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アーリヤ・ガルシアの初恋‐四


「迎えに来たよ、パトリック!」


朝から爽やかな笑顔でパトリックを迎えに来たアーリヤ。

対照的にパトリックはまだ、寝ぼけていた。


「……王子の馬車で行くんですか?そのまま王城に閉じ込められたりしませんか?」


「その手があったか。」


パトリックは無言で扉を閉めようとする。

アーリヤは慌てて「冗談だよ、冗談!」と扉の間に足を差し込む。

「本当に王城に閉じ込められたら、無理やりにでも逃げ出して、二度と会いませんから。」

彼女に釘を刺され「……はい。」と少し落ち込んで返事をする。


パトリックをなんとか馬車に乗せ、王城に着く。

王子がパトリックの手を引き、「こっちだよ」と中庭の方へと案内する。

そこには、長身でプラチナブロンドの青年と、胸当てを付けた初老の男性。

その他に同い年くらいの男の子が二人いた。


「師匠!師範!すまない、待たせたか?」


王子が手を挙げ、大人たちに挨拶をする。


「お気になさらずアーリヤ王子、我々も今来たところですよ。なぁ?」

「おうとも!こちらもたった今、合流したところだ!」


師匠と呼ばれた青年がにこっと笑い、師範と呼ばれた初老の男性をちらりと見て同意を求める。

「して、その後ろにいる子が王子のお気に入りかな?」

師匠に人好きのする笑顔を向けられたパトリックは、一歩前に出る。


「パトリック・ブルックスです。今日は特別授業を見学させていただけると聞いてまいりました。よろしくお願いします。」


爽やかに笑い、首を少し傾けるパトリック。


「(あ〜〜僕のパティが世界一かわいい!そんなかわいい顔をしていたら、危ない人とかが寄って来るんじゃないだろうか?……朝、パティが言った通り、もう家に帰さない方がいいのかも……)」


パトリックに『二度と会わない』と言われたことも忘れ、王子は心の中で大暴れしていた。

『パティの嫌がることはしたくない』派閥と『自室にずっとパティが居てくれたら嬉しいだろ』派閥が勢力争いをして、後者がやや優勢である。


「お若いですね、ケンダル師匠。」

「エルフだからのぉ。」

「レオニール師範は人間種ですよね?」

「そうだ!しかし、爺さんが狼男でな、だからこんなに毛深いんだ。ガッハッハッ!」


王子が一人考え込んでいるうちに、パトリックは元魔道士の師匠と、元騎士団団長の師範の名前を尋ね終わっていた。


「ところで、ケンダル師匠とレオニール師範の後ろにいるのは、お弟子さんたちですか?」


パトリックは、大人二人の後ろに隠れるようにいた男の子たちに声をかける。

ケンダル師匠やレオニール師範に「挨拶をなさい」と促され、男の子たちはおずおずと前へ出る。


「……ノア。」


ケンダル師匠の後ろにいた子は、名前を言うだけだった。


「カイルだ、よろしく!」


レオニール師範が「俺の息子でもある。」と付け足す。

パトリックが「よろしく」と口を開く前に、ノアが声を出す。


「お前、女のくせに男みたいな格好してるな。変なの。」


カイルが「えぇっ!?女の子だったのか!」とノアとパトリックを交互に見る。

“変なの”

その言葉を聞いて、アーリヤがパトリックの前に出る。


「“変”とは、どのあたりが、どのように、どんな風に変なのか説明してくれるかな?パティは天使のようにかわいくて、キラキラで、ドレスも紳士服も着こなす、最強で最高にかわいい子なんだよ?」


