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また巻き込まれることになったはなし

全四話の最終話です

せかいをあざむく、じゅつしき。

 成長の代償に捨てていくべき厨二病みたい…つーかそのまんまのワードだ。

 確かにそれらは世界を騙していたのかもしれない。

 ただそれでもコイツに関わっていたヤツらは、俺の家族や友達やら、ご近所さんやらは術式とやらで疑問に思う事ができなかったからこの二十年ちょいをこんな対岸の化け物と歩んできたわけなんか決してない。

 騙されていたから、わたしと一緒にいる事に疑問を抱かなかったんだよ。なんて暗に言われて少しムカッときた。


「なぁ。俺たちがホントにそのじゅつしき?とやらで疑問に思うことが出来なかったから一緒にいたと思ってんのか? だからてめぇとご近所物語していたと思ってんのか? いつも通りすがりにコロッケをくれたお肉屋さんも、売れない部分をあら汁にして食わせてくれたお魚屋さんも、通りすがりにいい香りがする花を一輪くれたお花屋さんも、余りもののみかんとかくれた八百屋さんも、いつもいっつも作りすぎたとか下手くそな言い訳してお前ん家にオカズを持って行った母ちゃんも、なんかイベントがあるたびに誘いに行ってた親父も。ただ疑問に思えなかったからてめぇに関わっていったって言うのかよ?」


なんで俺はこんなに熱くなっているんだろう?

 勢いよく語ったりなんかしちゃってるんだろう?

 俺のまわりを馬鹿にされたとでも思っているんだろうか? わっかんねぇな。


「は? えっ?」


そこでソイツは俺の言いたいことに感ずいたらしく顔を歪めた。


「お前の異常性になんか皆とっくに気付いてたんだよ。ただみんな口に出さなかったってだけだ。人にはみんななにかしら踏み込まれたくないことがあるからねぇ。話したくなったらあっちから話してくれるでしょ?って見守ってたんだよ」


「いやいや、だって、そんなわけない。そんなに簡単なものじゃないはずなんだよ!」


普段アニメとか見ていて、然るべき法則を無視してご都合的にパワーアップするような辟易してしまう俺ではあるのだが。


「セカイとやらを騙せたって、一緒に過ごしてきた皆はだまし続けられらないんだって。みんなはテメェの術式に付き合ってやるほどお人よしで愚かかもしれないけれど、決して馬鹿なんかじゃねぇんだ」


時間と手間をかければ、世界を騙す術式とやらだって、俺たちを謀り続けられない。

 この化け物天才ロリはそんなこともわからなかったようだ。


「お前はさぁ。モブを舐めすぎなんだよ」


確かに俺たちはこの世界が映画とか小説とかマンガだったのならせいぜいが舞台装置であるモブキャラぐらいの扱いかもしれない。

 だけどモブキャラだって一個の生命で当然生きている、各々の人生を一生懸命だったり怠惰にだったりだけどそれでも確かに歩んでいる。

 確かに俺のまわりに人間は砂糖を吐きたくなるくらいに愚かでお人よしである。

 ただ家族とかいうよくわかんねぇコミュニティだと定めたヤツにたいしてはお節介パワーっていうよけわかんねぇ能力で世界を騙す術式だとか豪語するトンデモすら覆す。

 本当にご近所さんたちは馬鹿みたいに人がいい。

 愚かにも繋がりができたものには手を差し伸べる。そして一番致命的なのはそうした以上繋いだ手を決して放そうとしない。

 繋いだ手を緩めようとも小指一本の繋がりでも離さないのだ。


「だから、そんな簡単なもんじゃ…はぁ、いや、いくらこの場で言っても水掛け論かぁ」


今この場で術式が解けたどうだかを議論しても結論など出まい。

 商店街の人やクラスメイトや俺の家族に聞けばわかるかもしれないが、術式解けてますか? なんて聞くのははずかしいし、聞かれたほうだって困ってしまうだろう。


「どうして? なんて聞いても、キミたちはわからないんだろうなぁ。なんて言うか。こっちは結構がんばって理論を組み立ててこうして術式を編んでいるっていうのに、それの突破方法が理屈に沿っていないっていうのは何と言うか、なんじゃそりゃって感じだわ」


そいつは両手を広げて、お手あげのようだ。

 こいつに振り回され続ける人生だったが、俺がコイツに一泡吹かせたのは初めてではなからろうか?

