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桜のささやき  作者: ー霧雨ーAI(Claude)との共同制作
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第1話 出会いの桜並木

春の陽だまりが校舎を優しく包む4月8日の朝。昨夜の雨で洗われた空気は澄み切っていて、深く息を吸い込むと胸の奥まで清々しさが行き渡った。満開の桜が風に揺れて、淡いピンクの花びらがひらひらと舞い散っている。一枚、また一枚と、まるで雪のように静かに舞い落ちる花びらを見上げながら、私、高橋美咲は新学期への期待と不安を胸に学校の門をくぐった。


桜の甘い香りが鼻をくすぐる。この匂いを嗅ぐたびに、私は新しい季節の始まりを実感する。薄紅色の花びらが風に舞って、私のセーラー服の肩にそっと舞い降りた。払い落とそうとしたけれど、なんだかもったいなくて、そのまま歩き続けた。


校舎に入ると、廊下には新学期特有の緊張感が漂っていた。新しい教科書の匂い、床に塗られたワックスの匂い、そして少し汗ばんだ人の匂い。すべてが混じり合って、学校らしい匂いを作り出している。私の心臓は、期待と不安で不規則に鼓動を打っていた。


「今年はどんなクラスになるんだろう」


新3年生として迎える最後の高校生活。受験や進路のことを考えると胃が重くなるけれど、それでも新しいクラスでの出会いには期待してしまう。きっと素敵な一年になる。そんな漠然とした希望を抱きながら、私は階段を上がった。


掲示板の前には、既にたくさんの生徒が集まっていた。みんなそわそわと自分の名前を探している。ざわめきの中に、期待と不安が入り混じった空気が流れていた。私も人波に紛れて、掲示板に近づいていく。


「3年A組...どこだろう」


背伸びをして掲示板を見上げる。高い位置に貼られたクラス名簿を見るのは一苦労だった。人の隙間から覗き込んだり、つま先立ちになったり。なかなか自分の名前が見つからない。


焦りが胸に湧き上がってくる。もしかして名前が漏れているのではないか、という根拠のない不安が頭をもたげた。そんなはずはないとわかっているのに、心臓がどきどきと早鐘を打っている。


その時、人込みを縫って前に進もうとした私は、誰かと肩がぶつかってしまった。


「あ、ごめん」


振り返った瞬間、時間が止まったような気がした。


彼の瞳は、まるで春の空のように澄んでいた。雲一つない晴天の、あの透き通るような青さ。見つめられた瞬間、私の心の奥で何かがキュンと鳴った。それは今まで感じたことのない、不思議な感覚だった。


顔立ちは整っているけれど、派手さはない。むしろ静かで落ち着いた印象。でも、その澄んだ瞳の奥には、優しさが溢れているのが感じられた。黒髪は少し癖があって、前髪が額にかかっている。制服も着慣れた様子で、きっと真面目な生徒なんだろう。


そよ風が廊下の窓から吹き込んできて、桜の花びらが一枚、彼の髪にそっと舞い降りた。その瞬間、世界が薄いピンク色に染まったような錯覚を覚えた。彼が小さく微笑むと、私の胸がぎゅっと締め付けられた。


「いえ、こちらこそ」


私の声は震えていた。なぜだかわからないけれど、普通に話すことができない。胸の奥で、今まで感じたことのない感情が渦巻いている。それが何なのか、まだうまく言葉にできないけれど、確かに私の心に変化をもたらしていた。


彼の名札を見ると、「3年A組 田中翔太」と書かれていた。翔太。その名前を心の中で反復してみる。翔太、翔太。なんだか口の中で転がすだけで、甘い響きがした。


「同じクラスになりますね」


彼の声は、春風のように優しかった。低すぎず高すぎず、聞いていて心地よい声。その声が私の名前を呼んでくれる日が来るのだろうか。そんなことを考えただけで、頬が熱くなってしまった。


「はい」


短い返事しかできない自分が歯がゆかった。普段ならもっと自然に話せるのに、どうして彼の前では言葉が出てこないのだろう。心臓がドキドキして、まるで初めて人と話すような緊張感があった。