「王子……回りくどいので、わかりやすく仰って?」


「僕のパティが、変なわけないじゃないか!!」


「私は、王子のじゃありません!」


勢いで言ったら『アーリヤ王子、素敵!』と、パトリックが言ってくれるのではないかと、淡い期待をしてしまったアーリヤ。

王子に「元気出せって!」と慰めるカイル。

ノアは王子を指さして「たまに会うけど、王子ってこんな感じなの?」とパトリックに尋ね、

パトリックは声を出さず、少し渋い顔をしてコクリと頷いた。


自己紹介も終わり、授業に移る。

ケンダル師匠がノアに「前回のおさらいだ。」と言って、水でできた球を空中に作り出すよう指示する。

少し長めの呪文を唱え、小ぶりな水の玉を作るノア。

それをきらきらと尊敬の眼差しをノアに向けるパトリック。

真似てみるも、水さえ出てこない。

「……フッ、初歩中の初歩できないのかよ。」

鼻で笑うノア。


――ペチンッ


何をされたのか理解ができず、呆然とするノア。

同じく何が起こったのかわかっていないアーリヤとカイル。

ノアの頬を叩いたのは、パトリックだった。


「長ったらしい詠唱をするより、こっちの方が早いわね。」


「なんだと!?」と掴みかかろうとするノア。

それを止めるカイル。

ふんっとそっぽを向くパトリック。

「叩いたらダメじゃないか!パティの手が怪我したらどうするんだ!」と彼女の心配をするアーリヤ。

大人たちは苦笑いをし、ノアには「人を馬鹿にしてはいけない」、パトリックには「人を叩いてはいけない」と注意する。

そして、喧嘩両成敗としてノアとパトリックの二人にたんまりと宿題を出した。


―――


王子とパトリック。

それからノアとカイルが知り合ってから九年が過ぎ、王子とノア、それからカイルは二年生になろうとしていた。

三年生が卒業して、賑やかさが欠けた学園の中。

授業の中休みに、一人の少年が王子の前の席に座る。

少し離れたところから、女生徒がそわそわ小声で話し出したり、ちらちらと視線を向ける。


「アーリヤってば、まだトリシアに結婚迫ってるの?」


気だるく話しかけてきた、水色の髪色で、目元までかかる長い前髪だが、そこから見え隠れする顔は、イケメンなのを隠しきれていない少年は、最年少で魔道士になることが約束されたノアだった。


「本当もの好きだねぇ。あんな男女のどこがいいんだか……」


「そういえば、前から気になってたんだが、なんでノアはパットのことを“女性名トリシア”呼びしてるんだ?」


横から現れたのは、ワインレッドの髪色に、頼もしそうな雰囲気を漂わせる精悍な顔立ちのイケメンは、日夜アーリヤ付きの騎士になる為に、鍛錬を欠かさないカイルだった。


「そんなの決まってるだろ?あいつの嫌がる顔が見たいからだよ。」

「……ノア、あんまりパティをいじめないでくれ。」

太陽の光を纏わせた銀髪に、空よりも深い青色の瞳が、にこりとノアに釘を刺す。


「パティが気にしてないから受け流しているけど、実は僕、良い気はしてないんだ。」


笑っていると思った瞳は、全く笑っていなかった。


「「(おー、こわ。)」」

「わ、悪かったよ、アーリヤ。」


少し離れたところにいる女生徒たちは、「ノア様、今日もかっこいいわ!」「カイル様のたくましい腕に抱きとめられたい……」

「アーリヤ王子の婚約者ってまだ決まってないんでしょ?」「立候補したいわ!」「私も!」

などなど、自身の理想を話していた。


数人の男子生徒が王子の机の横を通り過ぎ、一人が畳まれた紙をそっと置く。

紙を開いて目視した途端、ガタッと席を立つ。


「どうしたんだ?アーリヤ。」

「パティの入学手続きが済んだらしい。」

「それで?」

「校長室に行ってくる。」

「なんでだ!?」

「入学して即二年生にしてもらえるように、話し合いをしてくる。」

「昔からトリシアが絡むと、頭がアホになるのやめろ!カイルもなんか言ってやれ!」

「パットとすぐ一緒に学園生活を送れるのか?いいな!俺も着いていこう!」

「バカ!この、馬鹿ども!……おい待てって!」


アーリヤのあとをついて行くカイル。

冷静になれと引き止めつつも、二人のあとを追うノア。

この後、三人が校長に懇願、脅迫、 説得をして、ついにパトリックの『一学年の授業内容終了証明書』をもぎ取った。

アーリヤは颯爽と「パティに渡してくる!」と二人を置いて、その足でブルックス公爵家に出向く。

その道中、王子お抱えの“影”が馬車の中で『パトリックが婚約者を探している』という情報をアーリヤに伝える。

「やっと僕の婚約者になってくれるのか!」と弾む胸の高鳴りを押さえつつ、上機嫌になるアーリヤだった。


……今の満面の笑みが、数分後に曇ることをアーリヤはまだ知らない。



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