LV 2
テレポートした先は、旭山のふもとだった。目の前には、うっそうとした草木が茂っているのが見える。
「ここがこの世界の『旭山』なのね」
「動物園は何処でゴザルか?」
山を見上げながら、弓枝とタリーが話をしている。
「残念ながら、この世界に旭山動物園は無いよ。まぁ、いつか誰かが作るかもしれないけどね」
「さてと、早速その野犬のボス『熊狩りのポチ』とやらを退治しに行こうぜ」
「そうだね。多分、頂上を目指していけば見つかると思うけど……」
「危ない!」
突然、静香が叫んだ。と同時に、飛鳥の背後にある草むらから何かが飛び出し、飛鳥に襲い掛かった。それは、野犬だった。野犬のステータスが画面に表示される。
■モンスター名 野犬
■モンスターLV 3
■HP 不明
■攻撃力 10
■守備力 10
■敏捷性 50
■守護漢字 『牙』『爪』
■特徴 素早いので攻撃が当たりにくい。
「飛鳥!」
「うわああっ! た、助けて!」
いきなりの野犬の先制攻撃に、パーティは恐慌状態に陥った。
飛鳥の上に圧し掛かった凶悪な野犬は、鋭い牙を剥き出しにして飛鳥に噛み付こうとしている。
「このっ!」
健一郎が野犬の背後から木刀で殴りかかった。だが、野犬は素早く反応すると、飛鳥から離れる。勢い余った健一郎の攻撃は、倒れていた飛鳥に当たった。飛鳥の頭上に『2ダメージ!』と表示される。記念すべき初ダメージは、オウンゴールだった。
「どうやって攻撃すればいいの?」
「野犬にマウスを合わせて、クリックするんだ!」
健一郎が、さっき咄嗟に取った行動を皆に伝える。
頷いた弓枝と静香は一斉に弓で攻撃した。だが、素早い野犬は鮮やかにその攻撃をかわしていく。
「駄目だわ、攻撃が当たらない!」
「ここは、僕に任せて」
クラクラする頭を抑えながら、飛鳥が前に出た。
「おいおい、大丈夫かよ」
「さっきはいきなりの攻撃で驚いちゃったけど、まぁ見ててよ」
そう言うと、飛鳥が念じ始める。すると、その頭上に『不』の文字が浮かびあがった。
「そう言えば、僕の守護漢字をまだ教えて無かったね」
続けて、飛鳥の頭上に別の文字が浮かび上がった。
「僕の守護漢字は『動』なんだ。くらえっ! 『不動』の術!」
そう飛鳥が叫んだ瞬間、画面中央にウィンドウが表示された。
■不動の効果
対象キャラクターの動きを封じる。
ウィンドウが閉じた瞬間、野犬の体に鎖が巻きついたようなエフェクトが出現し、そのまま野犬はピクリとも動かなくなった。
「今だ、みんな!」
「よっしゃ!」
飛鳥の号令の元、健一郎達は動かなくなった野犬に向かって一斉攻撃を仕掛ける。十ポイント近くのダメージを与えた所で、野犬は倒れた。その直後に、リザルト画面が表示された。
■EXP 3P
■パーティ報酬 5G
■取得熟語 犬人形
「やったあ!」
弓枝が嬉しそうにガッツポーズをする。
健一郎は、飛鳥に向かってグッジョブと親指を立てた。少々手こずったが、初戦闘は飛鳥のおかげで勝利で終える事が出来た。
「ところで、取得熟語の欄に書いてあった『犬人形』って何だ?」
「これ……」
首をかしげる健一郎の下に、おずおずと静香がやってきて手に持つ物を差し出す。それは、犬の形をした人形だった。
「さっき、作ったの……」
「さっき作った? 一体どう言う事だ?」
「そうか! そう言うことか!」
突然、健一郎の背後で飛鳥が閃きのポーズを見せた。
「もしかして、静香ちゃんは『野犬』と熟語を作ったんじゃない?」
飛鳥の質問に、静香がコクリと頷く。
「なるほど、これは凄い発見だよ!」
「どう言う事よ? 一人納得してないで、説明してくれない?」
『?』マークを出す弓枝達に、興奮した様子で飛鳥が説明する。
「ようするに、モンスターとも熟語を作る事が出来るって事だよ。静香ちゃんは野犬の名前に含まれる『犬』の文字を使って、戦闘中に『犬人形』と言う熟語を作り出したんだ」
「マジか! そんな事も出来るのかよ!」
驚く健一郎に飛鳥が頷く。
「静香ちゃんの持っているこの人形が、紛れも無いその証拠だよ。なるほど、戦闘はただ戦って経験値を得るだけじゃなく、熟語を作るチャンスの場でもあるんだね」
「なるほどな。凄い発見だぜ静香。お手柄だぜ!」
健一郎は静香の頭をナデナデした。静香は照れ臭そうに頬を染めた。
その後も、山頂を目指している間に何度か野犬の襲撃を受けたが、飛鳥の『不動』の言霊で洋一達は何とかピンチを切り抜けていった。
「もうすぐ頂上って書いてあります……」
道の脇に立てかけてある看板を指差しながら、静香が言った。
恐らく『熊狩りのポチ』はそこに居るに違いない。だが、健一郎達も野犬との戦闘を繰り返しているうちにLVは1から3まで上がっており、基本ステータスも上昇している。野犬にも『不動』の言霊を使わなくても、三回に一回くらいは攻撃が当たるようになっていた。
「よし、このまま殴り込もうぜ!」
「ちょっと待って」
飛鳥に呼び止められ、意気込んでいた健一郎は思わずズッコケる。
「なんだよ、せっかくノリノリだったのによ!」
「まぁまぁ、ちょっと聞いて欲しい事があるんだ」
神妙な顔つきをした飛鳥が皆を集合させる。
「さて、このまま行けば恐らく次はボス戦になると思うんだけど、ここで、一旦みんなで協力して熟語を作らないかい?」
「熟語を?」
「うん。恐らく、みんなは後一つか二つくらいで言霊図鑑のLVが上がるだろ? そうすれば、新しい守護漢字が手に入るから、パーティの戦力が底上げされると思うんだ」
「それは良い考えね」
弓枝が頷く。
「よし、じゃあ手分けして熟語作成に入ろう!」
「了解!」
飛鳥の号令の元、健一郎達はそれぞれ協力し名前と守護漢字で熟語作成に入った。結果は以下の通りだ。
■草壁健一郎 ■守護漢字 木、? ■言霊図鑑LV2
■取得熟語 【木刀】【木星】【石壁】
■石山多利上門 ■守護漢字 刀、? ■言霊図鑑LV2
■取得熟語 【木刀】【山鳥】【石弓】【石壁】
■不知火飛鳥 ■守護漢字 動、? ■言霊図鑑LV2
■取得熟語 【山鳥】【不動】【火矢】
■風切 弓枝 ■守護漢字 矢、? ■言霊図鑑LV2
■取得熟語 【石弓】【火矢】【矢風】
■形代 静香 ■守護漢字 人、? ■言霊図鑑LV2
■取得熟語 【人形】【犬人形】【形代】
「よし、みんな辞典LVは上がったかな?」
「おう、こっちは準備OKだぜ」
「拙者もLVが上がったでゴザル」
「私も……」
「こっちもよ。とりあえず、皆が得た新しい守護漢字は次の戦闘でお披露目するって事にしない?」
「異議なし!」