第八章:お兄さまが帰宅する? このベチョベチョの塔に?
第八章
お兄さまが帰宅する? このベチョベチョの塔に?
すさまじい音を立てて扉が開く。
「アルバート様が急いで此方に戻られているそうです!!」
そして、顔を青くしたサラがそう言った。
「そうなんだ」
私は頷く。
「アルバート様?」
「私のお兄さま」
「へー」
目の前の椅子に座り休憩していたジャンが、あんまり興味なさそうに相槌を打った。
「っとことは、俺を此処に配属した人か・・・・・・」
ふむふむ、と頷くとテーブルに立てかけていたモップがゆっくりと倒れた。
「あ、やべ」
ジャンが慌ててモップに手を伸ばす。
なんとか、倒れきる前に掴むことができた。
「よしよし」
「ナイスキャッチ」
「ンワ°」
「言ってる場合ですか!!」
サラが叫んだ。
「・・・・・・触手は飼うし、塔を粘液でベチョベチョにするし、暗殺者は雇うし、暗殺者を塔に住まわせるしで、もうあちらにいる場合じゃないと思って、帰ってこられるってことですよ!? すっごく叱られるじゃないですか!!」
「朝食も爆発させたしな」
ジャンが付け加える。
「私もポチもローストになると思ったよ」
私も付け加える。
「ンルゥルルルル」
ポチも多分、同意しているのだと思う。
「ごちゃごちゃ言わない!! いいですか、これ以上は面倒を起こさない事!! そして・・・・・・さっさと塔を綺麗にしますよ、ジャンさん!!」
サラが叫んで、両手を叩く。
「はい、立った立った、休憩は終わりです!!」
「ビスケットもう一枚・・・・・・」
ジャンが名残惜しそうにお菓子をみる。
「ハンカチに包んであげるから、何枚か持ってきなよ」
私が言うと、
「私も持って行くので三等分・・・・・・いえ、四等分しましょう」
サラがそう纏めた。
サラとジャンが部屋から出ていって、大分時がたった。
「ンルゥ」
最後のクッキーを食べていたポチがプルプルと震え始めた。
「どうしたの、ポチ?」
「ンワ°キュワッワワワ」
食べていたクッキーが篭の底に落ちる。
「え、体調が悪い? クッキーが駄目だった?」
私はとりあえず、これ以上食べないようにクッキーを回収した。
だが、見ている前でポチの震えがだんだん大きくなり、
「ンワ°プルルウルルルルルルルウウワー!」
ポチが大きく口を開ける。
口というか穴のようだ。
だが、奥には小さな触手がビッシリ生えている。
口だ。
そう、間違いなく口だ。
でも、何だか既視感があった。
・・・・・・前の世界でこういう掃除道具あった気がする。
埃を逃がさない的な。
ポチが勢いよく、空気を吸い込み始めた。
そう、吸い込んだ。
空気を吸い込む音が聞こえるほどの勢いである。
え、掃除機?
風圧か、何か魔法でも使ったのか扉が開く。
そして、塔中に散らばっていただろう粘液がポチの口に吸い込まれていった。
え、もしかして、今扉が開いたのって粘液で取っ手をまわして開けたの?
粘液の大群。
そう形容するしかないどれがポチの口に収まっていく。
それは数刻続いた。
そして、段々と吸い込まれる粘液の量が少なくなり、とうとう粘液の影が見えなくなるとポチは口を閉じた。
「ンプワ・・・・・・」
ぽっこりと膨れたお腹を上にしてポチが篭の中で寝ころんだ。
満腹、ということだろうか。
だが、何となく、手に持っていたクッキーを掲げるとポチはすぐに反応した。
「ンキュ! キュ!」
精一杯篭の中で身体を伸ばし、クッキーを追いかける。
欲しがっている、コレは完全にクッキーを欲しがっている。
クッキーを篭の中に置くと、身体全体で巻き付いてまたカジり始めた。
先程とは違い小さく口を開けているせいか、口は目視できない。
だが、対してスピードを落とすことなくカジり続けている。
成る程、まだまだお腹は空いている。
ということは、あの粘液集めは食事のためではなかったのだろうか?
というか、そうか。
この粘液回収もできるのか。
えっと、粘液を放出して身体の大きさを変えていたというわけではない?
いや、でも、この前は粘液を放出したから身体の大きさが小さくなって?
つまりどう言うことだ?
「クソ触手ぅう!!!」
サラの声が何処かから響いた。
その声は怒りに満ちている。
ドタドタと階段を昇る音がしてきた。
・・・・・・あぁ、そうか。
とりあえず、あれか。
サラもジャンも掃除し損だったというわけか。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・これはポチが悪いと思う」
「ンキュワ・・・・・・」