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第六章:塔はネチョネチョし、メイドは怒る





第六章

塔はネチョネチョし、メイドは怒る




「へぇ、つまり触手って普通はあそこまで大きくならないんだ」

「少なくても俺は見たことねーっすね」

 ジャンがモップ片手にヘトヘトになって部屋に帰ってきたのは、日が沈み、空が茜色に染まった頃だった。

 床にへたりこんで休憩している。

 最初は主人の前で何をとサラが怒りはしたのだが、正直この塔を一人で一日掃除し続けてのだ、そうもなるだろうと思う。

 なので、好きにさせてあげようとサラにも言ったのだが、視線の端でまだ不満そうだ。


「・・・・・・ペットの触手もそこまで大きくはならないようですよ。あと、触手の飼い方は適当だそうで、指南書もないみたいです。便宜上ペットと言っていますが、家にいる時間が長い野良猫か何かみたいな扱いというか・・・・・・家に住み着いた蠅取り蜘蛛みたいな扱いですかね」

「ふへー」

 部屋に残って、いつも通りに私の身の回りのお世話をしていたサラも同意する。


 成る程。

 庶民的にはペットといっても家に住み着いている蜘蛛みたいな扱いなのか。

 まぁ、下級魔法生物である触手をペットで飼うことが、財力の誇示や娯楽になるのは貴族くらいなものだろうしなぁ。


 ・・・・・・そう、貴族は触手を装飾品で飾りたてて、芸を覚えさせてパーティーに連れ回しているらしいのだ。

 見てみたい。

 スゴく、見てみたい。

 今までパーティーとか興味がなかったけれど、芸を仕込まれた触手には興味がある。


 ・・・・・・うん、だが転じて、庶民は生活的に触手の装飾品を買うことはなさそうだし、芸を教える時間や労力も惜しいだろう。

 となれば、家に勝手に住み着いた蜘蛛と同列程度の認識にもなるのだろうか。




「つまり、ソレは異常です。今すぐに捨てるべきです」

「つまり、ポチは特別って事か! ポチはスゴいねぇ」

 サラと私がほぼ同時に喋った。


「ンワ°!」

 ポチが元気よく肯定し、

「んんんん・・・・・・」

 サラから苦悶の声が聞こえた。

 そして、大きく息を吐く。

「はぁ、もういいです。分かりました・・・・・・」

 額に手を当てて、頭を振るサラには疲れが見えた。


「ジャンさん、今日は帰っていいですよ」

「あー、はいはい。クソ、これからまた、あの階段を降りんのか・・・・・・」

 ジャンが心底だるそうに頭を垂れ、モップを担ぎ直す。



「ん? いや、部屋は空いてるんだから、ジャンもこの塔に住みなよ」

 私が当たり前にそういうと、ジャンが目を見開いた。

「あ?」

「なぁああに言ってるんですか!?」

 何か言い掛けたジャンを遮ったのはサラである。

「この人、今は貴女の執事になったといえども、貴女を殺そうとした人なんですよ!? しかも、殺そうとしてまで日が浅い! それを、一つ屋根の下で生活するとか、どんだけ危険なことなの分かってます?」

 サラが顔を真っ赤にして、ジャンを指さした。

 やはり、未だに色々と納得ができていないらしい。



「・・・・・・いや、分かってるけどさぁ。この塔に勤めるとなると、本邸の人間から嫌がらせされるかもしれないでしょ? なのに、本邸の使用人と同じ部屋に押し込められないよ」

 そう、そもそもサラだって本邸の使用人だった。

 それが、私を暗殺しようとこの塔に忍び込みスパイのような真似をした。

 そして、まぁ、色々あって完全に私の方に寝返り、お兄さまに訴えて、私直属のメイドとなった。


 そうなった直後は本当に色々あったようなのである。


 元は四人部屋だったらしいが、無視されたりモノを隠されたり壊されたりしたらしい。

 私は全く気が付かなかった。

 サラは何も言わずに、強がって隠していたらしい。


 なので、私は「この塔に毎朝来るのも大変そうだし、住んだらいいんじゃないかな」と思ってそういっただけだ。

 正直、その提案にサラが一も二もなく飛びつき、そのまま数刻もせずに荷物をまとめて飛んでくるとは想像だにしていなかった。

 いや、そのつもりで言ったのだが、瞬きの間に引っ越しが完了していたので驚いた。

 え、そんなに塔の行き来嫌だったんだ・・・・・・と思った。


 その後、お兄さまに「あの子を守るために随分尽くしているようだね?」と言われ、真実を教えられるまで本当に知らなかった。

 サラもお兄さまも言ってくれればよかったのに。


「え、嫌がらせされるんですか?」

「すくなくとも、サラはされたんだよね? それに、塔の上り下り毎朝させるのは大変だし」

「ぅ・・・・・・でも、男性だし・・・・・・」

「不安なら、今付いてる鍵にプラスして何か付ける?」

「・・・・・・」

 サラが完全に沈黙した。

「キュ?」

 ポチが俯くサラに心配そうに近寄る。

「キュ~ンワ°?」


「あ~、俺は別に・・・・・・塔の外にでも野営するんでもいいぞ? 元々、冒険者なんだしなれてんだ。だから、大丈夫だぞ」

 取りなすようにそういったジャンが、サラの肩を叩こうと手を伸ばした。

「いいわけないでしょうが!!」

 サラが顔を上げて、キッとジャンを睨む。

「おぉ・・・・・・」

 ジャンの手が空中で不自然に止まった。

 その顔もヒキツっている。


「リナお嬢様が自分の直属の執事に野営させてるなんて言われるでしょ!? 何考えてんの!?」

「あ、はい・・・・・・」

「わかりました、えぇ、わかりました! リナお嬢様!! この人は私の部屋から遠いところにお願いしますね!!」

「じゃあ、サラが私の部屋の右隣だから、ジャンは左隣にする?」

「はぁあああ!!??」

「は・・・・・・」

「くっそ、他の階はまだ清掃が終わってないのか・・・・・・それに、そう、護衛・・・・・・アルバート様からはこの男を執事兼護衛にしろと言われている・・・・・・護衛は主人の近くに置くもの・・・・・・んんんん、分かりました!! そうします!! 部屋の準備してきますから、本邸から自分の荷物持ってきて!!」

 ジャンの返事を待たずにサラが部屋から飛び出していった。

 スゴい勢いだった。



「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・えぇっと、左隣の部屋でもいい?」

「あ、はい・・・・・・オネガイシマス」

 ジャンがブリキ仕掛けの人形のように頷いた。

 そして、そのままカクカクと動いて扉から出て行った。




「・・・・・・うぅん、もしかしてコレって、前途多難ってやつ?」

「ンワ!!」

 ポチが元気よく同意した。

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