第三章:チャッチャラーン! 生きている触手が仲間になった!
第三章
チャッチャラーン! 生きている触手が仲間になった!
「みてみてみて! サラ、生きている触手だよ!! ほら、ちっちゃな触手ちゃん!!」
捌かれた触手とちっちゃな触手が入った桶をサラの方に傾ける。
「え?」
サラが目を丸くする。
「しょ、触手?」
「そう、触手」
「さ、捌かれてた触手が息を吹き返した・・・・・・とか?」
少し震えているし、顔がひきつっている。
大分肝を冷やしているらしい。
「ん、いやいや、違う違う。捌かれている触手の胃袋から、ちっちゃな触手が出てきたんだ! ほら、見て! かわいいでしょ?」
「い、胃袋から!? つ、つまり食べられて、死んだはずの触手が生き返って!?」
サラの上半身が後ろに反らされる。
「いや、どれだけ生き返らせたいの? 全然違うからね? 生きたまま丸呑みにされていたからまだ生きていたみたいなんだ。いや、ちっちゃな触手は胃液に溶かされた感じないし、もしかすると誤飲だったのかも・・・・・・いや、誤飲じゃなくて、もしかすると外敵から守るためにわざと飲み込んだ可能性もあるかも知れない・・・・・・」
「ちょっと、つまりは・・・・・・アンデットでもゴーストでもないんですよね!? 大丈夫ですよね? この塔に紛れ込んだりしてないですよね?」
「・・・・・・あぁ、そういえばサラって死霊系の生物が苦手なんだっけ?」
「大ッ嫌いですよ!!! 私の祖母の死体がクソネクロマンサーの手によって、アンデットになってた時のこと話しましたよね!? 腐ってたんですよ!! 腐って歩いてたんです!! もう、目玉なんかぐちゃぐちゃで虫も触手も・・・・・・あ”ー!! 本当に最悪!!!」
サラが発狂した。
「大丈夫、大丈夫、アンデットでもゴーストでもないから」
「はぁー」
サラが額に手を押いて、深く息を吐いた。
「いいですか、絶対に絶対に!! 死霊系の生物をこの塔に連れ込まないでくださいね」
そして、キッと私を睨みつけた。
「? いや、連れ込んだのは私じゃなくてサラじゃない?」
私はこの部屋から一歩も出ていない。
もう何年もである。
なので、この部屋を出入りして何か持ち込むのは、サラとお兄さまとあと本邸の使用人たちの方だ。
断じて、私ではない。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「よし、この触手捨ててきます」
サラが私から桶を奪い取った。
そして、そのまま私に背を向けて扉に向かう。
勿論、桶の中には捌かれた触手とちっちゃな触手がいる。
「待って待って待って、止めて止めて止めて」
私はベットの上で有らん限りに手を伸ばした。
不味い不味い。
サラは本当に捨てかねない。
「に”」
ちっちゃな触手らしい小さな鳴き声も聞こえた。
「ほら、ちっちゃな触手ちゃんもサラに抗議してる! こんなにちっちゃくてかわいいのに捨てちゃだめだよ!!」
「わかりました、キッチンに持って行って、リナお嬢様の今夜のスープに入れて貰いましょう」
「やだー!!!」
「ンワッ」
多分、ちっちゃな触手も悲鳴を上げている、気がした。
「つまり、リナお嬢様が触手を欲しがったのは、研究目的に生態観察を行いたかったから、と」
私のベットの横に椅子を持ってきたサラが尋問するように問いかける。
椅子に座って、足を組み、視線の高さは同じ位なのに、何だか遙か高みから見下ろされているような気がする。
怒っている。
明らかに怒っている。
サラにとっては「今日はサラが嫌いだから申し訳ないけど、触手を食べたいなー」程度の我が儘だったのが「今日からサラにこの触手をお世話して貰います」という我が儘に進化したのだ。
まぁ、うん、怒りますよね。
圧倒的に私の言葉が足りなかった。
サラに我が儘を言うチャンス!
と目が眩んで説明を省いてしまった。
「はい、全く持ってその通りと言いますか・・・・・・」
「リナお嬢様がペットを飼ったら、実際にお世話をすることになるのは私なんですよ」
「はい、全く持ってその通りでございます・・・・・・」
「ミッ」
私が持っている樽の中で触手も心なしか、しょんぼりとしている。
やっぱり、知性があるというか、私たちの感情を察知し、共感しようとしている気がする。
そうだよね?
「・・・・・・ミッ!!??」
なぜか、触手が桶の中で縮みあがった。
「リナお嬢様、ギラギラした目で触手を見ない!! おびえてるじゃないですか!!」
「・・・・・・やっぱり、おびえているよね、コレ!? つまりさぁ、知性があるよね!! え、やっぱり中身が気になるかも・・・・・・!!」
「ンワ・・・・・・」
「そんな目で触手をみない!!! 手をワキワキしない!!!」
震え上がったちっちゃな触手がなんとか隠れようと身を小さくさせる。
勿論、ちっちゃな触手は桶に入れられているので隠れられていないし、丸見えである。
「うーん、確かコレを駝鳥の真似をするっているんだっけ?」
「・・・・・・いや、めっちゃ怯えてますよ、コレ。はぁ~、触手ってこんなに感情豊かなんですねぇ~」
「ね~、あ、さっきのお兄さまに伝えるついでにさ、外に出たときに他の触手飼っている人たちの話とか聞けたら聞いておいて欲しいな」
「はいはい」
「触手ってなぁに食べるんだろ」
「雑食らしいですよ」
「へぇ~」
「ま、よろしくね、ポチ」
ツンと丸まったちっちゃな触手を爪でつつく。
ちっちゃな触手、ポチはまだ丸まって死んだ振りを続けていた。