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LV 1

 その日の夕方。帰宅した洋一の携帯にメールが入った。慶子からだった。

「旭川広場で待っているよ(^0^)」

 もう帰ったのか。早いな。

 部屋に行く途中、居間に立ち寄り冷蔵庫からオレンジジュースを取り出す。

 さーて、今日こそ冒険に出かけるぞ!

 一気にオレンジジュースを飲み干し、洋一は勢いよく冷蔵庫のドアを閉めた。

「あ、お兄ちゃん。お帰り」

「おう、ただいま」

 台所を出ようとした所で、妹の雪菜と出会った。

 雪菜は、脇をすり抜けようとする洋一を通せんぼするかのように、大きく手を広げ立ち塞がった。

「お兄ちゃ~ん。ちょっと聞きたい事があるんだけどさ」

「わりぃ。ちょっとやらなくちゃならない事があってさ。また、後でな」

「あ、お兄ちゃん!」

 雪菜の脇をすり抜け、洋一はその場を立ち去る。

 雪菜は、またぷぅと頬を膨らませていた。

 部屋に戻ってログインすると、旭川広場には四人のキャラクターがいた。飛鳥とタリー、そしてニューカマーの女の子キャラ二人だ。

「遅いよ。私、待ちくたびれちゃったよ」

 青いポニーテールの髪型をした、女キャラクターが腕に腰を当ててプンスカしている。恐らく慶子のキャラクターだろう。その後ろには、隠れるようにして佇む緑のボブカットの子がいた。分かりやすい、これは美香だな。

「とりあえず自己紹介するね。私の名前は『風切かざきり 弓枝ゆみえ』。守護漢字は『矢』でーす!」

 青髪のキャラがピョンピョン跳ねながら、元気一杯に自己紹介をする。

「私の名前は『形代かたしろ 静香しずか』です。守護漢字は『人』です。よろしくお願いします」

 弓枝とは正反対に、身動き一つせず、たどたどしく緑髪のキャラが自己紹介した。チャットの打ち込みも遅い。どうやら、パソコン自体にあまり慣れていない様子だ。

「二人は、熟語とか言霊辞典の事とかは、もう知っているんだよね」

 飛鳥の質問に、弓枝は親指をグッと立てた。

「当然じゃない、基本よ基本!」

 静香も頷く。どうやら、俺達が知っている情報は二人も知っているみたいだな。

「じゃあ、今日はせっかく五人も揃ったんだし、冒険にでかけようか」

「待ってました!」

 飛鳥の提案に、洋一は興奮気味に鼻を鳴らす。

 RPGと言えば、冒険。冒険と言えば戦闘! 早くバトルがしてぇ! もうこんな勉強会は飽き飽きだぜ!

「と、その前に、パーティ登録だけしておこうか」

「パーティ登録?」

 飛鳥が頷く。

「あらかじめパーティ登録しておくと、仲間の所在地を知ったり、言霊の効果をパーティ全体に及ぼす事が出来るんだ。色々便利だからしておこうよ」

「どうやればいいの?」

 弓枝が首をかしげる。

「まずは、パーティのリーダーを決めるんだ。誰がいいかな?」

「飛鳥でござろう」

「え? 僕?」

 思わぬタリーの言葉に、飛鳥が驚く。

「俺も飛鳥が良いと思うぜ。色々と物知りだしな」

「私もいいよ」

「私もそれで良いと思います」

 みなの視線が一斉に飛鳥に注がれる。

 飛鳥の体に、焦ったような汗のエフェクトが表示された。

「……本当に僕でいいの?」

 マイクで宏が自信無さげに、洋一に話しかけてきた。

「何言っているんだ。お前は誰よりもゲームに詳しいんだからさ。もっと自分に自信を持てよ。俺は、お前がリーダーに適任だと思うぜ」

「わ、分かった! 僕、頑張るよ!」

 画面の飛鳥がペコリとお辞儀した。

「よ、よろしくお願いします!」

 タリーと弓枝がパチパチと拍手する。健一郎と静香は操作が分からないので仁王立ちだ。

「パーティ登録の前にさ、キャラクターのアクションってどうやるのか教えてくれよ」

「えっとね、画面の右上のアイコンの中に、ニコニコマークが無い?」

「はいはい、これね」

 アイコンをクリックすると、色んな動作を示したアイコンが表示された。

「なるほど、これを使って表現する訳だな」

 洋一は試しに、電球マークのアイコンをクリックした。すると、画面の健一郎がハッと気がついた表情になり、続けて手をポンと叩いて頭上に電球マークが現れた。どうやら、閃きを表現するアイコンらしい。

