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第四章:私とメイドと触手のポチ、あと暗殺の魔の手





第四章

私とメイドと触手のポチ、あと暗殺の魔の手





「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」



 新しい朝である。

 希望の朝である。


 そんな光り輝く朝ではあるのだが、触手のポチが巨大化した。




「・・・・・・え? 昨日は小指くらいしかなかったよね? え?」

「なかったですなかったです」


 そう、小指くらいしかなかったはずのポチが手のひらサイズにまで大きくなっていた。

 一晩で何倍にもなってしまったのである。


「いやいやいや、大きくなり過ぎじゃない!?」

「なりすぎでしょう!! は? 昨日変な物与えてないですよね!?」

「与えてない与えてない!!」

「じゃあ、何でこんなにでっかくなってるんですか!??」

「知らない知らない!!」

「ちょっと・・・・・・これ、どこまででっかくなるんですか!??」

「ミッツ!!」

 私が叫ぶせいで振動するベットからポチがころころと転がり落ちた。

 慌てたサラがポチをキャッチする。


「おぉ・・・・・・ごめんね、ポチ・・・・・・」

「ミッ・・・・・・」

「・・・・・・はぁー」

 ポチを両手で受け止めたサラが大きく息を吐く。


「捨てましょう」

「そ、そこをなんとか・・・・・・」

「どこまで大きくなるか分からないんですよ、コレ!!」

「で、でも・・・・・・成長期かも知れないし・・・・・・」

「成長期に一晩で何十倍もデカくなられたら、一週間もすればこの塔がこの子に潰されちゃいますよ!!」

「うぅん・・・・・・そ、そんなに大きくならないで~って言って聞かせるから・・・・・・」

「まず、言って聞くんですか!? 成長止められるんですか!? もう、またそうやって適当言って!!」

「ミッ・・・・・・ミッ・・・・・・」

 サラの手のひらの上でポチが小さく鳴いている。

 しなしなと頭を垂れて元気がない。

 少し、落ち込んでいるようにさえ見える。

 もしかすると言っていることが分かるのかも知れない。



「・・・・・・もー、触手をペットにしている方の話を聞いてみます!! あと、触手の飼い方の本とか触手仲介業者あたってみますから、変な物食べさせないでくださいね!!」

「了解でーす」

 サラが外套をヒッ掴んで飛び出していった。

 ソレを手を振って見送る。


「もう、あんなに急がなくても一晩であんなに大きくなったら、暫くは急に大きくならないって・・・・・・ねぇ、ポチ」

「キュイ!」

 いいお返事である。

「よし、ポチ。今日は君の生態を調べるために・・・・・・」

 振り返って其方を見る。



 そこにはベットで寝ている私と視線の高さが同じになるくらい・・・・・・つまりは、人間の子供くらいの大きさになっている触手のポチがいた。


「嘘でしょ、目離した瞬間にデカくなることある?」







***************************






 俺はジャン。

 かつては冒険者を目指していた。

 実力不足もあったのだろう、だが、一番は実力主義を唄っていた冒険者界隈ですら、魔法主義である事に嫌気がさして止めたのだ。

 俺がどれだけ危険な魔法生物を命懸けで倒そうが、信じてもらえない。

 魔力がある奴らに成果を奪われるのだ。

 もう、やっていけないと俺は冒険者を辞めた。

 どうせ階級も全く上がらない下っ端だったので、辞めるのは楽だったのだけが救いだ。


 だが、世間もそんなに甘くない。

 魔力がない上に成果はことごとく奪われた俺は下っ端冒険者どころか、破落戸の冒険者に思われ、新たな仕事はなかなか決まらなかった。

 そんな俺がようやくありつけたのが、アーバンノット家の庭師という仕事だ。

 そして、そんな俺に奥様は言った。





「あの塔にいる娘を殺すことができたら、一生困らないお金を持たせてあげる」

 一生困らないお金。

 興味がないわけではない。

 だが、母親にそうも言わしめる娘がどういうモノなのか、俺は気になった。

 塔の娘に接触して、もしも善人であれば「母親に命を狙われているのだから、さっさと遠くに逃げて幸せに暮らせ」といってやるのもいいかも知れない。

 もしも、彼女の両親のように性根が腐った人間であれば、殺してやって金を貰うのもいいだろう。

 たとえ、下っ端だったとしても冒険者をしていたのだ。

 汚れ仕事くらいは経験がある。

 常々そう考えていたからこそ、メイドが駆けるように塔から飛び出してきたときはチャンスだと思った。

 このメイド、時間も時期もめちゃくちゃに出掛けるので、予定が掴みつらいのだ。

 出掛けたのを偶然目撃できた今がチャンスだ。



 俺は長い長い塔の階段を駆け上がり、とうとう娘が暮らしている最上階の部屋に着いた。



「・・・・・・」

 貴族の住居。

 ソレは全く想像と違った。

 確かに俺たち庶民の家とは比べものにならないくらいに、造りは堅牢で素晴らしいのだろう。

 いや、堅牢すぎる。

 まるで牢獄のようじゃないか。

 誰かを閉じこめるために作られた事がよく分かる。



 ここに閉じこめられる娘?