 なんだか溜飲が下がった気がして酒を呑みほした。


「はぁ、そうかぁ。確かにキミたちを舐めてたのかもしれないね。あと勝手に線引きしてた感も否めないわ。ふ~んそうかぁ、思い出したよ。わたしはキミたちにもっと頼ってもいいのかもしれない。差し当たってはキミに迷惑をかけてもいいのかもしれないね」


どうしてそんなトンデモ結論に着地できるのだろう?

 人はいつだってだれかに迷惑をかけて生きている。それは当然無自覚で、なんだっけ? バタフライエフェクトだっけ? 風が吹けば桶屋が儲かるだっけ? まぁそんな感じで、きっといつだって誰かに助けられている。

 俺たちに関わってしまった以上、コイツだってきっと誰かに助けられているのだろう。

 ただソレ以上に誰かを助けているからそんな自覚もないのかもしれない。

 だからと言ってもそれが俺に迷惑をかけていい理由にはならない。ふざけんな。


「は? なんでそうなる。こっちはそもそも迷惑なんてちっちゃい頃にめっちゃ被ってるんだよ!!!」


思い出せないほどの数々のエピソード。

 小っちゃい頃はもっと遠慮なく俺をあっちらこっちらトンデモに引っ張り込んでは、最後に生きててよかったぁなんて安堵のため息をつくような体験をいくつもさせられた。


「色んなことしたねぇ。でだ。そのたびにキミはぐちぐち文句を垂れながらも着いてきてくれた。大学でキミとちょっと離れて過ごすうちにさ。誰もがキミみたいについてきてくれるわけじゃない。むしろキミみたいな人の方が珍しい部類だってわかっちゃってからはさ。どうにも巻き込むのに抵抗が出来ちゃってさ」


そこまで言って、ソイツは俺を下から覗いてきた。

 小っちゃい顔で、おっきい目を精一杯かっぴらいて、可愛く、あざとく、俺が逆らえなかった仕草で。


「だからさ。これからも巻き込むから。よろしくね」


断れないと知っている癖に、そう言うのだ。

 あ~。なんだか余計な説教で今後被る必要のない厄介事を背負い込んだかもしれないなぁ。

 しかたねぇなぁ。と酒をあおった。


 そして、また互いが持っているもう片方が知らないエピソードを語りだす。

 さっきまでしていた世界をどうたらするとかいう話ではなくて、アイツ結婚したんだぜ。とかそういう類のはなしだ。

 さっきまでのやり取りはなんだったのかというくらいにお互いの酒が進んでいく。

 こんなに飲んだのは初めてではないだろうか?

 なんだか本当に気分がいい。酒に飲まれている実感がある。

 偽りであることはわかっているが、全能感がすごい。

 どこまでも行ける気がするし、なんだってできる…気が…。


「おりょ?」


ろれつが、まわらない。体の動きが、鈍い。


「あ~あ。飲み過ぎたよ。自分のキャパくらいは把握しておいたほうがいいよ。ああもう寝ちゃったか」


上からぼんやりとアイツの声が聞こえてくる。

 意味は理解できるが反応することができない。


「わたしはそろそろ時間だから、行くね。今回はわたしが払っておいてあげるから、今度呑むときはキミのおごりだからね? あと、今後も巻き込むからよろしくね」


それが理解できた最後の言葉だった。




それから目を覚ますと、俺が寝ていたのは一時間くらいで、お代もアイツが払ってくれていたみたいで、眠りこけてすいませんと店に謝って外へ出た。

 冷たい外気が気持ちいい。

 自販機で水を買ってがぶ飲みする。喉をするりと通り抜けていく水がうまい。

 それにしても。


「また、呑もうかねってか。そうかぁ、またって言ったなアイツ」


その時にはきっとアイツは俺がドン引きするエピソードをいくつも携えてくるのだろう。

 それに備えて俺もモブエピソードを用意しなくてはならない。

 あと巻き込まれエピドードも増えることだろう。

 なんだかんだ口角があがっている。

 異性と飲む、言葉にするとなかなかどうして心躍るイベントだ。


「あ~あ。楽しみだなチクショウ」


結局アイツがどういう存在で、どうして歳を取らないのか、とか。

 なにをしていて、どんな知識をもっているのだ、とか。

 そういった考えを巡らせなければいけないことはいくらでもあるはずなのだが。


とりあえずそれに思慮を割くのはまた別の機会にでもして。

今日のところは次の飲み会がいつになるのかって楽しみするくらいはいいだろう?


読んでくれてありがとうございました。

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