3-2 迫り来る現実
穏やかな日々の中にも、紗月の病気の影響は徐々に表れ始めていた。
歩くスピードが遅くなり、少しの距離を移動するだけで疲れた表情を見せることが増えた。
それでも彼女は笑顔を絶やさなかった。
まるでその笑顔が、大輝への最大の贈り物だとでも言うように。
ある日、大輝は紗月を連れてキャンパス内のカフェテリアで昼食をとっていた。
彼女の食欲が以前よりも落ちていることに気づきながらも、それを指摘することができなかった。
紗月が「美味しいね」と言いながら小さく笑うたび、大輝の胸は痛んだ。
「紗月、最近無理してないか?」
食後のコーヒーを飲みながら、大輝は思い切って尋ねた。
紗月は少し驚いたような表情を見せたが、すぐにいつもの柔らかい笑顔を浮かべた。
「大丈夫だよ。本当に無理なんてしてない。」
そう答える彼女の声は穏やかだったが、大輝にはそれがどれほど自分に負担を隠そうとしているかが分かっていた。
「でもさ、もし辛いなら、俺に言ってほしいんだ。紗月が我慢してるのを見るのが一番辛い。」
大輝の真剣な言葉に、紗月は一瞬だけ視線をそらした。
カフェの窓から見える青空に目を向けながら、ぽつりと答えた。
「……私ね、時々怖くなるんだ。この幸せがどれくらい続くんだろうって。」
その言葉に、大輝は何も言えなかった。
紗月が抱える恐怖や不安は、自分には到底理解しきれない深さがある。
それでも、彼女を安心させたいという気持ちだけが胸を満たしていた。
「紗月、俺はどんなことがあっても、君のそばにいるよ。」
彼女の手をそっと握りながら、大輝は言葉に力を込めた。
その温かさに紗月は微笑んだが、その笑顔にはわずかに涙が滲んでいた。
数日後、紗月の体調が急激に悪化した。
朝から何度も咳き込み、顔色が悪くなった彼女を見て、大輝はすぐに病院へ連れて行くことを決めた。
診察室での医師の説明は、大輝が覚悟していた以上に厳しいものだった。
「水瀬さんの症状は進行しています。今後は安静に過ごすことが最優先になります。無理をすると、さらに状態が悪化する可能性が高いです。」
紗月は「分かりました」と静かに答えたが、その表情はどこか遠くを見つめているようだった。
診察が終わった後、大輝は彼女と病院の待合室で向き合った。
「紗月、これからは俺がもっと君を支える。絶対に一人で頑張ろうなんて思わないでくれ。」
大輝の言葉に、紗月は力なく微笑んだ。
そして、小さな声で言った。
「ありがとう、大輝君。でもね……私、自分の弱いところばかり見せるのは嫌なの。大輝君には、私の笑顔だけ覚えていてほしい。」
その言葉を聞いて、大輝は拳を握りしめた。
彼女がどれだけ自分のことを考えているか分かるからこそ、それが切なかった。
「紗月、それでも俺は君の全部を知りたいんだ。強いところも弱いところも、全部含めて君だから。」
紗月はその言葉に何も答えず、ただ静かに目を閉じた。
そして、そっと大輝の肩に頭を預けた。
その重さが、彼女がどれだけ疲れているかを物語っていた。
その夜、大輝は一人で夜空を見上げていた。
紗月のために自分に何ができるのか、そればかりを考えながら、星々の瞬きに誓った。
「俺は絶対に諦めない。紗月が笑顔でいられるように、どんなことでもする。」
無数の星が、彼の決意を静かに見守っているように思えた。
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