第十章:お兄さま襲来、あと命の危機
第十章
お兄さま襲来、あと命の危機
破られた窓がお兄さまが手を挙げた瞬間、元の形に戻っていく。
まるで世界を巻き戻しているかのようだ。
「ふふ、いや、別に君たちを苛めようという訳じゃあないんだよ?」
お兄さまが優しく、甘く囁く。
なぜか背筋に怖気が走った。
「ただね、どういうモノかなって、ちゃんとこの目で確かめておかないとね・・・・・・ほら、私にとってはリナは大切な妹だし、たった一人の家族なんだ」
今、ナチュラルに両親を省いたな、お兄さま。
まぁ、私も彼らを両親となんて認めてはいないけれど。
「そ、その通りです」
サラがブンブンと首を上下に振る。
首がもげそうだ。
「あー、確かに妹の安全は・・・・・・心配、っすよね」
ジャンもサラの様子を見て戸惑いながらも、お兄さまに同意した。
だが、次の瞬間にはサラに肘を入れられ、お腹を抑えて前屈みになった。
「理解いただけたようで嬉しいよ」
お兄さまが私の両足の下に手を入れた。
恐らく体勢を変えて、そのまま寝ころばせようとしているのだろう。
私はそれに反抗するためにお兄さまの首に手を回して抱きしめた。
「ほら、リナはもう寝なさい。こんな時間まで起きていたら駄目だろう?」
「いえ、もう少し起きています・・・・・・えっと、私の口から皆を紹介したいですし」
「・・・・・・そう?」
「はい」
頷くとお兄さまが抱き抱えなおして、サラたちの方へ顔を向けさせてくれた。
「ご存じでしょうが、私のお世話をいつもしてくれるサラ、そして、この間だからお兄さまが庭師から私の執事にしてくれたジャンです」
まずサラを片手で示し、次にジャンを片手で示す。
二人は私の紹介にあわせてお兄さまに頭を下げた。
「そして、ベットの上の篭にいるのがペットのポチ」
そう言って、お兄さまに微笑む。
お兄さまも私に微笑んだ。
「リナ」
「はい」
「紹介ありがとう」
「いいえ」
「でも、君のポチ・・・・・・ちょっと害獣・・・・・・いや、悪い子と勘違いしちゃって・・・・・・」
「・・・・・・え?」
私は固まった。
悪い子と勘違い?
悪い子と勘違いって何だ?
あれ?
そういえば、窓が割れてからポチの声が聞こえないな。
お兄さまが何か摘んで持ち上げる。
お兄さまが摘んているものには全く見覚えがなかった。
茶色っぽくて、薄い・・・・・・何だ?
全く何か分からない。
なのに、すごく嫌な予感がする。
「今、君のポチは魔法で干からびてるんだ」
「嘘でしょ、それポチなの!!???」
私は思わず、声を裏返して叫んだ。
そして、お兄さまに摘まれているモノ・・・・・・哀れな姿になったポチを引ったくる。
触るともちょもちょしている筈のポチが、カッスッカスのスカッスカになっていた。
「ポチ!! ポチ!!! しっかりして、ポチ!!」
「・・・・・・ミィ・・・・・・」
微かに乾物になったポチから小さな声が漏れた。
「生きてるー!!!」
「そっか、じゃあ、セーフだね」
「アウトだよ!!!」
何故かにこやかなままのお兄さまに噛みついて、サラの方に向き直る。
「水!! 水分!! ポチがポチがぁああ!!!!」