そう言えば、色々まきこまれていたのだった
全四話のうちの二話目です
あいつ。彼女は居酒屋に入るなり店員に免許証を提示した。て言うか車に乗れるんだ。アクセルやブレーキに果たして足が届くのだろうか?
「わたしはこんなナリであるけれど、この免許証が示すとおり未成年ではありませんからね」
だそうだ、慣れた対応である。
もうアルコールだって楽しめるというのに、そんな飲酒ライフを邪魔するどう見ても中学生くらいの外見で生きていくことは彼女にとっては当たりまえの事。
年齢を疑われるたびに必死になって訂正をする彼女の姿が当時のままで思わずなつかしくなって笑うと。
「なにを他人事みたいに笑って…。いいですか、言っておきますけどあなたこそちょっとばかし幼く見えるわたしこんなお酒の席に連れ込んで、犯罪者だと嘯かれても知りませんよ?」
わたしが弁明しなければ、あなたは犯罪者扱いなんですよ、イニシアティブはこちら側にあるんですよ。とばかりにキシシとやっぱり幼さが残った表情で意地悪く笑うのだった。
そんな笑顔から八重歯がチラリとのぞいて、どれだけ天才と持て囃されそうともコイツは俺にとって悪ガキ仲間なんだなぁ、というのを思い出してしまったり。
はて、お互い成人しこうしてお酒の席にて相対して咲かせる話は…。
「最近そっちのほうはどうだ?」
くっそつまんない会話の切り出ししか思いつかない自分のボキャブラリーの無さに絶望して。
「ふふ、何それ。おじさんみたいだよ?」
普段俺はこいつに対してどんな会話をしていたのだろうかという、会わなくなってからたかだか二~三年くらいしか経っていないというのにそんな過去すら思い出せないという己の不甲斐なさに情けなくなってくるのだった。
年をとると加速度的に過去を忘れるし、ところどころ抜け落ちた過去をねつ造するように美化とかもする。
これが大人になるということなのだろうか? わっかんねえなぁ。
それでも注文した以上お酒やつまみはやって来るし、乾杯などして酒を呑んでいくうちに関わらなくなったお互いの時間を埋めあうように話にも花が咲く。
失敗もあっただろう。それでもソレ以上に成功だってあった。
それら過去にお互い関わった人や場所や事件なども肴にして語らうのだ。
ぶっちゃけると悪くない時間だ。
どころかこんなストレスしか感じ得ないような社会人生活においてはこのような気心が知れた友人と飲む酒というのは最上のガス抜きではなかろうかとすら思える。
俺にはあまり友達というのがいない。だからこういった飲み会は頻繁には行えるものではないから、この為にこいつとの交流をもっと密にしてもいいかな? と思えるようなぬるま湯のような時間が流れていった。
「ああそうだ。キミが忙しそうに社会の歯車をやっている間にもこっちも色々なことがあったよ」
俺が語れば、次はそいつの番だ。
酒を含んでほんのり頬を紅潮させた見た目だけなら天才少女が語りだす。
「ほら、ちょっと前に生体兵器とか言って化け物をけしかけてきたマッドサイエンティストがいたじゃん?」
ちょいと考えてみる。
生体兵器という単語が日常では出てくることがないからピンとこない。
「いたっけ、そんなの?」
疑問に対して疑問で返すのもいかなものかと思ったが、そんな奇天烈な事があったか思い出せない。
やっぱり日常に馴染みの無いセリフだ。そんな単語を使わざるを得ない状況があったとしたら覚えていないということは無いと思うのだが。
もうちょっと考え込んで。
「あ…。突然思い出したわ。あったなぁそんなこと」
こんなに必死に頭の中をひっくりかえしてようやく思い出せるくらいの思い出でしかなくて。
そんな生体兵器だとかマッドサイエンティストだとかよりも強く思い出したのは、俺はその当時からコイツに巻き込まれるような事件はこのようなとんでない案件ばかりだったなぁということを思い出したのだった。
「なつかしいでしょ? ほらほら、あの時さ、わたしがキミをとっさにかばって左腕を吹っ飛ばされたときのあれさ」
ああ言われて更に思い出した。コイツは言葉の通り俺をかばって隻腕となった。ホントに嫌なことを思い出させてくれる。
あの時の切り離されたコイツの腕が宙でくるくる回りながら地面に落ちる場面を目の当たりにして、ごめんなさいと謝ることしかできなかったなぁ。
ただコイツはそれから一月もしたら失ったはずの手がまた生えていた。
どういった理論でそうなったのかは一切不明だが、まぁコイツなら起こせる奇跡なのだろうと、呆れたのを覚えている。
「そんで、そのマッドサイエンティストさんがどうしたって?」
俺の記憶が正しいのであればその件のマッドサイエンティストとやらは俺の眼前でお酒を呷っているロリにぐっちゃぐちゃにされたはずだ、ひき肉にされたほどだ。
思い出せたのと同時に、当時俺がそのぐっちゃぐちゃをまともに見てしまって盛大に吐き散らし貸したこともセットで思い出した。
「いやぁ~。間違いなくしとめたと思っていたんだけどさぁ、この前また私の所に来たんだよね。しかもびっくりしたのはなんとソイツが50程に増えてしまっていたんだよ。思わずマトリックスかよって突っ込んでしまったね」
リローデッドのエージェントスミスね。
「そんで、そのマットサイエンティストにどうやって増えたんだって聞いたらさ、クローン技術を確立したとかほざきやがるからさ、そんな技術があるのなら学会でも震撼させろよ。歴史の教科書にだって余裕でのれちゃうぜって言ってやったの。そしてらソイツはなんて言ったと思う?」
また当時を思い出してるのだろう。いたずらを仕掛けたときのように八重歯をのぞかせながらキシシと笑っていた。
いやちっとも面白くはね~んだが。
はぁ、どんどん当時に記憶が思い出される。たしかそのマッドサイエンティストとやらは各国にバイオテロかましたると息まいて各国に秘密裏にマークされているだとかそんな裏設定があった気がする。
「お前に復讐せずに我らは前には進めぬ、とか言うんだよ~。いや~私ももうおっかしくなっちゃってさ」
そこまでを一気にまくしたて、掲げたグラスに口を付け、一気に酒を呑みほした。
「そいつら全員さ、液体窒素でガッチンガッチンに凍らせてやったんだよ~」
いや、満面のやってやったわ感全開の笑顔のところ悪いんだけど全然笑えないのだが。