パトリック・ブルックスの登校‐一
王立学園の入学式。
学年が上がった二年生と三年生は、入学式よりも少し早めに登校しろと知らせが届いていた。
学園の制服に身を包むパトリック。
もちろん男子用の制服である。
袖の長さも、裾の丈もピッタリであった。
「お似合いですわ、パディ様……!」
うっとりと頬を染めて、パトリックを見つめるノエル。
「そう?ふふっ、ありがとう。」
パトリックもふわりと微笑む。
そんな二人の柔らかい雰囲気に、パトリックの着替えを手伝っていたメイドたちも、ほっこりしていた。
「ところでノエルは着替えないの?そろそろ時間でしょ?」
心底驚いたという表情で、パトリックに問いかける。
「……私も学園に行っていいんですか……?」
「当たり前でしょ?ノエルはこの家にいるんだから、実家の言う聞く必要はないし。」
「それに……」と照れたように顔を背けて言葉を続ける。
「私だって、一緒に通えるの、少しは楽しみにしてたんだから……」
聞こえるか聞こえないかの小さな声。
しかし、ノエルにはちゃんと届いていたらしい。
嬉しい気持ちでいっぱいになり、思わず頷きそうになる。
だが、その瞬間、ふとあることを思い出す。
「……やはり、今日は一緒に行けません。」
「どうして?」
「私の制服、実家にあるので……」
パトリックとの顔合せを済ませたあの時から、実家には一度も戻っていない。
ブルックス家が居心地がいいのもある。
しかし、一番の理由はエリスの件で、ノエル自身が実家により不信感を覚えてしまったからだ。
下を向くノエル。
「(私だって一緒に通えたらどんなに嬉しいか……)」
上から、なんでもないような声が聞こえてきた。
「あら、そんなこと?こっちで用意してるから、早く着替えていらっしゃい。」
「へ?」
パトリックがそう言うと、指をパチンと鳴らす。
するとメイドたちが制服を持って、どこからか現れた。
「お前たち、時間がないから早めにね。でも私のかわいい婚約者なんだから、それ相応の見た目にしなさい。」
「「「かしこまりました。」」」
その言葉を残し、パトリックは部屋から出ていく。
部屋の中から聞こえたのは「う、うにゃーーーー!!」と間の抜けたノエルの悲鳴だった。
―――
馬車に揺られ二人で登校する。
パトリックが先に馬車から降り、ノエルに手を差し出す。
一瞬、躊躇いはしたものの手を借りて、馬車から降りる。
「(パディ様なら貴族科だろうし、一旦ここでお別れかな……)」
教室と教室を繋ぐ通路で、ノエルが少し名残惜しそうに立ち止まる。
それに気づいたのか、パトリックが振り向きノエルに話しかける。
「私は職員室に寄るから、少し待ってなさい。」
不思議に思い、パトリックに尋ねる。
「(普通科の教室まで、ご一緒してくださるのかしら?……伝わりにくいけど、やっぱり優しい人)」
「でも、パディ様は貴族科ですよね?私は普通科ですし……」
王族や侯爵以上の爵位を持つ者、王国騎士団や王宮魔術団などの、王家に関わることが確定している者が、通常の授業の他に、将来に合った授業を受けられる特別学科。
通称“貴族科”
伯爵以下の爵位を持つ貴族や、貴族の後ろ盾がある平民などが所属している通常学科。
通称“普通科”
爵位を考えれば、パディは貴族科で、ノエルは普通科であった。
ノエルの言葉を聞いてニヤリと笑うパトリック。
「(あ、嫌な予感)」
たらりと額に汗が垂れる。
ノエルがそう思うのも無理はない。
「私の婚約者であるノエルが、普通科なんてそんなわけないじゃないですか。既に学園には話は通してあるので、私と一緒に貴族科へ向かいましょうね?」
有無を言わせない笑顔であった。
「(パディ様も、アーリヤ王子のこと言えないぐらい、余計なことするじゃないですかーっ!)」
パトリックに面と向かって言えるはずもなく、ただ項垂れて「……かしこまりました。」と返事をするノエルだった。
―――
パトリックと一緒に教室に入る。
口から心臓が出そうなくらい緊張する。
左手首を掴もうと手を伸ばす。
「掴むなら、私の手でも掴んでなさい。」
控えめに差し出された手に、勇気を出して触れる。
人差し指が当たったと思った瞬間、手を握られてしまった。
春なはずなのに、顔のあたりと握られている手がひどく熱い。
パトリックが教室の扉をガラリと開ける。
「やっと来たね、パティ!今日から一緒に、学園生活を楽しもうね!……で、その痴女は普通科じゃなかったかな?」
眩しい笑顔をパトリックに見せ、声かけたアーリヤ王子。
ノエルを認識した途端、一気に冷たい表情に変わる。
「なんで手を繋いでいるのかな?僕だって、八歳の誕生日の次の日と、パティを王宮に連れて行った時ぐらいか手を繋いだことないのに!」
「アーリヤ……」
「うむ、なんというか……」
「「気色悪いな、お前。」」
「ノア!カイル!お前たちは僕の味方じゃないのか!?」
王子の挙動に慣れたと思っていたが、今までの言動が氷山の一角だったことに驚きを隠せないノエル。
「相も変わらず、変なことばかり仰ってますね。」と適当に返事を返すパトリック。
“変なこと”で済ます彼女を、さらに驚いた顔で見るノエルであった。
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