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主人公に物申すとき

全四話の三話目です

それからコイツは語る。

 俺が隣にいなかった間の出来事。

 相変わらず要人とか国とか世界とかを結果として救い。化学の極致だとか魔法の果てだとかを興味本位で分解して興味が無くなれば放置して、万物法則とかあらゆる理不尽とかを蹂躙し関わるものをすべてしっかりと租借して先へ前へとにかく一直線に進んでいるようだった。

 まったく呆れるような英雄譚だ。

 人が一生かけても体験し得ないような、月並みに言えば嘘みたいな日々。そんなのを日常として日々を生きている。

 こいつが隣にいた時はそれを非日常なんて思いもしなかった。慌ただしくもよく起きることだと錯覚していた。

 だけどこいつと離れて日常を送り始めたからわかる。あれはおおよそ世界の裏側の出来事と言っても差し支えないような事だ。


「なぁ、いい機会だから聞いてみてもいいか?」


酒の勢いを借りて、こんな場末の席で聞いていいようなことかも考慮せずに、本来であればもっと早く聞いておくべきだったこと。

 今までなんとなくスルーし続けてきた疑問。それがとうとう噴出する。


「んん、いいよ。言ってみなさい」


果たして俺が聞こうとしていることに検討がついているのかは窺えないが、それでもソイツの表所に変わりはなく、酒に呑まれたまま上機嫌のままで。


「お前は結局さぁ。何者なんだ?」


とうとう聞いてしまった。

 家族というものがいないこいつ。あんなに広い家で1人きりだった。

 いつの間にか俺たちの隣人になっていたこいつ。いつから一緒にいたかももう思い出せない。

 いつまでも容姿が変わらないこいつ。いつまで少女やってんだよ。俺の性癖を歪めに来るんじゃねぇ。

 いつ得たかも知れない深淵の知識をもつこいつ。それは既存の化学とかそういうもので説明がつかないようなものにまで及んでいる。

 人間としては桁が違うどころか規格が違うこいつ。ガワは人間かもしれない。けれど、中身は果たしてどんな存在なのだろうか。

 総評するとどう甘く見積もったとしても―――。


「人間っていうカテゴリーぶるにはちょっと無理がありすぎるぜ?」


これに尽きた。

 あ~言っちまった。とうとう言ってしまった。さてどうなるんだろう。

 人間ではない。それは的外れな発言ではないと思う。

 俺にそう思わせるだけの思い出というかバックボーンがある。


「うん? あぁあれ? おっかしいなぁ。そういう疑問が抱けないようにしてあったはずなんだけど。結構強めなヤツで誤魔化してたはずなんだけどなぁ」


言葉尻だけを追うのならばソイツにとっては予想外のことが起こっているはずなのに、動揺や狼狽えみたいなものは一切なく。ソイツはあくまでも笑っていた。

 いたずらした時の八重歯を覗かせてキシシと笑うような小悪魔顔ではなく。

 それこそ今まで対峙してきた敵に対するような、背筋が凍るような、皮膚下で虫が這いずりまわるような不快感と恐怖心が同居しているような。戦慄と呼ぶには十分な表情だった。

 その猛禽のような縦筋の瞳孔がこっちを窺っている。

 今更藪蛇だったと後悔するしかない。

 出来ることなら5分前に戻って無かったことにしてしまいたい。そんで和気藹々楽しい飲み会モードのままで終わりたかった。

 しかしそれはもう叶わない。

 それをぶち壊したのは他でもない俺自身だ。


「疑問を抱けないようにしてあっただぁ? 強めのヤツで誤魔化してただぁ?」


よくわからないが催眠術とかそういう類のものだろうか?

 にわかに信じがたいことではあるがこいつならそういったトンデモを行使できるという謎の確信がある。


「まぁ暗示って感じかな。それをめちゃ強めでかけてたんだ。もちろんキミだけじゃなくてわたしに関わる全てにかけてたんだけどね」


もう眼前のロリは己の異常性を隠す気が一切なかった。


「そっかぁ。解けちゃったかぁ。おかしいなぁ」


しかし次に繋がる言葉は予想外で、いたずらを咎められたような表情だった。濡れた子犬みたいだ。

 こいつのそんな弱気な表情など本当に久しく見た気がする。


「ちょっと興味があるんだけど、暗示が解けたきっかけってなに?」


コイツは俺に尋ねる。その言には観念に似たものがあった。

 だけど、どこか重荷が降りたような表情でもあった。


「それこそ擬似的ではあるけれど世界を騙すくらいの術式だったんだけどなぁ。わたし的にはかなり傑作だったんだけどなぁ」


それほどに自身が作り出した術式とかいうよくわからんトンデモ法が崩れたことに対する落胆みたいなものが見てとれる。

 ただいじけた少女がぶーたれているようにも見える。きっとこういうあざとい仕草も地なんだろうな。

 ホントにお前は歪んでしまった俺の性癖を返せ。


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