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パトリック・ブルックスの今世‐二


ノエル・コールマン嬢から返事がきた夜。

手紙の内容に目を通し、無意識に左の口角だけ引きつってしまった。

要約すると、

『婚約の申し出ありがとうございます。結納金はたくさん欲しいです!あと、私と結婚した後も、私の実家に毎月、資金援助してください!そちらの特産のものを、安く買わせてください!』


そのような要求を、やけに古めかしい書き方で綴られていた。

――なんて“情熱的”で、反吐が出そうな素直すぎるお手紙なんだろう!

これを書いた奴は、恐れを知らないのか。

もしや、知ってて私にこれを送れるような、才能溢れる御仁なんだろうか。

全くもって、理解不能である。

……しかし、わかることが一つある。


「……わたくしを馬鹿にしたわね。」

ぽつりと、久しく口に出てない一人称を吐き出す。


『不利益がない、もしくは少ない』と指定していたはずなのに……と少しぼやくパトリック。

もう一度、手紙に目を向ける。

不利益がないと指定していたのは、あくまで『令嬢』であって『家族』は指定していなかったと思い返す。


とにかく考えられそうな可能性は、三つ。

一つ、パトリックに対する挑戦状。

一つ、ノエルの家族の誰かが、彼女を貶めるためにこれを書いた。

もう一つ、ノエル嬢の頭が、あまりにも弱すぎた。


最初の『挑戦状』は、なくもない話だ。

しかし、私が領地経営を手伝いだしてから、農産物なり事業なりは、かなり大きくなっている。

それを踏まえての挑戦状ならば、“強か”であると認めよう。

……王家とも懇意にしていることも、わかっていてこれなら愚者とも言えるが。


最後の『頭が弱い』も除外していいだろう。

直属の部下は、私が手塩にかけて育ててきた者たちだ。

初歩的なミスをするとは考えづらい。

まあ、ミスだとしたら、死んだ方がマシだと、思えるくらいの罰を与えるだけである。


残るは、ノエル嬢の家族の誰が、彼女貶めようとしている。

一番、可能性が高いと思っている。

しかし、報告書を見る限り、可もなく不可もなく平凡な娘を貶める必要が、どこにあるのか?

理解に苦しむ。

思わず、頭を捻る。


パトリックは知らない。

はたから見て平凡でも、それよりも劣っているからこそ、足を引っ張ろうとする輩がいることを。

しかもそれを、無自覚に行ってしまうことを。

自分と同じ、もしくは上の人間の弱点を握り、地べたに這いつくばらせる方が、利益になると考えているパトリックからしたら、不思議な話である。


「……とにかく、どの可能性であったとしても、対処できるようにしておきましょう。」

そう呟くと、パトリックは、机に置いてあった小さな呼び鈴を、チリンと鳴らす。


「お呼びでしょうか。」


どこからともなく声が聞こえる。

気にする素振りも見せず、言葉を続ける。


「ノエル・コールマン及び、その家族の周辺も洗いざらい調べろ。」


「かしこまりました。」


先ほど答えた声とは違う声が聞こえた。

優秀な部下たちは、さっそく夜に紛れ、情報収集へと向かった。


「いま動けるのは、二人……いや三人ってところか。まあ、裏に何かしらないのなら、十分でしょう。」

ふぅと息をつき、手紙に視線を移す。

“燃やしてしまおうか”

―――パトリシアであった幼少期なら、感情のままに激怒し、手紙をビリビリに破いていただろう。

ランプの灯に手紙を近づけて


……やめたと言わんばかりに、手紙を机に放る。


この手紙は、まだ“使える”と判断したからだ。

挑戦状ならば、『私を舐めたような、手紙を寄越したことを、後悔させてやる』

という意味合いを込めて、部下が掴んでくるであろう弱みと共に、ねちねちと嫌味を言ってやろう。


ノエルの家族が馬鹿で、ノエルがまともなら、『お前の家族は正気か?こんな返事をするなんて!』

といった風に指摘し、相手の条件を全部却下した後に、うちの条件だけを飲ませることにしよう。


ノエルの頭が弱いのなら……

お飾りの妻だとしても、これは酷い。

他の候補の中から、選び直すことにしよう。

そして、顔合わせの時に、『ここは、どういうつもりで書いたんですか?』と冷たい笑みで、問いただしてやろう。


計画を立てて、自分の怒りを少し鎮める。

何がどう転んでも、全部、私の手のひらの上なのだから!


後日、ブルックス家のメイドたちの間で、『屋敷に、本物の悪魔が出た』と噂が出回ったという。


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