第94話 Sideレオナ
〈レオナ視点〉
「じゃあ……貴女も聖女候補……」
私の話を聞き終えたルイスはそう言ってしばらく絶句していた。
「もう試験は終わりました。私はもう何者でもありません。でも……クラリス様は……」
あの児童書には森にはたくさんの動物がいて、特に危ない場所としては描かれていなかった。あれが魔女の森を指しているならば、クラリス様も無事でいてくれているのかもしれない。
しかし、魔女の森に立ち入った者はいない。あれが全くの空想であってもおかしくは無かった。
「確かに魔女が現れ、森へ追放した……という知らせは聞きました。だけど詳しいことは何も知りませんでしたよ。その女性が貴女のご友人なのですね?」
「クラリス様は魔女ではありません!」
私は少しムキになって言った。
「わかっています。彼女は何らかの理由で魔女という烙印を押されてしまった……そういうことですよね?」
私はコクンと頷いた。
私もあの広間には居なかった為、何故そんなことになってしまったのかを詳しく話すことは出来なかった。
「その方を助ける……か」
またルイスは顎を擦る。
「でも……今の私には何の手立てもなくて。こうして図書館に来て、手掛かりを見つけるためのきっかけを探すことぐらいしか……」
「あの児童書では証拠になりませんよね……」
ルイスは難しい顔をした。
「そうですね……作り話だと言われて終わりです。でも、私はあの本のお陰で自信が持てました。クラリス様はやはり魔女なんかじゃない」
私の言葉にルイスも大きく頷いた。
「魔女なんて、本当はこの世に存在しない。誰かにとって都合が良いから『魔女』という言葉を使っているだけにすぎない」
「魔女=悪のイメージが強いので、分かりやすくその人を陥れることが出来るからですね」
「そうだと思います。……ということは今回、そのクラリス嬢を魔女と仕立てあげて都合の良い人物がいた……そういうことですね」
ルイスの言葉に私の頭にはアナベル様の顔が浮かぶ。
クラリス様を魔女として追放になれば一番得をする人物……。でも、何の証拠もない。
「僕も少し調べてみますよ」
「え?どうやって?」
ルイスの言葉に私は思わず尋ねた。
「実は僕の親族に教会で働く者がいます。今回の聖女試験におかしなところがなかったか……聞いてみます。だからといって何か手掛かりが掴めるか分かりませんが」
「そんな……申し訳ないです」
今日初めて会った男性にそんなことを頼むことは出来ない。
「いや、大したことをする訳じゃないので。それに期待もしないでください。でも、ほんの僅かでも貴女の手助けになれば」
私だって、こうして図書館に来て資料を探すことぐらいしか出来ていない。こんな見ず知らずの人でさえ、こうして申し出てくれているのだ。私ももう少し積極的に動くべきだろう。
「ありがとうございます……。私も、他に何か出来ることを見つけます」
私は何故か味方を得たような気持ちになり、力強くそう言っていた。
私はそれからも何度か教会に訪れたが、やはり話を聞いてもらえることはなかった。昔聖女候補として試験を受けた方々にも話をしてもらえないかと訪ねるも門前払いだ。
その後、私とルイスは連絡を取り合うようになり、そんな中彼から一つの有益な情報を得ることが出来た。
私達はいつもの待ち合わせ場所となった図書館に併設されたカフェで落ち合った。
「聖なる水晶が?」
「はい。親族もあまり位の高い司祭ではないので、又聞きでしかありませんし、詳しいことは分からないのですが、クラリス嬢を魔女だと決定付けたのはその水晶が原因だと」
「聖なる水晶は教会から持ち出すことが禁じられた門外不出の品。どうしてそれが魔女の証明になったのでしょうか……」
私はそれ以上の答えが見つからず、黙り込んでしまった。
「すみません……あんまり役に立つ情報ではなかったですよね」
「いえ!そんなこと。何もないところに一つでも有益な情報が手に入ったのです。ありがとうございます」
私は思わずルイスの手を取って頭を下げた。
「あ、いえ!別に大したことではっ」
何故か慌てているルイスの頬はほんのりと赤い。
「私、これから聖なる水晶について調べてみます」
私はルイスの手を離し図書館へと向かうべく腰を上げる。
「まだ紅茶に手つかずですよ」
そんな私の様子にルイスは苦笑した。
あの日、あの広間で起こったことの全貌は未だ見えてこない。しかし私は自分に出来る精一杯をやり切ろうと心に決めていた。たとえ父や母に渋い顔をされたとしても。
そんなある日のことだった。
我がソーントン伯爵領は王都にほど近い場所にあるからか、今まで魔物の襲撃を受けてはいなかったのだが、先日、家畜が襲われたとの報告が入った。父はその状況把握のために領地へと向かった。
私にも何か出来ないかと父に尋ねたが、父は頑なに私の力を王家に隠れて使うことを拒否した。せめてこっそりと結界でも張れると良いのに……そう思うが、父は王家からの制裁が怖いようだ。
父が領地へ出かけた翌日。今度は姉が産気づいたとの連絡が入り、母はその手伝いに出かけて行った。
姉は結婚してから中々子宝に恵まれなかったが、やっと第一子を妊娠したのだった。
出産に実家がしゃしゃり出るのを母は躊躇っていたが、初めての妊娠と出産で精神的に不安定になった姉を支えて欲しいと姉の婚家からのたっての願いだった。
屋敷には私と使用人だけ。そんな中、執事が慌てた様子で私の部屋のドアをノックした。




