表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/63

パトリック・ブルックスの告白‐一


「おはようございます、パトリック様。」

ノエルがブルックス家に来て約二ヶ月が過ぎ、学園の始業式まで一ヶ月を切っていた。

最初は、気まずそうに屋敷ですごしていたノエルだが、最近では執事やメイドたちと楽しそうに話をしていた。

暗い顔をされるより、はるかにマシだ。


「おはよう、よく寝られた?ノエル。」

二人揃って、食堂へと向かう。

席につき、朝食が並べられる。

「そういえばノエル、学園は?」

「……“無駄に教養を身につけるな”と両親に言いつけられてまして……進級テストは受けに行きたいですね。」

“本当は、ちゃんと通えればいいんですけど”

小声だが、パトリックの耳にはしっかり届いていた。

「ふぅん。」

食事に集中してるのか、興味が失せたのかどちらとも言えない返事をするパトリック。


食堂の扉がノックされ、執事が声をかける。

「お食事中失礼いたします。パトリック様、ノエル様、お客様がお見えになっております。」


ノエルと顔を見合せ、首を傾げる。

来客?そんな予定はなかったように記憶していたが……?

「誰が来たんだ?」

少しの沈黙のあと執事が答えた。


「エリス・コールマン、ノエル様の妹君だと仰っておりました。」


ノエルの方を見る。

持っていたフォークを落とし、ぽかんと口を開けていた。

そのあと、ものすごい勢いで首を横に振る。

彼女にも来訪の手紙を寄越さなかったらしい。

右目の目尻がぴくりと動く。

――ノエルの実家連中は、つくづく私の神経を逆撫でするのが、お上手だこと!

もしかして、私を心労で倒れさせたいのかしら!


「わかった、すぐ準備するから客間にお通しして。」

「かしこまりました。失礼いたします。」

「ノエルも一緒に来てくれる?」

「もちろんです。」


さあて、どうやって“立場”というものをわからせてあげましょうか。


……ノエルがパトリックの顔を見て小さく悲鳴をあげた。


―――

「もう!こんなに待たせるなんて!おかげでお茶を二杯おかわりしちゃいましたあ!」


ひくりと右頬が引き攣る。

私に向かってノエルが小さく「すみません」とぺこぺこと頭を下げ続けている。


「……失礼した。こちらも、突然の訪問で準備に少々、手間取ってしまってね。」


務めてにこやかに返す。

「“朝食の時間に来るな、せめて事前に連絡をしてから来い”」という意味を込めて。

相手がその真意に気づくかどうか……

ノエルが青い顔をしながら、胃のあたりを押さえている。

彼女はわかったらしい。


「まあ!まだ寝巻きでしたの?ぐうたらしたら、メッですよお!」


こめかみからピキっと音がした。

どうやらエリスには、ほんの少しも伝わらなかったらしい。

……ノエルは頭も押さえだした。

控えていた執事に水を頼み、懐から何かを取り出し飲み込んだ。

薬を常備していたようだ。


「アハハ、申し訳ない。寝不精なものでね。ところで、朝の支度も終わらぬこんな時間に、一体どうしたんだい?」


含みを持たせてもどうせ理解できないのなら、このぐらい毒を吐いてもわからないだろう。


「何回も何回も、お手紙を差し上げているのに、お返事がないから、催促しに行きなさいとパパに言われて来ましたあ!」


……“建前”というものを教えられてないらしい。

ノエルだけではなく、控えてる執事も私の怒気に怖気付いてるというのに……エリスには通じないらしい。

面倒だな。

怒りのせいか、膝の上で組んだ手に力が入る。

ノエルなんて青い顔を通り越して、土色になっている。

……夕食では胃に優しいものを用意するように、料理長に言っておこう。


ずっと右頬が引き攣りっぱなしである。

……以前から『結納金はまだか!毎月の仕送りはどうなっている!?』という手紙を再三受け取っていた。

その都度『結納金は嫁入り道具で全て消えたし、毎月そちらに仕送りをするほど、金に困窮してないだろ』を、最初は“優しく”返事をしていたが、

『家具ごときで結納金が消えるものか!ネコババしてるんだろ!生活は困ってないが、より豊かにしたいから金をくれ!』の応酬が続いていた。


常識があるなら、『娘と婚約していただき感謝する』くらいの文言があってもいいはずだし、

良識があるなら、上の階級貴族に金銭をせびるなんてことはしないはずだ。

実家連中こいつらの頭の中には何が詰まってるんだ?もしかして、何も入ってないのか?


「……何回も返事を差し上げていると思いますが?」


「それは“お断り”のお返事じゃないですか!“送金しますね”のお返事が欲しいんです!」


私まで頭が痛くなってきた。

何を言ってるんだ、こいつは。

……一周まわって、頭がいいのかもしれない。

すぐにでも学園に入学することをオススメしたい。

いやでも、義妹エリスの先輩になるのは嫌だから、やっぱり入学しなくていい。


「というかあ、お姉様……お顔傷だらけじゃないんですね?なんなら、家にいた時よりも髪がパサついてないし、お洋服もキレイ……ずるい、ずるい、ずるい!お姉様ばかりずるいですわ!!」


エリスがノエルをじろじろと観察し始める。


「(――ドレスに、アクセサリー。それに私が元いた部屋だって全て“ずるい”で奪っていって……それでもまだ、足りないの?)」

悲痛な面持ちで、左手首をぎゅっと握るノエル。


顔に傷……?何の話しだ?

ノエルに視線をやる。

「こちらに来る前に、パトリック様の“別称”を父から教えられて……」と小声で教えられた。

“黒き茨”の悪名を聞きかじっていたのか。

なんだか呆れて、ため息しか出てこない。


「“ずるい”も何も、ノエルは私の婚約者になったんです。当然の権利を享受してるだけですよ?」


それでも尚、ブーブーと文句を言うのを止めないエリスは、「いいこと思いついたあ!」と、手をポンと叩く。


「婚約者を取り替えっこしてあげても良いですよ!エリスがブルックス家に嫁いであげて、お姉様がお家に戻る!うん!そうしましょ!」


「……ノエル。」

「はい、パトリック様?」

「先ほど飲んでいたのは薬か?私にもくれ。」


言葉はわかるのに、話ができない。

今まで相手にしてきた人たちは皆、人間だったんだな。と、しみじみ痛感する。

これのお守りをさせられていたとか、ノエルに同情を禁じえない。

小さく息を吐き、口角を上の方に固定する。

これで笑っているように見えるだろう。



星、評価、レビュー、感想を教えもらえますと大変、喜びます!

励みにもなるので、どうかよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