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激走!VS末堂スエヒコ!

書いててなに書いてるかわからなくなりましたが、そのまま投稿します。

「あっしの名前は末堂スエヒコ。通称『全裸のスエヒコ』です」



  全裸の男は名を名乗る。末堂スエヒコは、年齢にして20歳あたりの外見だった。


 右乳首に貼りつけられた『会員証』に警戒しつつも、マリーも自己紹介する。



「私は常盤マリー。『烈火のマリー』の名で通っている大食いファイターよ」



「烈火のマリー?……どこかで聞いた名でやんすねぇ…」


 全裸の男、末堂はしばし目をつぶり考える。そして数秒後、目をカッと開く。



「むっ!思い出しやしたぜ!烈火のマリー!アマチュア大食いファイターとして、ボスが気にかけていた女の子!まさかこんなところで会えるとは」



 マリーは照れ臭くなり、ほおをかく。


「光栄ね。裏のフードファイターに名を知ってもらえてるなんて。あなたのボス?も私のことを知っているの?」



 末堂はええ、と頷く。



「あっしは裏大食い会、武者小路派閥の一員なんでやんす」



「武者小路……!?まさか、あなたのボスは武者小路コウジ!?」



「そうでやんすが……」


 マリーは末堂に、今日起きたことを話す。武者小路コウジと戦ったこと。そして、彼が死んだことを。


 末堂は唖然としていた。この事実が信じられないようだった。


「馬鹿な……ボスは、裏大食い会屈指の大食いファイター……すなわち、体術も一流。並のフードファイターに殺されることなどあり得ない……!」



 マリーは懐から「裏大食い会会員証」を取り出し、NAME欄に油性ペンで書かれた「武者小路コウジ」を指す。


「残念ながら、本当よ。これは彼の所持品」



 末堂は汗を浮かべながら、頷いた。


「たしかに……それはボスの会員証でやんす。フードファイターにとって、その会員証は命より大事なもの……。お嬢さんがそれを持っているということは、ボスはもう……」



「一応言っておくけど、殺したのは私じゃないわよ。アリバイもある。容疑者はフードを被った人間なのだけど、心当たりはある?」



「フード!!?」


 がばっと立ち上がる全裸の末堂。周りの乗客らが、末堂の股間に視線を注ぐ。


「まさか、そんな……フードファイター界においてフードを被るということが……何を示すか……お嬢さんも知らないわけじゃないでしょう?」



 マリーは深刻な末堂の雰囲気に飲み込まれ、全くわからなかったが、厳かに知ったかぶりをした。



「ええ……恐ろしいことね。でも一応認識を照らし合わせたいから、話してくれないかしら」



 末堂はしかし、ここで話を区切る。



「そんなことよりお嬢さん。さきほどこのサーモン弁当を食べたいとおっしゃっておりませんでしたか?」



「え?ええそうね。3個ほど譲ってくれないかしら?」



 すると、いままでやさしい表情をしていた末堂は顔をしかめる。



「すみませんが、この弁当はすべてあっしよものですわ。もし食べたければ、定額の2倍、一個2000円払ってもらいやすよ」



「!!?っっっっっ!!!」



 マリーは瞬時に後方へバックステップし、末堂から距離をとる。そして常盤流護身術「火鼠の構え」をとり、戦闘態勢に入る。



 火鼠の構えは、常盤流護身術でも最古の型であり、回避を重視した防御の構えである。


 強大な敵を相手にしたとき、マリーは本能的にこの構えをとる。



 深呼吸したのち、キツイ目で常盤マリーは尋ねる。


「まさか、末堂、あなたは転売ヤーなの!?」



 末堂は、席を立ち、仁王立ちする。


 彼は全身に、底知れないオーラを纏っていた。


「いやそういうことではござやせん。ただ、これはすべてあっしのものでやんす。お嬢さんもフードファイターなら、あっしらの一食が、弁当一個じゃ足りないことはわかるでしょうよ」



「しかし……2000円は高すぎる!ならば決闘をしましょう!私が勝ったら、一個200円でその弁当を買い取るわ!