そよ風がまた吹いて、桜の甘い香りをもう一度運んでくる。その香りに包まれながら、私は翔太の横顔を見つめていた。彼が掲示板を見上げている横顔は、どこか遠くを見つめているようで、少し寂しげにも見えた。


でも、同じクラスになったのだ。これから一年間、毎日顔を合わせることになる。その事実に、胸の奥で小さな喜びが芽生えていた。同時に、この気持ちが何なのか、もっと知りたいという好奇心も湧いてきた。


私はそっと掲示板に視線を戻した。高橋美咲の名前を見つけたとき、確かに3年A組に属していることを確認した。翔太と同じクラス。その現実が嬉しくて、思わず小さくガッツポーズをしてしまいそうになった。


でも、すぐに我に返る。私は一体何をしているのだろう。たまたま肩がぶつかっただけの男子生徒に、どうしてこんなにもときめいているのだろう。


翔太が振り返って、私と目が合った。その瞬間、また胸がキュンとした。今度は先ほどよりも強く、確実に。私の心は、彼に向かって何かを伝えようとしているようだった。


「よろしくお願いします」


彼がそう言って軽く頭を下げた。その仕草が丁寧で、きっと育ちの良い人なんだろうなと思った。私も慌てて頭を下げる。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


今度は、少しだけしっかりと言えた。彼が微笑んでくれたとき、私の心にあたたかいものが流れ込んできた。それは安心感と、もう少し複雑な感情が混じり合ったものだった。


人だかりが少しずつ散らばっていく中で、私たちもその場を離れることになった。翔太が歩き始めると、私も自然とその後についていく。廊下を歩きながら、彼の後ろ姿を見つめていた。


肩幅はそれほど広くないけれど、背筋がまっすぐ伸びている。歩き方も落ち着いていて、急ぐでもなく、のんびりするでもなく、ちょうど良いペース。そんな彼の歩き方を見ているだけで、なんだか心が落ち着いてきた。


教室に向かう途中、窓から桜並木が見えた。満開の桜が風に揺れて、花びらが校庭に舞い散っている。その美しい光景を見ながら、私は今朝の出来事を振り返っていた。


翔太との出会いは、まさに桜の季節にふさわしい、美しい瞬間だった。彼の澄んだ瞳、優しい声、そして桜の花びらが舞い散る中で交わした最初の会話。すべてが夢のようで、でも確かに現実に起こったことだった。


教室の扉の前で、翔太が振り返った。


「新しいクラス、楽しみですね」


「はい」


私は笑顔で答えた。本当に楽しみだった。翔太がいるクラスなら、きっと素敵な一年になる。そんな予感が胸の奥で強くなっていた。


教室に入ると、新しいクラスメイトたちがすでに席について話をしていた。机の配置はまだ決まっていないようで、みんな思い思いの場所に座っている。私も適当な席に座りながら、翔太の行方を目で追っていた。


彼は窓際の席に座った。そこから見える桜並木を眺めながら、何か考え事をしているようだった。その横顔がとても美しくて、私は見とれてしまった。


朝のホームルームが始まると、担任の先生が自己紹介を始めた。でも私の頭は、翔太のことでいっぱいだった。彼の声、彼の笑顔、彼の瞳。すべてが私の心に深く刻まれていた。


これが恋なのだろうか。17歳の私には、まだよくわからない。でも、確かに心の奥で何かが変わり始めているのを感じていた。翔太という存在が、私の日常に新しい色を加えてくれたような気がした。


桜の花びらが教室の窓を叩いていた。まるで今日の出会いを祝福してくれているみたいで、私は小さく微笑んだ。きっとこの桜の季節が終わるまでに、私の気持ちももっとはっきりとした形になるのだろう。


そんなことを考えながら、私は翔太の横顔をそっと見つめ続けていた。胸の奥で静かに燃える想いと一緒に、新学期の最初の一日が始まろうとしていた。

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