そのサイコロは不思議の国から ―迷宮探偵・驚天動地郞のウルトラ推理―
「その通り。凶器はこれですよ」
探偵は高らかに言い放った。
探偵・超次元ヶ原驚天動地郞。常人の想像を遥かに越えた超絶推理で謎に挑む。
誰が呼んだか、その名も“迷宮探偵”。
「バカな。こんなものが……?」
彼がつまみ上げたのは、小指の先ほどの小さなサイコロだった。
被害者は後頭部を殴打されていた。
部屋はがらんとして何もない。
このサイコロを除いて。
「簡単なトリックですよ」
ピンと指を立てる。
「被害者は、小さくなったのです」
「何……だと」
「『不思議の国のアリス』をご存じですか?劇中に、体が小さくなる場面があります。そう……殺された時、彼の体は小さかった。このサイコロが凶悪な鈍器と化すくらいね」
集められた一同を見回すと、
「この事件を一目見た瞬間、僕の脳裏に言葉が浮かび上がったのです。『不思議の国のアリス』と」
一人の少女に目を止める。
「どうしてでしょうね?有栖川さん」
「さぁ、分からないわ」
青いエプロンドレス姿の少女は答えた。
「ただの偶然じゃないかしら」
「そうですよ。ここには被害者とサイコロだけだ。どうしてそんな言葉が突然出てくるんです」
「ですが宇佐木さん。偶然でなかったとしたら?」
えっ、と白いウサギの顔をした男は赤い目を丸くする。
「まさか……何かあるのか」
「そうか。そこにトリックのカギが」
「その通りですよ窓畑さん、知恵社さん」
帽子を山ほど抱えた男と猫みたいな顔の男は目を見合わせる。
「ゼロから生まれた言葉が示すものは事件の“真実”以外に考えられない。僕は確信しました。これは『アリス』に関わりのある事件なのだと」
「じゃあ、まさか我々の中にもそんな人物が?」
体じゅうにハートのトランプを貼りつけた男は驚いた。
「いるのですよ。鳩幕さん」
ざわつく一同。
探偵は残る傍らの二人に目をくれた。
「というわけで鈴木さんに斉藤さん。お二人はお帰りになって構いません。あぁ念のため、捜査一課の本骨警部に連絡を」
「待って。彼らは無関係なの?」
「ええ。確かに不思議な方々ですが……」
はっきりと言い切る。
「彼らは『アリス』に関わりはありません」
さぁ、と促すと、斉藤と呼ばれた青い人物は、手にしていた懐中電灯のようなものを腹部のポケットにしまい、鈴木と部屋から出て行った。
探偵は改めて、一同を見やる。
「さて。問題は誰が犯人なのか、ということですが──」
探偵・超次元ヶ原驚天動地郞。
今日もまた、ひとつの謎が迷宮の奥底へと消えていく。