 果たしてそれは一体どんな化け物なのだろうか。


 俺は静かに扉を開け、見た。







 部屋いっぱいに膨らむピンクの何かを。






「は?」

 ソレは扉を開けた瞬間、此方まで溢れ出してきた。

 文字通り溢れた。

 まるで液体か何かのように溢れた。


 そして、俺は押し流されてたのだ。




 ピンクの・・・・・・なんかスゲェブニョブニョしてネチョネチョしている何かに__






*******************************







「すみません、死にましたぁ~?」

 共に触手の荒波に呑まれた男に問いかける。

「い、生きてます・・・・・・」

 男が動いた。

 生きている。

 よかった。

「すみません、うちの子、ちょっと成長期ってやつで」

「・・・・・・うちのこ、せいちょうき・・・・・・」

「ンワ°ー!! プルルルル!!」

 ポチが鳴く。

 先程まで部屋に入らない程の膨張を見せたポチは、大量の粘液を放出後、無事に縮み始めて、小型犬程の大きさに落ち着いていた。


「成る程、今まで身体を圧縮していたけど、本来はアレくらいの大きさだったんだろうな。だけど、今の住居と定めた部屋であの大きさは不便だと考えた。だから、ちょうどいい大きさを模索していた。その結果、一旦身体を大きくして、体液を放出する事によって自分にとって活動しやすい大きさに落ち着いたのか・・・・・・」

「んきゅ・・・・・・プルルルル」

 ポチが身体を曲げて、丸を作った。

「お、正解って言ってる?」

「ンー」

 ポチが一度身体をほどいて、再び丸を作る。

「おー・・・・・・」

「・・・・・・おー」

 一緒にポチの体液・・・・・・粘液に流された男性から戸惑ったような声が挙がる。

「触手ってそんなに賢いもんなんだ・・・・・・知らなかったわ」

 感心してくれたようだ。



「でしょ? ポチって賢いんです! この大きさだって私やサラが大きくなりすぎたらどうしようって、困ってたから小さくなってく・・・・・・あ、お兄さん、私両足動かないんです。サラが帰って来る前に、なんとか部屋まで連れて行って貰ってもいいですか? 外に出てたのがばれたらお小言が・・・・・・」

 一大事である。

 お小言。

 だけですむだろうか?

 お兄さまに言いつけられるかも知れない。

 そして、二人でねちねちねちねち言われるのだ。

 さ、最悪だ。

 悪夢だ。

 早く部屋まで戻って・・・・・・というか、戻して貰って証拠隠滅して貰わなければならない。


「いや、あの・・・・・・」

「はい」

「その子の粘液・・・・・・多分、麻痺成分あるらしくて動けないかな・・・・・・」

「あらー」

「あらーじゃなくてね・・・・・・」

「逆に、お嬢さんは身体動きそう?」

 男性の言葉に手を動かしてみる。

 動かない。

 成る程。


「目線くらいしか動かせないですね」

「だろうね・・・・・・」

「え、うちのポチスゴくないですか!?」

「そうだね・・・・・・」

 男性が力なく答える。

 どうやらお疲れのようである。


「あのさ・・・・・・」

「はい?」

「君は悪い子じゃないみたいだし・・・・・・うん・・・・・・変わってるけど、うん。いや、正直、ここに閉じこめられるくらいのことはしてそうだけど、うん」

「・・・・・・なんか今、悪い子じゃないを怒濤の勢いで帳消しにしていません?」

 男性の目がスゴい勢いで泳いでいる。

 残像が見えそう。


「いや、うん。もう、言っちゃうとね・・・・・・」

 男性がそう言いながら、少し迷った。

 本当に言っていいのか迷っている感じだ。

 何度か目線が泳ぎ、口を開閉する。

 そして、意を決したように言葉を続けた。



「俺は君のお母さんから、君を殺すように言われたんだ」


 瞳に迷いはあったが、それは私を傷つけたらどうしようと思っている人間の瞳だった。

 この男性は恐らく善人なのだろう。


「あ、お兄さんもですか」

「うん? 俺も?」

「本邸に雇われている人って皆、そう言われてるみたいなんですよね」

「うん? 皆?」

「はい、皆。まぁ、そんなことしたら、私のお兄さまに殺されちゃうから、皆できないんですけどね。それに、あの守銭奴が邪魔者を消したくらいで使用人にお金なんて払うはずないし!」

「あ、そう・・・・・・」

 今度こそ脱力したような、疲れ切ったような声を出したお兄さんはソレを最後に喋らなくなった。

 なんか、お兄さんには麻痺だけじゃなくて、疲労とか脱力の効果までありそうな感じに見える。




「お兄さん? お兄さん? え、死んじゃった? お兄さーん?」

 結果だけ言うと、私とお兄さんはサラが帰ってくるまでそのままだった。

 というか、サラが帰ってきても一端無視された。

 お兄さんが回復して、漸く私は部屋まで連れて行ってもらえたのである。




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