LV 5
赤髪の女は、ピンクのビキニに黒マントと、ゲームとは言え目のやり場に困りそうな格好をしている。その横に佇むモヒカン頭の男は、筋肉ムキムキの体に、黒のタンクトップ、黒のブーメランパンツと、ある意味目のやり場に困る脳筋キャラ丸出しの格好をしていた。その二人の後ろに構える長身の男は、黒のTシャツにジーパンと普通の格好をしていたが、その鋭い眼光からかもし出される雰囲気から、二人とは別格の存在である事は、すぐに健一郎達は悟っていた。恐らく、奴が三人組のリーダーだろう。
「お前ら手を出すなよ。こいつらは俺一人で狩ってやる」
バキバキと指を鳴らしながら、モヒカン頭が前に出た。
「フフフ。あなた一人で大丈夫? こいつら、あのポチをほぼ無傷で倒したのよ。舐めていると足元すくわれるわよ?」
「ガーッハッハッハ! こんな初心者丸出しの奴らに、俺様がやられる訳ないだろうが!お前らは、そこで指でも咥えて見ていな! いくぜぇ! 『剛力』!」
■剛力の効果
力が大幅に上昇する。
モヒカン頭の体に赤いオーラのエフェクトが出現し、同時に男の両手の筋肉が倍以上に膨れ上がった。モヒカン頭は、手短にあった巨大な岩を軽々と持ち上げると、健一郎達にブン投げて来た。
「俺様の名前は『金剛寺 力』! 冥土の土産に覚えておきな!」
迫り来る巨大な岩に、慌てて健一郎達がその場から離れる。
その隙を狙って、金剛寺は弓枝を狙ってきた。
「きゃあ!」
「まずは一匹!」
「弓枝殿が危ない! 健一郎殿、あの言霊でゴザル! 『石』!」
「分かってるって! 『壁』! だろ?」
タリーと健一郎が連携しながら叫ぶ。すると、弓枝と金剛寺の間に突然石の壁が現れた。
「舐めるな!」
金剛寺は易々と石壁を拳で砕く。だが、その間に弓枝は金剛寺の攻撃をかわすことが出来た。弓枝は、慌てて健一郎の元へ駆け寄る。
「チッ。ネズミが、チョロチョロしやがって」
舌打ちをしながら、金剛寺が健一郎を睨み付ける。
「ありがとう、助かったわ」
「いいってことさ。だがあいつ、なんてパワーだ。あのぶっとい石壁を素手で易々と砕きやがった」
「直撃を食らったらひとたまりも無いわ」
「だったら、これはどうでゴザルか? 行くでゴザルよ、静香殿!」
静香はコクリと頷くと、石弓を構えタリーと共に次々と矢を金剛寺に向かって放った。
「確かに奴のパワーは凄いでゴザル。しかし、スピードは大した事無いようでゴザルな。ならば奴に近づかず、離れた場所から攻撃すれば良いのでゴザルよ!」
物凄いスピードで、二人が放った矢が金剛寺に向かっていく。だが、金剛寺は不敵な笑いを浮かべると、かわそうともせずに真正面に向き直った。
「ハッ! こんな攻撃が俺様に効くかよ! 『合金』!」
■合金の効果
守備力が大幅に上昇する。
金剛寺の体を青いオーラがまとい、彼の胸板が盛り上がった。タリーと静香が放った矢は、その胸板にいとも簡単に弾かれてしまった。
「な、なんて奴でゴザルか……」
「駄目だ、LVが違いすぎる! ここは一旦逃げよう!」
「ちょっと待てよ! 俺は嫌だぜ、逃げるなんて!」
逃げ腰の飛鳥に、健一郎が叫んだ。
「僕だって嫌だよ! でも、このままじゃ……」
健一郎は、ガッシリと飛鳥の肩を掴むと、ジッと目を見つめた。
「聞けよ飛鳥。確かにあいつとまともに戦ったって勝てるわけ無い。悔しいが、あいつのLVも言霊の質も俺達より数段上だ。だが、あいつらは俺達を完全に舐めている。そこを狙えば勝機は必ず訪れる。それに、俺達にはあいつらには無い武器があるじゃないか」
「あいつらに無い武器?」
首をかしげる飛鳥に、健一郎が頷く。
「それは、チームワークさ」
キラーンと歯を光らせ、健一郎は自信満々に親指を立てた。
歯が浮くような健一郎の台詞に、皆は一瞬固まった。
「……あれ? 俺ってば、何か変な事言ったか? もっとこう、ワッと盛り上がると思っていたんだけど……」
弓枝は呆れたように鼻で笑った。
「いっつも一人で突っ走ってばかりいるあんたが、チームワークねぇ。こりゃ、明日は雨でも降りそうね」
「な、なんだよ。俺がこう言う事を言っちゃ悪いのかよ」
弓枝はクスリと微笑む。
「いえ、こう言うのも悪くないかもね。よーし! だったら見せてやろうじゃないの、私達のチームワークってやつを!」
「チームワークか……」
飛鳥が何かを噛み締めるかのように呟いた。
「……そうだね、一人じゃ無理でもみんなで戦えばなんとかなるかもしれない。ごめんね、みんな。リーダーである僕が弱気な事ばかり言って……』
「何言ってんだよ飛鳥、気にすんなって。それに作戦を考えるのはお前なんだからさ」
健一郎の言葉に、皆がズッコケる。
「あんた、あれだけ偉そうな事言っておいて、何も作戦を考えていなかったの?」
「チームワークってのは、役割分担が大切なのさ。俺は言う役目。飛鳥は考える役目」
「やれやれ。そんな事だろうと思ってたよ。全く君って奴は、肝心な所はいつも他人任せなんだから」
「頼りにしているぜ、相棒」
健一郎が飛鳥の肩に腕を回す。
呆れた顔を見せながらも、飛鳥はまんざらでも無さそうだった。
「金剛寺の奴、負けるかも知れないな」
三人組のリーダー格の男がポツリと呟く。
その言葉に、隣に居た赤髪の女は驚きの表情を見せた。
「まっさかぁ。確かにあいつは考え無しの単細胞馬鹿だけど、その分言霊の能力は突出して迷いが無いわ。あの状態の金剛寺に勝てる奴なんて、そうそういないわよ』
「だといいがな……」
男は、決意を目に秘めた健一郎達をまっすぐに見つめる。
……あいつら、腹をくくったな。気をつけろ、金剛寺。窮鼠は猫を噛むぜ?
