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アーリヤ・ガルシアの初恋‐三


夕暮れより少し前、アーリヤは帰りの馬車に揺られていた。


『謹んで―――』


パトリシアからの返事を噛み締める。


『お断りいたします!』


アーリヤの背中は、哀愁を漂わせていた。


『私は、パトリック・ブルックス。男児になったので、王子とは婚約できません!でも、お友達にはなりましょう。お勉強会とかしてみたいです!』

そう言われてから、王城へ戻る記憶が一切なかった。


『それに、私は未来を変えたいんです。』


そんなパトリシアの言葉は、アーリヤには届いていなかった。


―――

昨日の落ち込みようを見て、両親はいつになく心配をしてくれたが、諦めきれないアーリヤは、次の日もブルックス家を訪れる。


「ごきげんよう、アーリヤ王子。昨日の今日でまた、いらしたんですか?お父様含め、屋敷の者全員てんやわんやしてますよ?」


昨日と同じく客間に通され待っていると、パトリシアもといパトリックが扉から現れる。


「ごきげんよう、パトリック。」

昨日より落ち着いているが、やはり彼女を前にすると緊張してしまう。

椅子から立ち上がり、忘れないように頭で繰り返していたセリフをパトリックに捧げる。


「君の白い肌に傷を付けた自分がどうしても許せない……どうか責任を取らせてほしい。」


今、巷で人気の恋愛小説らしい。

僕には面白さがよく分からなかったが、メイドから借り、一晩かけて読みきった。

パトリシアはきょとんと首を傾げた。


「もっと、わかりやすく仰って?」


「……婚約してください。」


「お断りします!」


間髪入れずに断られ、がくりと肩を落とすアーリヤ。

流行りの小説の名ゼリフでも、彼女は心変わりをしてくれないらしい。

「そんなことより」とパトリックがアーリヤの横に座る。


「また、お勉強教えてください!お父様の教え方って、わかっている人向けの説明で、いまいちよくわからなかったんですけど、王子の説明はとてもわかりやすかったので、お願いします!」


テーブルの上に勉強道具一式を広げ出すパトリック。

「ここで勉強するのかい?」

「だって王子が、誰にも何も言わないで消えたら、それこそ大騒ぎになるじゃないですか。」

「それもそうか。でも今日、勉強道具持ってきてないんだよね。」


『何しに来たんだろう』という顔をされて、思わず言葉が詰まるアーリヤ。

再度、婚約の提案をしに来た。と、言ったら『じゃあ、もう用事は済みましたね』と言われる想像ができてしまい、ぶるりと身体が震える。


―――

次の日も、更にその次の日も。

小説の言い回しであったり、物語の言葉をを少し変えたセリフでパトリックに愛を捧げ続けるアーリヤ。

三日目に『私の悪評を知らないんですか?』とパトリック本人に言わしめた。

文字通り“毎日”のようにブルックス家に顔を出すようになり、最初の頃は王子が来訪する度にバタバタと忙しなかったが屋敷の中が、今では「パトリック様ならお部屋ですよ」と軽く挨拶をする程度になっていった。


……彼のすごいところは、悪評を調べ上げ、全容を知りながらも、彼女へ求婚をし続けていることだ。


―――

「ごきげんよう、パティ。今日こそは、君の頬の傷跡に触れる権利を僕にくれないか?」


「ごきげんよう、アーリヤ王子。顔の傷?何を仰ってるんですか、もう跡さえも残ってないですよ。」

「(……夢の中の王子が『跡さえない』って言ったんじゃないですか)」


アーリヤがパトリックに求婚し続けて、早数ヶ月が経とうとしていた。

彼女が、王子の口説き文句を華麗に躱すのも慣れた頃である。

「勝手に愛称で呼ばないでください。その愛称で呼んでいいのは、お父様と私と添い遂げる方のみです。」

「なら、ブルックス公爵と僕だけだね!」

「なんで王子は、こういう時だけ会話できないんだろ。」


王子用に増築された客間で、アーリヤとパトリックは今日も予習復習をしたり、他愛のない話をしていた。

一息つき、アーリヤは思い出したようにパトリックに話しかける。


「たまには、王城の方に来てみないかい?」


「え、“きせいじじつ”を作るおつもりですか?」


「よくわかったね。……嘘だよ。そんな警戒しないでよ。」


自身の身体を抱きしめ、疑いの目でアーリヤを睨むパトリック。

本当に何もしないという意味を込めて、両手を上げ、首を横に振る。


「特別授業で、元魔道士の先生と元騎士団団長が来てくださるんだ。貴重な体験だからパトリックもどうかと思って……」


目を開け、パトリックを見ると、期待に満ち溢れて、きらきらと輝く赤い瞳と目が合う。


――なんて、キレイな瞳なんだろう。

口に含んだら怒られるだろうか?


「王子?どうかなさいました?」


不思議そうな顔でアーリヤの顔を覗き込むパトリック。

その声で、ハッとする。

いけない、さすがに口に含むのはマズイ。

せめて婚約してからだよな、と自分を納得させるアーリヤ。


「それで、一緒に授業を受けてみないか?」

「……お父様に了承をもらってきますね!」


ガタッと立ち上がり、バタバタと部屋から出ていくパトリック。

先ほどまで警戒していたのに、特別授業を受けてみたいという気持ちに天秤が傾いたらしい姿に、愛おしさを覚える。

かわいい。

抱きしめたい。

……婚約もしてないのに、少し性急すぎるかな。

色々と考えていると廊下の方から、タッタッタッと走ってくる音がする。

そのままの勢いでガチャっと扉が開く。

同時に、「許可もらってきました!」と少し肩で息をするパトリックが戻ってきた。


かわいい。

おそらく『かわいい』という言葉は彼女のためにある言葉なんだろう。

アーリヤの頭は、パトリックのかわいさを認識するしかできなくなっていた。



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