 そして、裏大食い会への入り方を教えてもらうわ!


 さらに、武者小路コウジのことについて教えてもらうわ!


 あと、フードファイターにおけるフードを被る意味を教えてもらうわ!」



 末堂はにやりと笑った。



「そうこなくては。もしあっしが勝ったら、ボスの会員証をあっしに渡してもらいますよ故人の遺物をよく知らないひとにもたれるのはなんだか気分が悪いでやんすからね」




 「全裸のスエヒコ」末堂スエヒコ



 vs




「烈火のマリー」常盤マリー




 ここに、フードファイトの火蓋が切って落とされた!!!







 この特急電車内では、車内販売で弁当が売られている。


 サーモン弁当ほど有名ではないが、乗客の75人にひとりが買うほど絶品な五目弁当が、電車内をカートとともに売り歩かれている。



 今回の決闘は、その五目弁当を次の停車駅までに多く食べたほうが勝ち。そういったルールとなった。



 末堂とマリーは、公平に、最後方車両の10号車まで戻り、一斉にスタートを切ることにした。


 車内販売のカートは1号車から来る。


 そう、勝負の鍵は、先に弁当を購入することなのである。


 先に弁当を入手したほうが、必然、弁当を早く食べられるのだ!





「スタートの合図は、お嬢さんに譲りますよ」



 紳士的に合図を譲るスエヒコ。


 呼吸もつかせぬうちに、マリーは叫んだ!




「スタート!」



 さすがに準備も整ってはおるまい。汚い魂胆で、奇をてらった合図を放ったマリーだった。


 スタートダッシュはもらった!



 だが、その確信が覆る。

 


 合図の瞬間、突風が吹いた!!!



「っ!なっ!?」


 

 一瞬だった。一瞬で、マリーの隣に立っていた末堂が消えた。



 マリーがはっとして前を見たときには、すでに末堂は9号車の中腹を走っている!

 


 マリーは気付く。



 末堂スエヒコの軽装は、この超高速移動を実現するためのものであると!



 古代オリンピックの競技において全裸は正装であった。


 そう、歴史が明らかにしているのだ。全裸は、あらゆるスポーツの成績を向上させる最強の軽装であると。


 空気抵抗や摩擦など。


 着衣がもたらすデメリットは大きい。


 服は速さを殺すのだ。



 早食いにおいても、スピードは重要なファクターのひとつである。


 一切、動作のロスがなければ、素早く箸を動かし食事をすることができる。


 末堂はその局地を目指したファイターなのである!

 


 全裸のスエヒコは高速で移動する!!!



 急いで追いかけるが、末堂の背中はもうはるか彼方。


 追いつけない!



 歯を噛みしめ、マリーは戦法を、変える。



 隠し持っていた板チョコ10枚を、大口で食らいつき、カロリーを得る。



 そして、全身を発熱させ、床に触れる!


 

 高熱が床を伝う……!


 真夏の砂浜がごとく!



 電車内の床が灼熱に染まる!!!



「……っ!!?あつっ!!!」


 前方を走っていた末堂が、裸足ゆえに足の裏を火傷する!



 さらに、車内の室温は上がり、末堂は体力を消耗させる。



 無論!熱気は、乗客たちをも巻き込む!



「なんか……暑くない?」「わかる……服一枚脱ごうかな?」「さっき全裸のひと走ってたよねよっぽど暑かったのかな」


 まさか乗客たちも、優雅な電車旅の最中、大食いファイター同士の熱いバトルが繰り広げられているなど、想像だにしない。



 世界は夢に溢れているのだ!例えそれが熱に浮かされたときに見るような夢だとしても。



 いまのうちに、マリーは追いかける。



 距離はつまり、1号車ぶん程の差に縮まる!