 他のアイコンも色々クリックすると、あれほど無表情で無感情だった健一郎が、めまぐるしく動き出す。一応クールな性格のキャラクター設定だからな、あまり使うのもイメージダウンだ。気をつけよう。

 見ると、他のキャラクターも色んな動作をしている。タリーは、何のアイコンをクリックしたのか知らんが、切腹の動作をしていた。

「さて、動作についてはこれくらいにして、パーティ登録の説明を始めるね。まずは、僕がリーダー登録をするよ」

 飛鳥がビシッと敬礼のポーズをする。すると、飛鳥の頭上に小さく『隊長』の文字が現れた。

「じゃあ、次はみんな僕をクリックしてみて」

 言われるがままクリックすると、ウィンドウが表示され『飛鳥隊の隊員になりますか?』と言うメッセージと『はい』『いいえ』が表示された。洋一は『はい』を選択する。すると、画面の健一郎がビシッと敬礼ポーズをした。続けて他のキャラクター達も、ビシッと敬礼ポーズをする。

「これで、私達は飛鳥隊の一員になったって訳ね」

「そう言う事。みんな、ヨロシクね」

「リーダーの名前が隊名になるんだな。だったら、俺が隊長になれば面白かったのに」

 タリーがポツリと呟く。

 タリーの名前は『多利上門』。もし、タリーが隊長になっていたら、隊の名前は『多利上門隊』になっていた訳か。面白過ぎるが嫌過ぎる。タリーが変な気を起こす前に、飛鳥が隊長になってくれて良かったぜ。

「よし。じゃあ最初はクエストでも受けてみようか」

「クエスト?」

 静香が首をかしげてる。

「ネットゲームでは結構当たり前にある物なんだけど、ようは依頼人からの頼みごとをクリアして報酬をもらうって事だよ」

「その依頼人は何処にいるんだ?」

 洋一の質問に、飛鳥は噴水の前にある売店を指差した。

「どの町の広場にも、必ずあの売店がある。あそこでは、手に入れた物を売ったり買ったり出来る他に、クエストを受ける事も出来るんだ。早速行ってみようよ」

 飛鳥を筆頭に、売店の前まで移動する。

「じゃあ、試しに売店をクリックしてみて」

「おう」

 売店をクリックすると、優しそうな顔をしたおばちゃんが顔を出した。

「いらっしゃい。今日は何のようだい?」

 すると、画面にメニューが表示される。『売りたい』『買いたい』『クエスト』と書いてあった。

「じゃあクエストを選んでみて」

 言われるまま選ぶと、今受けられるクエストの一覧が表示された。

 何種類かのクエストが表示されたが、一番上の『野犬退治』以外は、灰色表示されている。どうやら、それ以外のものは今は受ける事が出来ないようだ。洋一は、『野犬退治』を選んでみた。すると、画面にクエストの詳細が表示された。

 

 ■クエスト名 野犬退治

 ■受注資格  言霊図鑑LV1以上

 ■報酬    100G

 ■内容

 旭山に出没する野犬を退治して欲しい。

 野犬は群れを成して襲ってくるから、決して一人では行かない事。

 野犬のボス『熊狩りのポチ』を倒せばクリアとなります。

 ※注意! 時々、熊が出ます。


「おいおい、熊が出るって……大丈夫なのか?」

「まぁ、大丈夫でしょ。受注資格の言霊図鑑LVは1だし。ちなみに、クエストの中身を確認する事は誰でも出来るけど、実際に受ける事が出来るのは、パーティのリーダーだけなんだ。じゃあ、このクエストを受注するけどいいかな?」

「いいとも~!」

「OK!」

 飛鳥がクエストを受注すると、画面に『野犬退治のクエストを受注しました!』と大きく表示された。

「よーし! ついにクエストの開始だな。腕が鳴るぜ!」

 洋一は鼻息を荒くしながら、腕まくりをした。

「そう言えば、二人は武器を持っているの?」

「大丈夫。ちゃーんと『弓』と『矢』を二人分作っておいてあるから」

 飛鳥の質問に、すかさず弓枝が答える。

 そっか、名前と守護漢字で『弓』と『矢』を作ったんだな。慶子の奴、抜け目無いな。

「じゃあ、みんな右上のアイコンの中から家の形をした奴を選んでくれるかな」

 言われるまま選択すると、『自宅』『旭川広場』の下に『旭山』が新しく加わっていた。

「旭山を選んだら、自動的にテレポートするからさ。みんな現地に飛んでね。じゃ、お先に!」

 そう言うと、飛鳥はさっさとテレポートしてしまった。続けて他のみんなも次々にテレポートして行く。洋一も慌てて『旭山』を選択した。

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