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猫型配膳ロボ型フードファイター、ロノミー

再開しました(不定期)

 常盤マリーは、末堂スエヒコと途中駅で別れることになった。彼は推しのアイドルに会いに遠征した帰りで、同じ新幹線に乗るマリーと向かう方向は同じだったのだが、突如やむを得ない事情により離脱することとなった。


 彼は最後にこう残した。


『裏大食い会の会員証の総数は200枚でやんす。もし新たに会に入りたければ会員の者から会員証を奪う必要がありやす』


 末堂スエヒコは鉄道警察に連れられ、姿を消した。


 常盤マリーは車窓を眺めながら考える。


 いま、自分は武者小路コウジの会員証を持っている。つまり会に入る資格があるというわけである。


 彼女は武者小路コウジの不審死の謎に迫るために都会へ出ようとしている。彼が所属していた、この裏大食い会とやらに接触することは、事件解決の糸口となるに違いなかった。


 会員証を裏返すとNAME欄に武者小路コウジ、と油性ペンで書かれている。


 彼女は手元のスマホで油性ペンの字を消す方法を検索し始めた。しかしどうにもしっくりくる方法がない。


 カードに書かれて油性ペンを消すのは難しいようだったので、彼女は100円ショップで白いネームシールを買うことにした。自分の名前を書いたシールを上から貼り付けてしまおうと考えたのだ。


 末堂と別れて3駅あとで、彼女も一度寄り道するために新幹線を途中下車することにした。


 常盤が降りたのは、都会の駅であったため、改札を出ずとも駅の内側にいくつかの店舗が構えられており、100均もその中にあった。


 彼女は白いネームシール30枚入りと、ペペロンチーノのパスタソースを買った。


 そして、次の列車が来るまでの間、駅そば屋で食事をしながら時間を潰そうと、券売機からコロッケそばを購入する。


 構内にある駅そば屋には出張中のサラリーマンや、なんの仕事をしてるかわからないマダム、ヨレヨレのシャツをきたバンドマンなど様々な人種がいた。


 田舎育ちの彼女はここでようやく都会に来たのだ、と実感する。都会は人種のるつぼである。


「コロッケそばお待ち」


 常盤にとって駅そば屋といえば、立ち食いでカウンター席のみのイメージがあった。しかしここの店内はひろく、テーブル席もあったので彼女はひとりながらそこに座ることとした。


