表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/80

教育的指導 4

 保とうと努力していた自制が、一打粉砕。

 ジョゼフィーネの、ひと言で消し飛んでしまった。

 顔を寄せ、唇を重ねる。

 やっぱり「ふわっ」とした。

 

 ジョゼフィーネは、ほとんど化粧をしない。

 リフルワンスから来た時もそうだったし、今もそうだ。

 ディーナリアスの好まない「べたっ」は、口紅のせいだったかもしれない。

 が、ジョゼフィーネとの口づけが快いのは、それだけではない気がする。

 

 彼女は性格までもが、飾り気がなかった。

 自分を、ことさらに良くみせようとしないのだ。

 臆病なところも、受け身に過ぎるところも、隠すそぶりすら見せない。

 本人は無自覚なのだろうが、あまりにも無防備だった。

 

 なにしろ、常に素の自分を見せているのだから。

 

 正直さや素直さすら、ジョゼフィーネは意識してはいないのだろう。

 きっと、今までそうやって、生きてきたに違いない。

 だから、逆に、些細なことにも傷ついてしまう。

 

 人は、己が傷つけられた時、他者に対して攻撃的になることが多い。

 心を守るための自己防衛本能が働くからだ。

 が、ジョゼフィーネは、相手を責めたり、攻撃したりはしない。

 ひたすら、自分だけを責めている。

 彼女は、他者から自分を守らないのだ。

 

 ジョゼフィーネの自己防衛本能は壊れている。

 

 なにがあってそうなったのかはわからない。

 が、ディーナリアスは、そのことについて、ひとつだけ理解できていた。

 

(お前は……自分のことが、嫌いなのであろう?)

 

 気が弱いのも、自信を持てずにいるのも、自分を守らないのも。

 すべて、そこからきている。

 

 ディーナリアスは唇を、少しだけ離した。

 ジョゼフィーネの唇の上を、そっと舌でなぞる。

 

「口を開け、ジョゼ」

 

 ディーナリアスの胸のあたりをつかんでいた彼女の手が、ぴくっと震えた。

 頬を撫でると、ジョゼフィーネが、薄く唇を開く。

 深く唇を重ね直し、するんと舌を滑り込ませた。

 

 ジョゼフィーネとする口づけは快いし、好ましい。

 そして、意味がある。

 

(たとえ、お前自身がお前のことを嫌っておろうと……俺は、お前が愛おしい)

 

 言葉にしようとすると、微妙にズレてしまう感情。

 愛おしさとともに、もどかしさもあるからだ。

 自分の気持ちは伝わっているだろうかと。

 

 ジョゼフィーネの舌を、くるん。

 やわらかな感触を、もっと確かめたくて、繰り返し、からめとる。

 そのたびに、彼女のことを、強く意識した。

 

 くるん、くるん。

 可愛い、愛らしい、愛しい。

 

 感情が連動して、ディーナリアスは口づけに夢中。

 そして、知らず、手が動く。

 

「ぁ……」

 

 重なった唇の向こうから、ジョゼフィーネのかぼそい声が聞こえた。

 瞬間、我に返る。

 息が苦しくなったのかもしれない。

 また彼女を昏倒させてしまうと、ディーナリアスは急いで体を離した。

 が、ジョゼフィーネは、困ったように眉を下げている。

 

「あ、あの……ディーン……こ、これ……?」

 

 問われていることの意味がわからず、首をかしげた。

 ジョゼフィーネの視線が、別の場所に向けられる。

 追って、ディーナリアスは、びっくりした。

 

「あ、いや! こ、これは……っ……ち、違うのだ、ジョゼ!!」

 

 バッと手を離す。

 いつの間にか、ディーナリアスは、ジョゼフィーネの胸に手を置いていたのだ。

 無意識だった。

 

 ジョゼフィーネの不安そうな顔に、焦る。

 彼だって、いきなり、そこまで関係を進展させようとは思っていなかった。

 ただ、彼女に対する思いの丈が、あふれ過ぎたのだ。

 

 ディーナリアスは、ジョゼフィーネの瞳を、じっと見つめる。

 そして、非常に真面目な顔で、聞いた。

 

「俺を……どすけべだと、思っておるか……?」

 

 見つめ合うこと、しばし。

 真剣に、ジョゼフィーネからの答えを待つ。

 好色な男だと思われているのなら、誤解を正さなければならない。

 ディーナリアスは好色なのではない。

 ジョゼフィーネが愛しいだけだった。

 

 が、真剣なディーナリアスに、ジョゼフィーネが、ぷはっと吹き出した。

 声をあげて笑い出す。

 その姿に驚いた。

 彼女が、こんなに楽しげに笑う姿を見たのは、初めてだったからだ。

 

「ま、真面目な顔で……そんなこと、聞く……? ディーン、面白すぎ……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