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8.

「どうした?」

「……思い出せない。その後のこと」


 駆け寄った後のことを思い出せなかった。幼すぎるためか、忘れてしまったのかもしれないが、これは確実に違うと言える。

 

 記憶が抜け落ちている。


「なんで、覚えてないの?」


 今まで気づかなかった。思い出すこともなかったからかもしれない。アピロは目を瞑り、思い出そうとするが、ミゼンに話した後のことはすっぽり無くなっていた。


「他に小さい時に自分で魔法を使っていた時のことは?」


 ミゼンに言われて、思い出そうとしたが首を振った。ことごとく魔法を使っている場面を思い出せない。その事実に、アピロは衝撃を受ける。

 ちらりとミゼンを見ると、顎に手を当てたまま思案顔。しかめっ面のままアピロに訊いてくる。


「でも、どうして学院に入学できたんだ? 実技試験があるだろ?」

「それは」


 そのことははっきりと思い出せる。

 学院に入学する二年前に祖父が亡くなった。その時の祖父の遺言がこの学院に行けというものだったのだ。目標であり、偉大な魔術師だった祖父の遺言に従い、そこから二年間は兄たちにも教わりながら勉強と魔法の訓練に励んだ。唯一の実技課題で使う『プリ』だけは、何故か使えたし、兄たちのおかげで何とか祖父の名に恥じぬ程度に使えるようになった。


 そのおかげで無事に入学できたのだ。


「じいさんが亡くなってからの魔法は覚えてるんだな?」


 確認するかのようなミゼンの言い方に、アピロは頷いた。


「じいさんの名前は?」

「オミフリ、だよ」


 祖父の名を聞いたアピロは目を丸くした。


「……まじか。大魔術師の一人じゃねぇか」

「そうなんだよね。だから、血筋的には祖父に近づけることができるって先生たちにも言われているんだけど。これがなかなか」


 上手くいかない。

 試験の時は、なんとかうまくいった。今思い出せば難しい問題でもなかったのかもしれない。だから、合格できた。勉強は変わらず苦手だけど、魔法もわずかながら使うことはできる。


 やはり、オミフリに匹敵するほどの才能がなかっただけだろうか。

 魔術という才能は、十三歳までに開花するというのがこれまでの研究結果でわかっている。開花しなければ魔術は使えないし、開花した時にわかった魔力量でどんな魔術を使えるかも決まってしまう。


 合格できても、きっとギリギリの成績だったはず。もしかしたら偉大過ぎる名前のせいでお目こぼしを貰っただけかもしれない。なにせ成長できるのは十四歳になるまで。つまり、十三歳になる年に入学し、その一年間でどのくらい才能を伸ばせるかで、その先の未来が決まる。一年生の時は赤ん坊の成長記録のように、毎月魔力量が記録されていた。二年生に上がるときには、培った魔力量とそれまでの成績に応じてクラスが分けられた。


 言わずもがな、アピロは一番下クラスだった。ずっともがいてきたが、ここまでかもしれない。


 ぎゅっと唇を噛んで、アピロはうつ向く。

 認めたくないが、そろそろ認めないと。視界にボロボロのローブが入ってきた。しょせん才能の前に努力など無意味という事実にくじけそうだ。退学候補者リストに入っているんだし。

 なるべく声が増えないようにアピロはぐっと口角を持ち上げる。


「ミゼン、ありがとう。もうあきらめるよ」

「何言ってんだ?」


 ミゼンは呆れた様子でアピロを真正面から見た。アピロの悩みなどきっとわからないほどの人。その才能ある者が眩しく視える。


「だって、解析できないならば、もう諦めなきゃ。ごめんね。せっかくの時間を無駄にさせて」


 肩をすくめて、アピロはそっとミゼンの腕をほどく。泣きたくなるのを寸前で我慢してから、ミゼンに笑って見せる。


「あとは自分で何とかするよ」


 アピロをじっと見ていたミゼンが、大げさにため息を吐く。目を眇めてアピロを見て来る。


「こっちはまだ諦めてねぇんだけど」

「でもっ、わからないんでしょ?」


 むにっとアピロの頬をミゼンは引っ張る。モガモガとアピロは何か言おうとするが言葉にならない。


「前言撤回。何が何でも解析してやる。とっかかりもできたしな」


 にやりと意地悪そうにミゼンは笑った。


「もう一度だ。絶対に解析してやる」


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