「ガッハッハッ! 作戦会議は終わったか? お前らザコどもが何人束になろうと、俺様に勝てる訳がねぇ。まとめてギタギタにしてやるぜ」
金剛寺は、健一郎達の作戦会議が終わるまで仁王立ちで待っていた。ようするに、彼は完全に健一郎達を舐めているのである。だが、それこそが健一郎達にとって付け入る隙だった。
「いいかい。作戦通りに頼むよ」
「任せなさいって」
まずは、弓枝、静香、タリーが一斉に矢を放ち、健一郎と飛鳥が金剛寺に突っ込んで行く。ポチ戦の時に見せたフォーメーションだ。
四方八方からの矢の攻撃に、真正面から二人が切りかかる逃げ場の無いこの攻撃は、足の遅い金剛寺には有効な手段だ。だが……。
「こんな攻撃、かわすまでもねぇよ!」
降り注ぐ矢と健一郎達の斬撃を金剛寺は全て己の肉体で受け止めた。
ガキィンっと、まるで硬い岩を切り付けたような衝撃が健一郎の腕に伝わって来る。
「な、なんて硬さだ!」
「オラァ! 今度はこっちの番だぜ! 食らえっ! 金剛寺ラリアットオオオッ!」
攻撃を受け止めたと同時に、金剛寺の丸太のような腕が健一郎達を襲う。
「『疾風』!」
弓枝の言霊『疾風』が発動し、健一郎達の体が緑のオーラに纏われた。パーティ全員の敏捷性が大幅に上昇する。金剛寺の攻撃を寸での所でかわした二人は、素早く金剛寺の背後に回った。
「ガーッハッハッハ! 何をする気かは知らんが、俺様の鋼鉄の肉体に傷をつけることなど出来んわ!」
「それはどうかな?」
健一郎はニヤリと不敵な笑みを見せた。
飛鳥が言霊を念じ始める。
「これが僕の新しい言霊! 『飛翔』!」
■飛翔の効果
短時間、宙に浮く事が出来る。
次の瞬間、飛鳥と健一郎の背中に、白い大きな翼が現れた。
「行くよ、健一郎」
「OK!」
二人は、金剛寺のブーメランパンツに手をかけると、二人掛かりで金剛寺を持ち上げた。
「ぬおっ? 何しやがる! は、離しやがれ!」
「ふ~ん。本当に、離していいのかよ?」
健一郎がニヤリと笑う。
気がつくと、金剛寺は上空何十メートルまで持ち上げられていた。
チラリと金剛寺は下を見た。辺りは一面の森、真下には先ほどまで居た旭山の山頂が見える。目が眩むような高さだ。さすがにここから落とされたらひとたまりもない。
「や、やめろ! やっぱり離すな!」
「だって。どうする健一郎」
ニコリと、飛鳥がイタズラな笑みを浮かべた。
「そうだなぁ。んー、却下」
健一郎がそう言うと同時に、二人はパッと手を離した。
「ぬおおおおおおおおおっ!」
重力の法則に従い、金剛寺は地上に向かってまっ逆さまに落ちて行く。そして、まるで爆弾が投下されたかのように物凄い勢いで地面に激突した。地面には、人型の大きな穴が出来ていた。
「やったあ!」
弓枝が喜びにピョンと跳ねる。
「……まだ」
静香がスッと穴を指差した。
すると、ヌッと穴から筋肉質の腕が飛び出し、ボロボロ姿の金剛寺が這い出てきた。
「ぐぬぬ……。お、おのれ、よ、よくもやりやがったな……」
「まだ生きているでゴザルよ』
「ほんと、しぶといわね」
「……ゴキブリ並」
だが、地面から這い上がってきた金剛寺の脳天に、上空から勢いをつけて降りてきた健一郎の膝蹴りがクリーンヒットした。
「は、はが……っ!」
その攻撃がトドメとなり、金剛寺は倒れた。
「お見事」
「今度こそ、やったね♪」
地上に降り立った健一郎達の元に、弓枝達が駆け寄り祝福する。
健一郎と飛鳥はお互いにパンッと手を叩き合わせると、ガッシリと肩を組んだ。