3-1 新しい日々
紗月と大輝は「今を大切に生きる」という約束を胸に、新たな日々を過ごし始めた。
限られた時間を恐れるのではなく、その瞬間瞬間を楽しむこと。
それが二人の選んだ道だった。
翌日から、大輝は積極的に紗月を誘い、彼女が笑顔になれるような計画を立てた。
小さなカフェでの昼食、街の小さな美術館巡り、そして夜はいつもの公園で星空を眺める――そんな穏やかでささやかな時間が二人の心を満たしていった。
「こんなに毎日が楽しいなんて、思ってなかった。」
美術館の出口で、紗月はふとつぶやいた。
その声にはどこか安堵の色が混じっている。
「そりゃあ、俺が一緒にいるからだろ?」
大輝は冗談めかして笑い、紗月も「もう、大輝君は本当に調子がいいんだから」と笑い返した。
その表情は、どこか前よりも柔らかく、穏やかだった。
しかし、大輝は気づいていた。
紗月がふとした瞬間に見せる影のある顔。
その影が、彼女の体調や未来への不安から来るものであることを。
ある日、大輝は紗月を自分の家に招待することにした。
彼女の気持ちを少しでも楽にしてあげたいという思いからだった。
実家を出て一人暮らしをしている大輝の部屋は、広くはないが、彼なりに整えられていた。
「なんか、大輝君らしい部屋だね。」
紗月は部屋を見渡しながらそう言った。
その言葉に、大輝は「それ、褒めてる?」と少し照れ臭そうに笑った。
「うん、褒めてるよ。なんか安心する。」
紗月のその言葉に、大輝は心がじんわりと温かくなるのを感じた。
彼女が自分のそばでリラックスしているのを見て、少しでも力になれているのだと思えた。
「ここ、俺の秘密基地みたいなもんだからさ。辛くなったらいつでも来ていいんだぞ。」
「ふふっ、秘密基地かあ。じゃあ私もメンバーにしてもらおうかな。」
「もちろん大歓迎だよ。むしろ君専用にしてもいいくらいだ。」
紗月は大輝の言葉に、どこか照れたように笑った。
だがその笑顔の奥に、わずかに寂しさが滲んでいるのを大輝は見逃さなかった。
「……紗月、無理してないか?」
唐突にそう尋ねると、紗月は一瞬動きを止めた。
しかし、すぐに笑顔を作り直して首を振った。
「大丈夫だよ。本当に。むしろ、毎日がこんなに楽しいなんて、最近では考えられなかった。」
その言葉に嘘はないのだろう。
それでも、大輝はその裏にある彼女の不安や恐れを感じ取っていた。
夜、紗月を家まで送る帰り道、二人はいつものように星空を見上げた。
澄んだ空気の中で、無数の星が輝いている。
「星ってさ、不思議だよね。昔の人たちも、同じ空を見てたんだよね。」
紗月がぽつりとそう言うと、大輝は頷いた。
「そうだな。何百年も前の人たちも、こうやって星を見て、いろんなことを考えてたんだろうな。」
「私も、ずっと星を見ていたいな……」
紗月の声は小さく、そしてどこか切なかった。
その言葉の意味を深く考えたくない気持ちと、真っ直ぐに向き合わなければならないという思いが、大輝の胸の中でせめぎ合った。
「大丈夫だよ、紗月。これからもずっと一緒に星を見よう。」
大輝の言葉に、紗月は静かに頷いた。
しかし、その瞳には、一瞬だけ涙のような輝きが見えた。
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