陽をみた日
―――町はずれの林にて
雪神花の香る茂みの奥にある、ぽつりと建つ一つの小屋。周りを青々とした木々が囲い、ひっそりとたたずんでいる。
そんな小屋の中から、ひとりの男が出てくる。名を魔法使いシャングルファン=ミモレット、またの名を悪魔だ。何世紀という時間をとあるモノを探す旅にあて、今はこの地にひと時の休息のためにいる。
いくら長い時を生きる彼とはいえ、その時間は長かった。少し休もうと思う程度には。
彼は、老いたのだ。昔とは違い、力は衰え、動きも鈍くなった。そろそろ後継者をみつけなければならなかったのだ。
自分の力を受け継ぐ者をみつけなくてはならなかった。そのために旅を始めたのに、いつしか何世紀も経っていた。
しかし、彼の休息には意外な展開が待っていた。自分の胸辺りにも届かない小さな少年との出会いだ。その子は不思議な子供で、今までに出会ったどの人間とも違うオーラを纏っていた。決して目に見えぬそれだが、我輩は我輩のちょっとした力で、相手がどういった心の持ち主であるのかを覗き見ることができる。心とは、その者の嘘偽りない本性のことだ。
『これだ。』我輩は、すぐに理解した。我輩の探していたものは、ここにあったのだ、と。
それで我輩は、その子に声を掛け、話をし、悪魔にした。
通常であれば、この星にいる人間の反応とは違うものだった。本来、恐怖し逃げ、二度と会いたくなどないと神に祈るもの。しかし、この子は魔法に強い関心を寄せ、魔法が使えるのなら悪魔にしてくれと、言ってきた。
それからすぐにその子を家に帰した。何か言わずともあの子は親や周りの人間に、このことを話したりはしないだろう。我輩とて、エクソシストとやりあうのは骨が折れるし、願わくば戦いたくはない。まあ、もし仮にそうなった場合は、エクソシスト共を消し、あの子を攫って行くしかない。
...あくまで最悪の話だ、そうなる可能性は低いだろう。
ともかく、我輩の旅は終わった。
あとはあの子に悪魔の力の使い方や、生き方を教えていくことが、我輩のすべきことだ。
彼は、外に出て薪を拾い、小屋の中の暖炉にそれをくべて火を起こす。火は自然と次第に大きくなり、そのうち大きくなったパチパチと揺れ動く炎を見つめる。切り株で作った椅子に座り、頬杖をつき、ただじっと見つめる。
もうすぐ一週間が経つ。もう少しすれば、彼はここへ戻ってくるだろう。
あの子は、きっといつかこの世界を照らす陽となるだろう。