お酒の席でなんやかんや
全四話の一話目です。
あいつ。彼女に関して言えば、疑問を抱かなかったことがないと言えば嘘になる。
ただその当時はそれらの疑問は俺にとっては些細な事だったので、疑問が浮かんでは日常を過ごすうちに薄まって、また疑問に思ってはさらに日常に埋没して…。
そんなことの繰り返しだったから優先順位は高くなくて、割とどーでもいい事だったのだ。
女の子にどうやったらモテるとか、どうやったら大金持ちになれるだとか、そんな生産性のないことを考えるほうがその当時の俺にとっては重要だったのだ。あ~恥ずかし。
あいつは昔から俺の家族と懇意にしていて所謂顔なじみといった関係だった。
俺が保育園とか幼稚園とかに通っていた時、俺はあいつのことをお姉ちゃんと呼んでいた。なぜならあいつはその時中学生くらいの容姿だったからだ。
乳飲み子の数倍も生きているあいつをお姉ちゃんと呼ぶことにはなんの抵抗もなかった。
そんでちょいと時が経ち、俺が中学生の時にあいつはなぜだか俺と同じ学年に在籍していた。
ツッコみどころが満載でおかしい事この上ないのだが、クラスメイト、教師、商店街の大人たち、挙句に両親を含めそれらの不思議にいっさい触れることがなかったので俺もいつの間にかそんな大人たちに倣って疑問を口にすることはなかった。
別にそれらの疑問に触れなくたって、面白おかしな日常は回るし。逆に触れてしまうことで壊れてしまう可能性すらあったわけだから、慎重派である俺の行動理念に沿った行動であったと言えよう。
そしてそのまま腐れ縁は続いていく。
同じ中学校を卒業した。あいつの見た目は特に変わらなかった。
まぁ年相応の容姿ではあったと思うので特に気にすることはなかった。
同じ高校を卒業した。やっぱりあいつの見た目には特には成長期だとかそういった変化は見られない。
みんなが目まぐるしく、身長や体重、流行りの恰好、声などが変わっていくなかでもあいつはロリロリしくちょっとだけ浮いていたが周囲の評価としてはまぁ成長期が遅れているちっちゃい女の子くらいの感覚ではあったと思うし、愛をもってだけどそんないじられ方もしていた。マスコットみたいなポジションだったのだ。
同じ大学を卒業した。
この頃は俺自身の単位だとか就活だとかの問題でクッソ奔走やら迷走やらしていたので周りのことを気にかけている余裕など皆無である中、あいつはなにやらすごい功績をあげたとかで大学院に進むことが決まっていた。
容姿は相変わらずで研究時に羽織っていた白衣があまりにもダボダボで天才飛び級少女だとかからかわれていた。
そんで、ここで俺とアイツは道を違えたわけだ。
俺は誰でもなれるような量産機サラリーマンへ。
アイツは代替えなどない稀代のロリロリオンリーワンジーニアスサイエンティスト…。
属性の多さがやべえな、インフレしてんぞ。
まぁいいや。今と言うココに至るまでアイツがらみの色々な事件とか事故とか巻き込まれたりしたがそれらはもう昔のはなしだ。
懐かしくはあるかもしれないが、決して戻りたくはない過去のトンデモ超常現象ラッシュだ。
楽しかったかと聞かれると、総合的には断じてノーではあるのだが、部分部分を切り取ってみたり。退屈はしなかっただろ? などと自身の心に言われてしまったりすると、まぁ確かにまんざらでもなかったのは確かに一つ俺なりの回答ではある。
世界なんてものは起こりえない事も含めて起こるときにはなんでも起こる、起こってしまうと若干諦観の境地じみた心構えを抱かせる、学ばせるには十二分だったと思う。
もしもこの世界が一冊の物語だとか二時間で終わるような映画とかであったのなら、それらの事件だかを解決したその当時であれば、一緒に事件に挑んだアイツに運命など感じたかもしれない、ときめいてしまっていたかもしれないが、この世界は物語でもなんでもないし事件など大なり小なり無慈悲に押し寄せてくるものだ。
そんな無慈悲な日常に流されるままに俺はいつの間にか大人になっていて、あいつとはたまに電話する程度には疎遠になってしまっていたのだが…。
ここで冒頭に戻るわけだが、なぜそんな疎遠になってしまったアイツの事なんぞ思い出していたのかというと。
たまたま道端でであったからだ、その道端で少し語らいなんやかんやあって一緒に居酒屋に入ってしまったからなのだった。