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桜のささやき  作者: ー霧雨ーAI(Claude)との共同制作
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第2話 隣の席

「よろしくお願いします」


翔太の隣の席に座ることになった瞬間、私の心臓は激しく高鳴った。昨日からずっと考えていたことが現実になってしまって、嬉しさと緊張でどうしていいかわからない。


席替えの発表があったとき、私は密かに彼の近くになることを願っていた。まさか隣の席になるなんて思ってもみなかった。先生が座席表を読み上げているとき、「田中翔太の隣、高橋美咲」という言葉が聞こえた瞬間、世界がキラキラと輝いて見えた。


机を移動させながら、私の手は微かに震えていた。翔太の隣に座るという現実に、どう対応していいかわからない。普通に振る舞おうとするのに、心臓がドキドキして、きっと顔も赤くなっているはずだった。


「よろしくお願いします」


彼にそう挨拶されたとき、私の声は少しかすれていた。近くで見る翔太は、昨日よりもずっと素敵に見えた。黒髪に光る朝の陽射し、まっすぐに私を見つめる澄んだ瞳、そして穏やかな微笑み。すべてが私の心を揺さぶっていた。


開け放たれた窓から、桜並木を揺らす春風が教室に流れ込んでくる。四月の風は暖かくて、でもまだ少し冷たさを残している。その風に混じって、桜の甘い香りがふわりと漂ってきた。同時に、翔太の優しい石鹸の匂いも感じられて、その二つの香りが混じり合うと、なんだか夢の中にいるような気分になった。


彼の横に座って初めて気づいたことがある。翔太は左利きなのだ。ノートを取るとき、ペンを持つ手が私の方に向いている。だから時々、彼の手が私の視界に入ってくる。指は細くて綺麗で、ペンの持ち方も丁寧だった。そんな些細なことまで気になってしまう自分に、私は戸惑いを感じていた。


一時間目の数学の授業が始まった。先生が黒板に公式を書いている音、生徒たちがノートにペンを走らせる音、そして窓から聞こえる鳥のさえずり。いつもなら集中できる環境なのに、今日は翔太の存在が気になって仕方がない。


彼がノートに何かを書いているとき、私はそっと横目で見てしまう。綺麗な字だった。几帳面で読みやすくて、きっと真面目な人なんだろうなということがよくわかる。私の字はもう少しくせがあるから、彼に見られたら恥ずかしいかもしれない。


授業中、翔太がペンを落とした。小さな音がして、ペンが床に転がっていく。彼が拾おうと身を乗り出したとき、私も同時に手を伸ばした。


私たちの指先が触れ合った瞬間、まるで電気が走ったような感覚があった。彼の指は暖かくて、少しざらついていた。男の子の手なんだと実感した瞬間、私の心臓は飛び跳ねそうになった。


「あ...」


私たちは同時に手を引っ込めた。その瞬間、春風がまた教室に吹き込んできて、桜の花びらが一枚、私たちの机の上にふわりと舞い降りた。薄いピンク色の花びらが、まるで今の瞬間を祝福してくれているみたいで、私の胸は甘い痛みでいっぱいになった。


「ありがとう」


翔太がペンを拾い上げながら、小さく微笑んでくれた。その笑顔を見た瞬間、私の顔は真っ赤になってしまった。きっと彼にもわかるくらい赤くなっているはずで、それがまた恥ずかしくて、下を向いてしまった。


「いえ...」


小さく呟くのがやっとだった。胸がドキドキして、呼吸も浅くなっている。たった一瞬指が触れただけなのに、どうしてこんなにも動揺してしまうのだろう。


午前中の授業はなかなか集中できなかった。翔太が隣にいるというだけで、私の心は落ち着かない。彼がページをめくる音、小さく咳をする音、ペンでノートに字を書く音。すべてが私の注意を引いてしまう。


休み時間になると、翔太は窓の外を眺めていた。桜並木を見つめる彼の横顔は、どこか遠くを思っているようで、少し物思いにふけっているように見えた。そんな彼の表情を見ていると、私も一緒に物思いにふけってしまう。


「桜、綺麗ですね」


彼が突然話しかけてきて、私はびっくりした。


「あ、はい。本当に綺麗です」


外を見ると、満開の桜が風に揺れている。花びらが舞い散って、まるで雪のように校庭に降り積もっている。美しい光景だった。でも、私の目には翔太の横顔の方がずっと美しく映っていた。


「僕、桜の季節が一番好きなんです」


「私も好きです」


それは本当だった。でも今年の桜は、今までで一番特別に見える。翔太と一緒に見ているからかもしれない。


昼休みになると、クラスメイトたちが次々と教室を出ていく。お弁当を食べに中庭に行く人、購買に向かう人、友達とおしゃべりをしに行く人。でも私は、翔太の隣にいたくて、教室に残ることにした。


「お弁当、ここで食べるんですか?」


翔太が机からお弁当を取り出しながら聞いてきた。


「はい。外は人が多いから...」


本当は、彼ともう少し話していたかったからだった。でもそんなことは言えなくて、適当な理由をつけてしまった。


「僕もです。静かな方が落ち着きます」


そう言って微笑む翔太を見て、私は胸がキュンとした。もしかして、彼も私と一緒にいたいと思ってくれているのだろうか。そんな希望的観測を抱いてしまう自分が、少し恥ずかしかった。


お弁当を食べながら、私たちは他愛のない話をした。好きな教科のこと、部活のこと、趣味のこと。翔太は天体観測が好きで、星座に詳しいということがわかった。私も昔から星を見るのが好きだったから、共通の話題があることが嬉しかった。


「今度、良かったら星を見に行きませんか」


そう言われたとき、私の心臓は止まりそうになった。翔太と二人で星を見る。それはまるでデートのようじゃないか。


「はい、ぜひ」


答えてから、自分の声が上ずっていることに気づいた。きっと顔も赤くなっているはず。でも、翔太は優しく微笑んでくれた。


午後の授業も、相変わらず集中できなかった。でも午前中とは違って、幸せな気持ちの方が強くなっていた。翔太と星を見に行く約束をした。それだけで、世界が輝いて見える。


放課後、荷物をまとめながら、私は今日一日を振り返っていた。隣の席になって、指が触れ合って、一緒にお弁当を食べて、星を見る約束をした。たった一日で、こんなにもたくさんのことがあった。


「それじゃあ、また明日」


翔太がそう言って席を立った。


「はい、また明日」


私も立ち上がって、彼を見送った。教室を出ていく彼の後ろ姿を見つめながら、明日がとても楽しみになった。


外から聞こえる鳥のさえずりと、教室に漂う桜の香りと、そして翔太の優しい石鹸の匂いの残り香。すべてが混じり合って、今日という日の特別な記憶を作ってくれた。


帰り道、桜並木を歩きながら、私は胸の奥で静かに燃える想いを感じていた。これが恋なのかもしれない。翔太への気持ちが、日に日に大きくなっているのを感じていた。


明日も隣の席。明日も彼と話せる。そう思うだけで、私の心は軽やかになった。桜の花びらが風に舞って、私の頬にそっと触れていく。まるで今日の幸せを祝福してくれているみたいで、私は小さく微笑んだ。

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