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ここがどこだかわかりません 1

 ディーナリアスは、国王陛下の元に行っている。

 私室には、ジョゼフィーネとサビナの2人。

 

「こ、国王陛下、だ、大丈夫、かな?」

 

 ディーナリアスがいない時、ジョゼフィーネはテーブルセット側のイスに座る。

 日本風かどうかはさておき、小さめの、ワッフルに似たお菓子と紅茶がテーブルには、置かれていた。

 けれど、今は手を伸ばす気になれずにいる。

 

「殿下が仰られておりましたが、危篤の報せがあれば、王宮内が乱れます。今は、そこまで病状は悪化されておられないと思われます」

「そ、そう……」

 

 少しだけ、ホッとした。

 ジョゼフィーネには、身内らしい身内がいない、と言える。

 実母は他界しているし、父や姉とは「身内」的なつきあいをしてきていない。

 むしろ、今ではディーナリアスやサビナのほうが、距離感は近くなっていた。

 

「サ、サビナの……旦……こ、婚姻してる、人に、会ったよ?」

「パッとしない人でしたでしょう?」

「え、え……そ、そんなことない、と思う、けど……」

「近衛騎士隊長などやっておりますけれど、言い寄ってくる女性の1人もいないのですから、パッとしないのですよ」

 

 ジョゼフィーネは、ちょっぴり笑ってしまいそうになる。

 サビナのこれは、明らかに「ツンデレ」だ。

 ディーナリアスはわからなかったらしいが、ジョゼフィーネからすれば明らか。

 

 女性の1人も言い寄って来ないことに、サビナは安心している。

 オーウェンに言い寄る女性がいたらどうしようと、気にかけている証拠だ。

 いつも喧嘩をしていたというのも、素直になれなかったせいだろう。

 

 オーウェンのことを話題に出したので思い出す。

 ディーナリアスから「今は2人の子を育てている」と聞いていた。

 自分の侍女になったせいで、サビナは子供と一緒にいる時間が減っている。

 幸せな家庭を崩してしまってはいないかと、心配になった。

 

「こ、子育ては……?」

 

 ジョゼフィーネの心情が、顔に出ていたらしい。

 サビナが、にっこりと微笑んでくれる。

 

「元々、エヴァンが近衛騎士隊長をしているものですから、私たちは、王宮内の別宅で暮らしております。彼はともかく、私は転移ができますし、それほど離れているわけではありませんわ」

「さ、寂しく、ない、かな?」

「2人とも、今年で9歳になりました。親にベッタリする歳は過ぎましたね」

「ふ、2人、とも??」

「ええ、双子でしたの」

 

 ジョゼフィーネは引きこもりでやってきたし、人とのつきあいも避けてきた。

 さりとて、サビナの子供は、ちょっと見てみたい気がする。

 双子なんて見たことはなかったし、サビナとオーウェンの子供ならば、可愛いのではないかと思えた。

 

「落ち着かれましたら、殿下と2人で、いらっしゃいませんか?」

「い、いいの?」

「我が家は狭く、子供もうるさくしておりますが、それでも、よろしければ」

 

 こくこくと、うなずく。

 今までのジョゼフィーネからすると、考えられないことだが、彼女に、その自覚はなかった。

 ジョゼフィーネは、自分から「外」に出ようとしているのだ。

 

「た、楽しみ……ふ、双子、似てる……?」

「男の子なのですが、見分けがつきにくいほど、似ております。妃殿下は、双子をご覧になったことはございませんか?」

「な、ないよ。そんなに、似てるんだ」

「エヴァンは、時々、からかわれていますね」

 

 ということは、サビナは、ちゃんと見分けられているのだろう。

 やはり母親なんだなぁと思う。

 今世での母親が生きていたら、どんなふうだったかを考えた。

 とはいえ、生まれた時には、すでにいなかったので、わからない。

 

 ジョゼフィーネの母は、当時、26歳。

 子供を産むのに命の危険が伴う年齢と言われている。

 前世の記憶では、それほどの危険などない歳だと思われるが、この世界では違うのだ。

 いろいろ照らし合わせれば、体質自体が違うとわかる。

 

「わ、私……ちゃんとした、お母さんになれる自信、ないな……」

「私も、ちゃんとした母になれているかは、未だにわかりません」

「え……? そ、そうなの?」

「親になったのは、初めてですもの。なにが正しいか、判断がつきかねます」

 

 サビナが、ちょっぴりいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

「妃殿下は、殿下との、お子を成すことを考えておいでなのですね」

「えっ? あ、あの……そ、そういう……」

 

 言われて、気づく。

 自分の子供ということは、彼との子供であるということなのだ。

 かあっと、頬が熱くなる。

 具体的に考えていたわけではないが、恥ずかしくなった。

 

「ですが、当面、殿下には黙っておかれたほうがよろしいかと」

「よ、喜ばない、から?」

「いいえ、逆です。喜び過ぎて、ぶっ倒れます。あんな図体で倒れられても、面倒ですからね」

 

 ジョゼフィーネは、(まばた)き数回。

 サビナが笑ったので、つられてジョゼフィーネも笑う。

 気持ちが楽になり、お菓子に手を伸ばした時だ。

 扉の叩かれる音がした。

 

 サビナの表情が、わずかに硬くなっている。

 それを察して、ジョゼフィーネも緊張につつまれた。

 立ち上がり、サビナは身構えている。

 が、ジョゼフィーネの(そば)から離れようとはしなかった。

 

「急ぎの用件でなければ、のちほど出直してくださいませ」

 

 扉の向こうが静かになる。

 それでも、サビナは動かない。

 目に険しさが漂っていた。

 その意味が、すぐにわかる。

 

 室内に、パッと3人の魔術師が現れたのだ。

 いずれもローブ姿だったので、魔術師で間違いない。

 動いたのはサビナが先だった。

 3人の足元から火柱が上がる。

 

 驚いて、ジョゼフィーネも立ち上がった。

 サビナに任せるのがいいのだろう、とは思う。

 ジョゼフィーネは魔術も使えないし、なにもできないのだ。

 

 火柱につつまれても、3人の魔術師は平気らしい。

 炎が消され、なにもなかったかのように魔術師が近づいてくる。

 3人から同時に、何かが飛んできた。

 手を振ったサビナの前で、氷の矢や黒い球、石のようなものが動きを止める。

 

 ジョゼフィーネには前世の記憶があったため、それが「属性」だとわかった。

 サビナは炎を使っていたので、そちら系統なのかもしれない。

 だとすると、水や氷系統は、苦手とする属性となるはずだ。

 その上、3人には炎に対する耐性がある。

 サビナのほうが不利に思えたのだけれども。

 

 ぶわっ!!

 

 強い風が3人に向かって吹き上げた。

 ローブに裂け目が入るのが、見てとれる。

 そこから血が滲んでいるのに気づいたのか、3人がサビナと距離を取った。

 その下がった先に、針のようなものが大量に飛んで行く。

 

(サ、ザビナ、すごい……強い……)

 

 3人が、一斉に飛んで逃げた。

 さりとて、()けきれず、体に多くの針が突き刺さっている。

 さらに、3人の体から血が流れ出していた。


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