3-5 最後の願い
満月の夜を一緒に過ごした翌日から、紗月は急激に体調を崩した。
大輝が紗月の家を訪れると、母親が困った表情で出迎えた。
「ごめんなさい、大輝君。紗月は今日はあまり動けなくて……。」
母親の声には疲労と心配が滲んでいた。
大輝は無理を承知で「少しだけ顔を見せてもいいですか?」と頼み込み、紗月の部屋に通された。
薄暗い部屋の中、紗月はベッドに横たわっていた。
彼女は小さな声で「大輝君……来てくれたんだね」と微笑んだ。
その顔色は青白く、体は以前よりさらに細くなっているように見えた。
「無理させてごめん。でも、どうしても顔を見たくて。」
大輝はベッドのそばに座り、紗月の手をそっと握った。
彼女の手はひどく冷たかった。
「大輝君が来てくれると、私、元気になるよ。本当に……ありがとう。」
「そんなこと言うなよ。俺は紗月と一緒にいたいだけなんだ。」
その言葉に紗月は微笑んだが、その瞳にはどこか覚悟のような光が宿っていた。
その夜、大輝は紗月と一緒に過ごすために彼女の家に泊まることになった。
紗月の母親が「紗月も安心すると思う」と言ってくれたのだ。
二人でベッドの隣に置いた椅子に座りながら、大輝は彼女に問いかけた。
「紗月、何かしてほしいことがあれば何でも言ってくれ。どんなことでも叶えるよ。」
紗月はしばらく黙っていたが、やがて小さな声で答えた。
「一つだけ……お願いがあるの。」
「何でも言ってくれ。」
紗月は弱々しく手を握り返しながら、静かに言葉を続けた。
「最後にもう一度、星を見たいの。あの公園で……大輝君と一緒に。」
その願いを聞いた大輝は、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
紗月が「最後」と口にしたことが、彼女の中でどれだけの覚悟を持っているかを示していたからだ。
「分かった。絶対に行こう。約束する。」
大輝は力強く答えた。
その声に紗月は安心したように微笑み、静かに目を閉じた。
数日後、大輝は医師や紗月の家族と相談し、彼女を再び公園に連れて行く準備を整えた。
紗月の体調はさらに悪化しており、自力で歩くことは難しかった。
それでも、彼女の願いを叶えるために大輝は全力を尽くした。
そして約束の日の夜、紗月は車椅子に乗せられ、大輝とともに公園へ向かった。
風は冷たかったが、夜空は澄み渡り、無数の星が瞬いていた。
「すごいね……こんなにたくさんの星が見えるなんて。」
紗月は空を見上げながら、子どものように目を輝かせた。
その表情を見て、大輝は胸が熱くなった。
「ほら、あそこに流れ星が見えるぞ。」
紗月は弱々しく手を合わせ、心の中で願いを祈る。
その姿を見た大輝は、彼女にそっと問いかけた。
「紗月、今度は何をお願いしたんだ?」
紗月は目を閉じたまま、小さな声で答えた。
「……大輝君が、これからもずっと幸せでいられますように。」
その言葉に、大輝は何も言えなかった。
喉の奥が詰まるような感覚に襲われ、ただ彼女の手を握りしめることしかできなかった。
星空の下、二人は静かに時間を共有した。
紗月は穏やかな表情で空を見つめ続けていた。
その瞳に映る星々が、二人の約束を見守っているように感じられた。
「ありがとう、大輝君。本当に、ありがとう……。」
紗月の声が風に溶け、静かに消えていく。
その夜、大輝の胸には紗月との思い出と、彼女が最後に見せた笑顔が深く刻まれた。
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