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第5話 レジェンドとファンタジー

 小説を好きに書けるようになった頃、同時に私は勉強が好きになっていた。

 いや、少し語弊がある。好きな事の解像度を深める勉強が好きになったのだ。


 高校生の私は受験に向けてという勉強しか知らなかった。小学生の頃は知らないことを知っていくという世界が広がる楽しさにのめり込んでいたが、徐々に出来なくなっていたそれを大学で取り戻したかのような思いだった。

 教授達は講義で色々な事を話す。「~~と、これまでが〇〇視点のものでした。では反対の〇〇から見たこの出来事はどういうものだったでしょうか」という、小説で言うところの視点の切り替えによる話がたくさんあったのだ。


 とても楽しかった。単語として知っていた歴史上の事件に、色が溢れた。同時に、すべての学問が繋がっていることを感じたのだ。

 歴史上、ここは色んな国が土地を巡って争っていた。それはこの土地でよく穀物が育ったからだ。その理由は地理的にこれこれこういう理由でそうなっており、そこに神秘性を見出して宗教が出来て色んな問題をはらんで等々。

 一つの出来事の理由のすべてに、これまでの勉強がついてきていた。それを知った瞬間、これまで遊んできたゲームや触れてきたファンタジー小説の楽しみ方がより深まった。


 どうしてあの街はああいう作りだったのか。この部族は実はこれを参考にしたんじゃないか。知識があればあるほど、その裏にある作者達の知見の深さと広さが分かり、こだわりを知れた。

 だからといって、あの時もっと勉強しておけばよかったとは思わなかった。今気づけて良かったとは感じた。きっとあの時はあの時で、自分には勉強以外の大切なものを好んで貫いていたのだろう。その先でこの結果に至ったのだから、それで良かったのだ。


「ファンタジー書くの、や~めよ!」


 そう言っていた勉強嫌いの中学生の私に、これだけは言ってやりたい。

 学びを得た後で触れるファンタジーは、くっそ面白いぞ、と。


 そんな風に、皆に少し遅れる形で大学の勉強を楽しんだ私は、卒業して社会人になった頃、とあるレジェンドと出会った。





 社会人になった私は、なぜか原点回帰をしてサイト運営時代にはまっていたジャンルに再燃していた。

 通勤時間がやたら長かったので、スマホでぽちぽちと小説を打ってpixivにあげていた。相変わらず隙間産業が好きだった私は、自分のエモさを貫いてジャンルの隙間を埋めに埋めていた。

 それが、有難いことにちょっと受けた。王道や奇をてらったものは、すさまじい年数を重ねて歴史のあったこのジャンルには溢れていた。隙間物が丁度なかったらしい。

 そうした活動の先でご縁が出来、もう数十年このジャンルで小説を書き続けているレジェンドにお会いすることとなった。


 彼女の小説は素晴らしかった。アマチュアの私が言うのもあれだが、長らく小説を書き続けていたため無駄が一切無く、筆力がすさまじく高かった。話の構成もしっかりと説得力のあるもので、読者を置いてきぼりにすることなく寄り添うように最後のページまで導くのだ。本当にプロ並みの実力を持ってらっしゃるのだと、心から尊敬していた。

 彼女はいつも文庫本になるくらいの量を書いていた。それを一つのジャンルで数十年である。そんな方から、私は大切なことを教わった。


「いつだって今が一番若いのよ!」


 はっとした。目が覚めるような思いだった。

 二次創作を書く傍ら、勉強が楽しくなったおかげでまたファンタジーを書きたいという欲がじわじわと私の中で育っていた。

 だが、ラプソディシリーズを読んだ時に思い知った、「ファンタジーをしっかりした世界観で書くにはめちゃくちゃ勉強が必要だ」という思いがずっと足を止めていたのだ。

 しかし、レジェンドは言うのだ。いつでも今が一番若いから書けるうちに書いているのだと。いつか年を取って体力すら失ってしまうその前に、たくさん書いておきたいのだと。

 いつ、ファンタジーにおける完璧な知識を得られるかなんてわからない。そもそも学問のプロフェッサーである教授だって科目が分かれている。

 自問自答した。

 お前は完璧なファンタジーを書くために、すべての学問の教授になるまで待つのか? と。




 ――出来るか阿呆!




 だから、今が一番若い内に書き始めることにした。知らないことは都度学びつつだ。

 それが今連載している作品だ。年を取ったせいか、キャラクターの特徴や背景を描く内に、伝えたいことを乗せたい気持ちも多くなった。

 難しいテーマを選んだものだと私も思う。でも、これまでの私と今の私を繋ぐのはファンタジーでしか出来なかった。


 未熟者の身と理解していれど、あの時やめると決めたファンタジーを今小説で書いているのは、以上、こういう理由である。

 ご笑納頂ければ幸いである。

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