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ここがどこだかわかりません 4

 国王の寝室から出た直後だ。

 サビナの声が響く。

 

(ディーン!!)

 

 すぐに、なにかあったのだとわかった。

 サビナが、リロイを通さずに連絡をしてきている。

 とんでもなく急ぎでもなければ、そんなことはしない。

 

(ジョゼに、なにかあったのだな?)

(ええ、そうよっ! (さら)われてしまったのっ!)

 

 サビナは、かなり動揺していた。

 つきあいは長いが、サビナのこんな口調は、初めて聞く。

 目の前で攫われてしまったことで、己に腹も立てているのだろう。

 

(上級魔術師だったと思うわ!)

点門(てんもん)を使ったか?)

(……いいえ、点門ではなく、遷致(せんち)よ)

 

 ということは、上級魔術師とはいえ、それほど腕の立つ者ではない。

 上級魔術師の中でも、格付けがあるのだ。

 サビナのように、国王付にまでなれる者は少なかった。

 

(妃殿下は……気を失っておられるわ……)

 

 遷致は、基本的に、意識のない者に対して用いる魔術だ。

 術者があらかじめ決めておいた場所に、対象を転移させる。

 通常の転移とは違い、対象の意識がないことと、その体にふれなければならないという制約があった。

 

 通常の転移に、術者以外の者を便乗させるためには、相手の意思が、必要となるからだろう。

 ジョゼフィーネに、見知らぬ場所について来いと言ったって、ついて行くわけがないのだから。


(ディーン、遷致となると……どこに連れて行かれたか……)

 

 そう、転移先がわからないのだ。

 点門ならば、向こう側が見えるし、門を開く先も限られる。

 点門は、点と点を繋ぐ魔術だが、遷致は違う。

 術者が特定しておいた場所になら、どこへでも飛べるのだ。

 そのため術者以外に、行き先はわからない。

 

(どういうことか、わからないわ……なぜ、妃殿下を……? リフルワンスからの正妃が気に入らなくて攫った者がいる?)

(むしろ、逆だ、サビナ)

(まさか、あの王太子っ?! 取り戻そうとしたっていうのっ?!)

(あの男が、首謀者というわけではないだろうがな。無関係でもあるまい)

 

 ジョゼフィーネは、リフルワンスに連れて行かれた。

 それだけは確かだ。

 彼女を起点に起こった3つの出来事から、読み取れる目的はひとつ。

 

 ジョゼフィーネが、リフルワンスに戻ること。

 

 ジョゼフィーネ本人が辞退するにしても、ディーナリアスが返すにしても、結果は同じになる。

 王太子の裏で動いている者は、その結果がほしいのだ。

 ロズウェルドとリフルワンスの関係を悪化させたいと考えている。

 そのための「きっかけ」としてジョゼフィーネの存在が必要だった。

 

(では、リフルワンスに行くわ!)

(サビナ)

(だって、ディーン! 私がついていながら……っ……)

(サビナ)

(妃殿下が、私に手を伸ばしてくださったの! 私を信じて……っ……)

 

 サビナは、涙声で訴えてくる。

 ジョゼフィーネが、サビナに信頼を寄せていたのは、知っている。

 あの臆病で警戒心の強い彼女が、サビナには心を開いていた。

 サビナも、その信頼に応えたかったに違いない。

 

(今は、そこに残れ)

(ディーン!)

(ジョゼの居場所もわからぬのに、行ってどうする。なにができる? 時間の無駄となろう)

 

 低い声で言うディーナリアスに、サビナが黙る。

 ディーナリアスが、けして「平然」とはしていないことを察したのだろう。

 もちろん、彼は平然とはしていなかった。

 心に怒りが渦巻いている。

 

(お前は、そこで指示を待て)

(あなたは、どうするの?)

(むろん、俺の嫁を迎えに行く)

 

 ディーナリアスは、本気だ。

 リフルワンスに行くつもりでいる。

 闇雲に動くのではなく、はっきりとした「アテ」があった。

 

(……ごめんなさい、ディーン。あなたに妃殿下を託されていたのに……)

(お前のせいではない)

 

 兄からの呼び出しは、策略によるものではない。

 偶然だったのだ。

 その機に乗じて、相手が動いた。

 王宮魔術師であれば、国王の寝室が、封鎖された空間であることは知っている。

 

(案ずるな。俺が、必ずジョゼを連れ帰る)

(わかったわ……でも、こんなことをした魔術師たちを、私は許さない)

 

 ぷつっと、即言葉が切れた。

 ディーナリアスの時間を、これ以上、無駄にさせないためだとわかっている。

 腹立ちと心配をいだきながら、サビナは次の指示を待つことにしたのだ。

 

 サビナとの連絡が切れたとたん、ディーナリアスの感情が冷たく凍る。

 こんなことなら、もっと早く「自分で」後始末をしておくのだったと思った。

 実際、1人で動いたほうが、簡単なのだ。

 

「俺から、俺の嫁を奪うことなど、できはせぬ」

 

 誰であろうと、そんな真似はさせない。

 ジョゼフィーネを害する者を、ディーナリアスは許す気はなかった。

 怒りが体に満ちていく。

 ジョゼフィーネがいると凪ぐ心に、嵐が吹き荒れていた。

 

 彼女の居場所はわからないが、行き先は決めている。

 怒りに満ちていても、ディーナリアスは冷静でもあった。

 冷徹に、物事を判断している。

 彼女の居場所がわかった、その時は。

 

「死以上の苦しみを与えてやる」

 

 ディーナリアスは、右手で円を描く。

 柱が2本現れた。

 点門を開いたのだ。

 門の向こうには、大きな屋敷が見える。

 

 ジョゼフィーネの居場所を聞こうと思っているのではない。

 その屋敷の主には、ジョゼフィーネを攫った「対価」を支払わせるだけだ。

 彼女の居場所を特定するための時間を長引かせるつもりはなかった。

 遅くなればなるほど、ジョゼフィーネの身に危険が及ぶ。

 

 おそらくジョゼフィーネは、今、アントワーヌと一緒にいるだろうから。

 

 ディーナリアスは、門を抜けた。

 そして、リフルワンスの地に足を踏み入れる。


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