 周りを警戒しながら、コロッケそばに先ほど購入したペペロンチーノのパスタソースをかける常盤。ドロっとしたニンニクの風味が和風の出汁を台無しにする。


 ズルルルっ


 しょっぱく、また辛い麺が喉を突き抜ける。この味だ。実家でよく食べていた。


 ふるさとを思い出して彼女は涙ぐんだ。ふにゃふにゃのコロッケをかじり、そして水を飲む。


 今の彼女は大食いをする気にならなかった。一杯のそばで長居をしたいのに、早く食べてしまって出て行かざるを得ないからである。


 水をくぴりくぴりと飲み、おだやかな時間を過ごす。


 そこへ、平穏を乱すものが現れる。


 静かな駆動音ながら圧倒的存在感でソレは常盤マリーの対面にとまる。


「相席、ヨロシイかにゃん?」


 顔を上げると、そこにいたのは猫型配膳ロボであった。


 ファミレスなどにいるアレである。土管のような体型で、2段のお盆を胴に備えている。頭部には猫耳と、電子パネルの表示により表情を変える猫フェイス。


「ええ、いいわよ」


「ありがとうございますにゃん」


 猫型配膳ロボは頭部の段のお盆には、冷たいたぬきそばが乗っていた。胴の側面がパカっと開き、そこから2本のアームが伸びる。


 アームの先端には3本の爪が生えており、それで器用に箸を持つと、器から麺を持ち上げた。


 どこから食べるのだろう。常盤はロボの一挙一動に釘付けであった。


「いただきますにゃん」


 表情を映す電子パネルの口元…ではなく、そのわずかに下に、アームは麺を運ぶ。


 ウィーン。電子パネルすぐ下の面が開閉扉のように開き、中にはギザギザの歯車が覗く。


「あーん」


 麺を歯車のなかに放り込む猫ロボ。再びウィーンと音がして開閉扉は閉まった。


 ザザザザザザー!食物が刻まれる音がする。同時に電子パネルの表情が笑顔になった。


「美味しいにゃん」


「それはよかったわ」


 マリーも続いて蕎麦をすする。


 しばらくふたりは向かい合わせで麺を食していた。半分ほど器の量が減ったところで、猫型ロボットが話を切り出す。


「武者小路コウジ、惜しい人を亡くしたにゃん」


 マリーは顔をあげる。


 電子パネルは(◉⌓◉)←こんな表情になっていた。


「……なにか知ってるの?」


「ボクの名前は『ロノミー』にゃん。裏大食い会所属、武者小路コウジ一派のフードファイターにゃん」


 マリーはゴクン、と喉を鳴らした。末堂スエヒコに続いて、裏大食い会の関係者、それも武者小路コウジの仲間に会えた。これは果たして偶然なのか。


 マリーは慎重に尋ねる。


「私は常盤マリー。なぜロノミーさんは私が武者小路コウジの死の真相を追ってると知ってるの?」


 猫型ロボット、ロノミーは( ̄ー ̄ )という表情になる。


「さっき末堂が、武者小路一派のグループチャットにマリーちゃんのことを投下したにゃん」


「なるほど……」


 武者小路一派は情報共有がしっかりしている組織のようだった。マリーは蕎麦をひとすすりして、宣言する。


「武者小路とは、一度同じ炊飯器の飯を食っただけの関係。だけど、あんな不審な死を見て関わらずにいるなんてできなかったわ。私も大食いファイターの端くれ。裏大食い会に潜入して彼の死の真相を明らかにしたいの」


 ロノミーは、ロボットアームで器を持ち上げると、残り汁をすべて開口部の歯車の中に放り込む。


「裏大食い会は過酷な世界にゃん。時には死を覚悟する場面も多くある……それでもこちら側にくるかにゃん?」


「望むところよ。もとより私はプロを目指していたのだから」


 マリーは覚悟を問われ、即答した。にも関わらず、ロノミーは(◉ ▽ ◉)という顔になった。


「甘いにゃん。甘すぎるにゃんうどんくらい甘いにゃん」


「うどんはそんなに甘くないわ」


 ロノミーは胴体の扉を開き、なかから自身の裏大食い会の会員証を取り出す。


「実力を見せてもらうにゃん。ここから先、踏み込むというのなら生半可な食欲じゃ破裂して死ぬだけにゃん」


 マリーは、箸をグッと握りしめた。


 まずいことになった。


 彼女は今手持ちの金をあまり持っていないのだ。大食い勝負になってしまえば、金は底をつきてしまう。


 しかし、そんな心配は杞憂だった。


 ロノミーが通りすがりの店員に会員証を見せると深くお辞儀をされた。


「……今のは?」


「裏大食い会の会員証には決済機能がついているにゃん。ブラックのクレカよりステータスは高いされているにゃん」


「……そうだったの!?」


「今回は特別に奢るにゃん。でも覚えておくにゃん。もし裏大食い会に入ってフードファイターになれば、勝負で負けたらそのときの飲食代はすべて払うことになる……その意味がフードファイターであるマリーちゃんにわからないはずがないにゃん?」


「……ええ、意味はわかるけど一応共有しておきたいから教えてくれるかしら」


「ひとに飯を奢ると……自分のお金が減るにゃん」


「……なるほど、ね」


 そこへ蕎麦屋の店員が、ガラガラと台に乗せた寸胴を2つ持ってきた。


「お待たせしました、寸胴そばです」


 見たそのままのメニュー名である。業務量の寸胴のなかには推定10キロ越えの蕎麦が湯に浮いている。


「……っ!なかなかの量ね」  


 寸胴の大きさはロノミーの2/3ほどある。業務量なだけあって一度に大量に作れるサイズである。


「では、始めるにゃん、フードファイト、GO!にゃん」


「!?」


 聞き慣れない試合開始の合図に気を取られながらも、マリーはなんとか箸を手に取った。

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