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第93話 Sideレオナ


〈レオナ視点〉




「先ほどはすみませんでした。ここは僕が奢ります!」


「そんな!わざわざ本まで探していただいた上に、ご馳走になるなんて」


さっきの児童書はルイスに返した。


著者は分からないが、きっとあれを伝えたい人がこの世に間違いなく存在していたということだ。私にはそれがとても大切な想いのような気がしていた。








「えっと、紅茶でいいですかね?」


ルイスは私の言葉を無視するように、さっさと注文を済ませてしまっていた。






「申し訳ありません……」


「謝る必要はどこにもありませんよ!」


ルイスは明るく笑った。そして少し身を乗り出すようにして私に尋ねる。






「あの本のこと、どう思いましたか?」


こんな風な質問をするということは、ルイスもあれを読んだことがあるということだろう。






「そうですね……」


私は言葉を選びながら答える。






「これを読むと魔女と呼ばれた女性の持つ力は……」


「聖なる力と同じ……ってことですよね」


私の言葉に続けるように、ルイスはそう言った。私もその言葉に頷いて答えた。








この本の主人公は、聖なる力を持った女性。そう、今で言う聖女と呼ばれる立場の女性だった。


この国の王に見初められ、妃になるはずだった聖女が同じ力を持つ友人にその幸せを妬まれて、彼女から渡されたある薬を飲んだことで老婆になってしまう話だ。






その友人は老婆に姿を変えた主人公を『これが彼女の真の姿だ。国王は騙されていたんだ彼女は魔女だ!』と声高らかに宣言し、それを信じた国王は主人公をある森へと追放してしまう。


そして、その友人は自分がちゃっかりと妃の座におさまるのだ。


しかし主人公はそれを怨むことなく、その森でたくさんの人の病を治す薬を作り続け、森の動物達と仲良く幸せに暮らすが、その一方、彼女を騙し妃になった友人は、わがまま三昧で国王に呆れられ、最後には一人で寂しく死んでいく……という結末だ。








「これを読むと……魔女というものは存在しないことになります。……というより、魔女は元々聖女だったということに」


「そうですよね。……まぁ、これはあくまでも本の中の世界……作り話にすぎませんが」


ルイスの言葉に、私は無意識に首を横に振っていた。






「いえ。確かにこれは……作り話かもしれませんが、私にはこれが全くの嘘、全て想像の話だとは思えません。この物語の作者も魔女などこの国に存在しない。いや、魔女と呼ばれた女性こそ、この国の妃に相応しい力と優しさを持った女性だったんだ、ということを伝えたかったんじゃないかと思うんです」






「まぁ……子ども向けの本ですから。悪さをした人間は最後幸せになれないという分かりやすいメッセージはありそうですけどね」






そのメッセージに隠れて、作者は魔女と呼ばれた女性の真の姿を伝えたかったのではないかと、私にはそう思えてならなかった。






「この国では魔女は人を惑わし、呪い、不幸にする存在だと信じられていましたが……実際のところは誰も知らない。本当にただの言い伝えにすぎないのかもしれませんね」


ルイスはまたそう言って顎をさすった。彼の癖のようだ。






「そうですね。ずっとそう伝えられ、私もそう信じてきましたが……私はこの本の方が真実なのではないかと……これを読んでそう思いました。おかしいと思われるかもしれませんが」






これを読んだとき、真っ先にクラリス様のことを思った。優しく強いクラリス様。この主人公の女性がクラリス様の姿と重なる。






あの時、私は自分の抱える問題を無意識に彼女に話していた。姉から受けた暴力を……自分の口からはっきりと伝えたのは、実は初めてのことだったのだ。


私の体のアザを見て、周りの人間は姉がやってきたことを知ることとなったが、私はそれを自ら訴えたことはなかった。口に出すことで、私が姉に嫌われていることを認めてしまうのが怖かった。






しかし不思議と……クラリス様には素直に真実を話していた。彼女なら、何の偏見も持たず、私の話を聞いてくれる。それまでも特に仲良くしていたわけではなかったが、何故か私にはそんな確信にも似た想いがあった。






「おかしいなんて思いませんよ」


ルイスの言葉に私は我に返った。






「え?でも……この国ではやはり魔女は悪として伝えられて……」


「ならば何故レオナ様は魔女について知りたいと?」


ルイスの質問に私は一度大きく息を吐いた。声が少し震えている。






「友人を……大切な友人を助けたいのです。でも私には何の力もない……」


運ばれて来た紅茶のカップに波紋が広がる。私の頬に伝う涙がポトリとカップに落ちたせいだ。


目の前にスッとハンカチが差し出された。






「僕にも何の力もありません。しかし、貴女のお話を聞くことは出来ます」


俯いていた顔を上げる。そこには優しく微笑むルイスがハンカチを差し出していた。





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