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第95話 Sideレオナ


〈レオナ視点〉





「ウォルフォード侯爵がお嬢様にお会いしてお話したいことがあると」




そう言いながら執事は私に便箋を差し出した。





「確かにウォルフォード侯爵の家紋ね。日時は?」




「出来るだけ早くと使いの者は言っておりまして、今、門の側で返事を待たせております」








執事は私の表情を窺っている。彼の気持ちは複雑なものだろう。








「お父様もお母様も……今日は不在よね」




「左様でございます。……どうされますか?」




私の心は決まっていた。








「会います。今日でも大丈夫かしら?」




「直ぐに使いの者に確認して参ります」




侯爵とは一度会ってお話をしてみたかった。


彼の立場も随分と危ういものになっているが、侯爵がクラリス様を諦めないことを、何故か私も嬉しく思っていた。








そうして、私とウォルフォード侯爵との面会は、我が屋敷で行われることになったのだった。












ウォルフォード侯爵の話は驚くことばかりだった。


しかし、本当に侯爵がクラリス様を助けたいのだと必死な様子に私は胸が熱くなる。






私は一も二もなく、侯爵に手を貸すことを決めた。








しかし……病で苦しんでいる者が居ると聞いてしまった以上、私はそれを見過ごすことなど出来そうになかった。あとで王家にどんな処罰を受けても良い。私は侯爵にどんな状況になろうとも、アナベル様の侍女が大切にしている弟の病は治療させて欲しいとお願いした。








侯爵は応接室の席を立つ前にクラリス様のことを『私の自慢の娘だ』と胸を張って言っていた。私はその言葉に心から嬉しくなる。




血の繋がりよりも大切なものがそこにあるような気がしていた。












その二日後のことだ。私はある人からの知らせを受け、準備をした。








「お嬢様、本当によろしいのですね」


侍女が私に心配そうにそう尋ねた。








「ええ。もう決めたことよ。私が聖なる力を王家の許可なく使ったことで処罰を受けるのなら、私を勘当してもらうわ。お父様にもお母様にも迷惑をかけない。……貴女たちにもよ」




私が微笑むと、侍女は泣き出しそうな顔をした。








「お嬢様……私たち使用人は皆、お嬢様の味方です。私たちは何度お嬢様に助けていただいたか……」




「大袈裟ね。怪我や病気を治しただけだわ」




「それだけではありません。私たちは皆、お嬢様の優しさに救われておりました」








彼らは表立って父や母に歯向かうことはなかったが、陰ながら私を守ってくれていた。彼らの立場を考えれば、それはとても勇気の必要なことだっただろう。




私は今にも泣き出しそうな侍女の肩に手を置いた。








「私が今からすることは、何も間違いではないわ。私は自分が正しいと思うことをするだけよ」




「……ご立派です……お嬢様……」




とうとう侍女は泣き出してしまった。






私は彼女にハンカチを差し出すと、努めて明るく行った。








「さぁ、行きましょう。侯爵が上手く侍女を説得出来ていれば良いのだけど……」




しかし、私は心の片隅で思っていた。


『必ずクラリス様の潔白を証明することが出来る』と。












◇◇








侍女の弟のロンはまるで死人のような顔をしていた。誰が見ても彼の命は風前の灯火であっただろう。


アナベル様は本当に彼に癒しの力を使ったのだろうかと疑いたくなるほどだ。








治療には少し時間がかかった。病は完治出来たと思うが、それよりも長い間の闘病で、彼はすっかり痩せ細っていた。


ここからは聖なる力に頼るより、栄養を十分に摂り、少しずつ筋力を取り戻すことが重要だと私はそう言って、侍女の家を後にした。








馬車の中で侯爵は、クラリス様が魔女だと断罪されたことの顛末とからくりを私に教えてくれた。




侯爵の顔は喜びと不安を入り混ぜたような表情だ。






「侯爵、どうされました?」




「いや……もし本物の聖なる水晶が見つからなかったら……そう思うと」




確かに。アナベル様がそれをどこに隠したのか分からないことには、何とも言えない。








「きっと……きっと上手くいきます」




根拠となるものなどない。今の私に出来ることは『きっと大丈夫だ』と励ますことぐらいだ。








「そうだと良いが……いや、今は信じるしかない。レオナ嬢、力を貸してくれて本当にありがとう」








「もしまた何か私に出来ることがあれば何なりと」




私は微笑んだ。今は信じるしかない。








「アメリが……あ、うちの侍女なのですが、いつもクラリスが『レオナ様が一番聖女に相応しい。彼女はとても心が綺麗だ』と言っていたと。本当にその通りだ」








私は褒められたことよりも、クラリス様が私のことをそんな風に思っていてくれたことが何より嬉しかった。












◇◇◇










王宮に呼ばれた私は初めて聖なる水晶をこの目で見た。


力を注いでくれと言われた時、恥ずかしいくらいに手が震えてしまったのは、これでクラリス様を救えるという嬉しさに他ならなかった。








私はあの時の侯爵の顔を忘れることは出来ない。


涙を堪えた彼の表情はまさしく娘を心配する父親のそれだった。







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