 だが、末堂スエヒコも、裏のフードファイター!



 この程度で負ける男ではない!


「熱いワァァァ!!!」


 火傷をこらえ、歯を食いしばり、走る!



 そう!我慢である!


 韋駄天を名乗る太古のスピードスターたちは!靴もなしに時代を走り抜けた!



 これは根性という名の先人へのリスペクトなのだ!



 目指すべき者がある者は強い。



 そして、ついに!末堂スエヒコは、車内販売カートの前に到着する。


 汗だくの手を滑らしながら、胸のカードケースをさぐる。

 


「PASSMO使えますか?」


 末堂スエヒコは軽量化を追及してきた。そんな彼は、当然キャッシュレス推進派であり、現金は持ち歩いてなかった。


 カートを押していた店員は、差し出されたぬるぬるしたカードをぽかんと眺める。


「いえ、使えません」


 末堂は動揺する。

 

「なに!!?さきほどの駅弁屋では使えたのに!」



「どうやら間に合ったようね……」


 遅れて到着したマリーは、小銭を取り出し、余裕の笑みで弁当を買う。


「この辺ではまだPASSMOは一部しか導入されていないのよ。現金を侮ったこと。それがあなたの敗因」



 パチン、割り箸を割る音車内に響く……。



 マリーの勝利の食事が始まる。



「くっ!……対応しない、社会が悪い……!」



 末堂は膝をついた。



 その後車内弁当を食べ終わったマリーは、勝負の約束通り、現金2000円で、末堂スエヒコからサーモン弁当10個を買い取った。



 ほくほく顔で2食目の弁当を食べ始めるマリー。



「うーん、車内販売の弁当も悪くなかったけど、やっぱり名物駅弁はかくやっぱり名物駅弁は違うわね」



 末堂とマリーは隣同士で座っていた。弁当に舌鼓を打つマリーを、末堂は恨めしそうに眺める。



「最初は腕試しのつもりでした。しかし、君は強かった。あっしに勝つほどに」 



 マリーは、今は亡き武者小路コウジの知り合いに褒められたことを誇らしく思った。

 

 照れながら、マリーはコメを頬張る。


「まあね。さて、ところで約束は覚えてる?私が知りたいいくつかのこと、教えてもらうわよ」


 末堂は了承する。


「マリーさんも都会へ出るのでしょう?長旅です。ゆっくり話してさしあげますわ。まずは勝利の食事をお楽しみくだせぇ」



「そうね、急ぐ旅でもあるまいし」


 マリーは次の弁当を開ける。いくらだけに、いくら食べても美味しかった。



 腹が満たされれば、周りがよく見える。先ほどからスルーしていたことに、ここでマリーは疑問を抱く。



「ところで、あなたのそのファッションだけど」



 マリーは末堂スエヒコの全身を足の先から頭のてっぺんまで見回して、疑問をぶつける。


「なぜ、頭にGoProをつけているの?」


 末堂は、照れながら頬をかいた。純朴な笑みを浮かべて、理由を明かす。



「大した理由じゃないでやんす。ただ、あっしのカラダを見たひとたちがどんな反応をしていたのかを録画してあとで見るだけでやんす……そういう、性癖だから」



「なるほど……全裸監督ってわけね……」




 マリーは深く頷き、理解者のふりをした。理解しては終わりだと思った。



「そんなことより、お弁当のお味、いかがっすか?」



 末堂はヨダレを垂らしながら尋ねる。



「お弁当いかがっすか?美味しいお弁当いかがですかっっっ!!!?」




 フードファイターは量が食べられれば味はどうでもいいと勘違いしているひともいる。


 しかし、彼らはむしろ人一倍舌が肥えているのだ。



 末堂の取り逃した魚は大きい。




 マリーは敗北者への哀れみを込めて、笑顔で答えた。



「ええ、絶品よ」



 弁当争奪フードファイト



 無限弁当列車編、完。

気が向いたときにまた続き書きます。

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