル兄さん。元騎士団団長のご子息で、王子付きの騎士を目指しています。剣術の師範が一緒なので、私の兄弟子でもあります。」
「カイル・エリオだ、よろしく婚約者殿!」
ニカッと眩しい笑顔を見せるカイル。
『兄のように慕っているから“兄さん”なのね』と判断して、ノエルはおずおずと「よろしくお願いします。」と返事をする。
「それからこっちの陰湿そうな前髪が、ノアです。最年少で王宮お抱えの魔道士が決まってる陰湿野郎です。」
「おい、陰湿って二回言ったなトリシア!……(お前にだけであって……)ノア・オールデン。」
「……あっ、はい!よろしくお願いします!」
「カイル兄さん、ノア。この方が――」
パトリックが、二人にノエルを紹介をしようとした時、教室の扉がガラッと開かれる。
若葉色の髪色を揺らし、メガネの温和そうな二十代後半の男性が、教室に入り、教卓の前で声をかける。
「おはよう、皆さん。とりあえず近場の席に着いてください。」
髪色と同じ若葉色と目が合ったと思った瞬間、数秒見つめられる。
不思議に思ったが、次の瞬きの内に目線は外され、教室に入ってきた時と同じ表情になっていた。
全員が座るのを確認して、爽やかな笑みを浮かべる。
「はい、全員座りましたね。このクラスを請け負うことになりました、ペイジです。担当教科は生物。よろしくね!」
貴族と言ってもまだ十代。
先生を見るなり、「(チェッ、男の先生かー)」「(ペイジ先生素敵ですわ!)」とざわざわし出すクラス。
パトリックたちも例外ではなかった。
『夢の中の未来では見かけなかった……新任の方かしら?』
無意識にうなじを触るパトリックに、隣に座れたノエルがこそっと話しかける。
……先ほど見つめてきた答えは、未だわからずだった。
「(お若い先生ですね、パディ様)」
「(そうだな……おや、もしかして“ああいうの”が好みかい?ノエル。)」
「(なっ……!もう!違いますよ!)」
顔を真っ赤にして、両手と顔をぶんぶんと横に振るノエル。
耳も首も真っ赤に染めて、ノエルはちらりと潤んだ瞳でパトリックを見る。
「(わ、私がお慕いしてるのは……)」
彼女に釣られて、頬がほのかに火照る。
向き合うように、徐々にパトリックの右膝とノエルの左膝がくっつく。
その瞬間、パトリックは背後の人物に片手で目隠しをされ、後ろに傾いた。
「(僕は、君をパティの婚約者だと認めてないんだが?)」
「(アーリヤ王子……!)」
パトリックの向こう隣に座っていたらしいアーリヤ王子が青筋を立て、口角をひくつかせながら話しかけてきた。
「(あ、おい!邪魔すんなよ、アーリヤ!もっといい雰囲気になったら、俺が氷魔法でトリシアの頭を“冷やそう”と思ったのに!)」
後ろの席に座っていたノアが、アーリヤ王子に抗議する。
右手には、氷魔法で生成されたであろう小さな氷の塊が浮かんでいた。
「(アッハッハッ!すまんな、婚約者殿!こいつら、いつもこうなんだ!)」
ノアの隣に座っていたカイルが、腕を組み、小声で大声っぽく笑うという芸当を見せる。
『私は、皆さんの前でなんて大胆なこと……』
急にいたたまれず、両頬を押さえながら、前に向き直るノエル。
「邪魔です、王子。」と言って、王子を払い除けるパトリック。
「素直じゃないなぁ」
笑顔のアーリヤに、
「「アーリヤ……やっぱりお前、気色悪いな。」」と声を重なったノアとカイルであった。
―――
入学式も終わり、教室に戻り、編入してくる者もいるため一人ずつ点呼を取り、自己紹介をしていく。
先ほど座った席順で、名前と何か一言を付け加えていく。
カイル、ノア、アーリヤが終わりパトリックの番が回ってきた。
「パトリック・ブルックス。」
「はい。……“訳あって”皆さんより一つ年下ですが、こちらに編入させていただきました。よろしくお願いします。」
思いっきり王子を睨みつけるが、彼は嬉しさを隠しきれてない笑顔だった。
まさに暖簾に腕押し。
「次、ノエル・ブルックス」
「へ?」
ノエルがパトリックを見る。
満足そうな顔で、ノエルを見た後パチンとウィンクをした。
……笑顔から一変、アーリヤは血涙を流しそうな勢いで、ノエルを睨みつけていた。
ペイジ先生に「どうかしたかい?」と声をかけられたので自己紹介を続ける。
「ノエル……ブルックスになりました。よろしくお願いします。」
顔から湯気が出そうなほど、顔を赤くしてもじもじと自己紹介を済ませ、着席するノエル。
「(どういうことですか、パディ様っ!)」
「(どうせ、あと二年後にはノエル・ブルックスになるんだからいいじゃないですか)」
「(そういうことを言ってるんじゃ……まさか、職員室に寄ったのって……)」
ぎぎぎと効果音が着きそうな動きで、パトリックの顔を見るノエル。
目が合うと、いたずらが成功した子供のような笑顔のパトリックがいた。
「(ノエルの名前が記載されているもの全てを“ノエル・ブルックス”にしてきました!)」
ノエルは、天を仰いだ。
なんてことをしてくれたのでしょう。と。
「僕は認めてないんだからな!いい気になるなよ!」など、色々騒いでいる王子の声も、今のノエルには届かなかった。
―――
生徒の自己紹介も終わりに差し掛かる。
「あれ?もう一人いるはずなんだけど……?」
その瞬間、扉がスパンっと開かれる。
「ノエルが全然来ないから、攻略イベントが始まったのか全然わかんないじゃん!……ごほん、すみません!道に迷ってました!テイラーです!聖女してます!よろしくです!」
仮初の未来にて因縁を持つ二人。
聖女と悪役令嬢。
―――ついに邂逅を果たす。
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