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武者小路コウジ、死す!

飛鳥五郎という男を殺したのは貴様か!

 常盤マリーは街を駆けた。


 目指すは駅、都会への入り口。


 大食いで世界に名を轟かす夢へ向かって、彼女は第一歩を踏み出したのだ!



「まずはあいつを探さないとね…」


 駅についたマリーは、キョロキョロと辺りを見渡す。


 リベンジするため、そして裏大食い界へ自分を紹介してもらうため、武者小路コウジを探していたのだ。


 田舎の小さな駅で、1時間にくる電車の本数も少ない。マリーより少し早く中華料理屋を出た武者小路コウジは、まだ駅周辺にいるに違いがなかった。


 しかし、ホームのベンチにも、待合室にも少年の姿は見当たらない。

 


 改札の隣で、暇そうに本を読んでいた駅員に、マリーは尋ねる。


「駅員さん、さっきここに私と同じくらいの歳の男の子が来なかった?」


 すると、駅員は気怠そうに答えた。


「うん?ああ、男の子ならさっき見たよ。ほら、あそこの自販機コーナーに、誰かと一緒にいたよ」



 駅員は、人目につきにくい、駅舎の端っこの自販機コーナーを指さした。


「誰かといっしょに?」



 首を傾げるマリー。風来坊な少年だとおもっていたが、同行者などがいたのだろうか。



「男の子と、フードを被ったひとが一緒にいたんだ。親しげに話してたから、親かと思って、とくに声はかけなかったんだけど」



「ふうん、そうですか、ありがとうございます」



 礼を言ってマリーは自販機コーナーに駆け寄る。



 ここには、全国的に珍しい「蕎麦の自販機」がある。お金を入れると、発泡スチロールの容器に入った一杯のかけそばが出てくるのだ。



 おそらくフードファイターの少年は、それを食べながら電車が来るのを待っているのだろう。



 マリーは自販機コーナーに顔を覗かせた。




 すると、そこには、出汁の香りがただよう蕎麦を片手に、ベンチに座る少年がいた。



 周りには誰もいない。ひとりで、少年武者小路コウジは、蕎麦を啜っていたようだった。



 話に聞いていた同行者がいないことに違和感を持ちつつも、お目当の人物が見つかり、ほっとするマリー。



「あの…武者小路…くん」



 しかし、声をかけようとしたマリーは、思考が止まる。



 目に入ったのだ。武者小路コウジの胸が。


「なによ…それ…」



 武者小路コウジは目をつむったままで、なにも語らない。虚に蕎麦を持ったまま微動だにしない。


 

「きゃあああぁ!!!」


 マリーは腹の底から叫んだ。


 目の前の光景に耐えられなかったのだ。



 そう、武者小路コウジが胸にナイフを刺されて絶命しているという光景に……!!!






 第3話、武者小路コウジ、死す!!!






 警察から話を聞かれたあと、解放されたマリーは本日最後の電車にのった。


 ゆらゆらと揺れながら、マリーは考える。


 誰が武者小路コウジを殺したのか。



 まず考えられるのは、駅員が証言していた謎のフードの人物である。


 正体不明の不審者、疑う余地は十分である。


 田舎の駅であるので、カメラはろくに設置されておらず、フードの中身の顔はわからずじまちだった。また、電車にのった姿も確認されておらず、行方も知れないということだった。



「…………」



 マリーは、武者小路コウジの人となりも経歴も全く知らない。


 ゆえに、誰に恨まれていたのかも、なぜ殺されたのかも想像できない。


 ただ、いまの彼女にあるのは追うべき目標を一瞬でなくした喪失感だった。


 マリーはポケットを探る。なかには、武者小路コウジの持っていた一枚のカード、『会員証』が入っていた。


 警察が来る前に、悪いことだとは思いつつもちょろまかしたのだった。


 なぜマリーが、そんな危険なことをしたのかというと、その会員証には、大きな文字で『裏大食い会員証』と書いていたのだ。



 武者小路コウジが死んだいま、裏大食い界への手がかりはこれしかない。私利私欲からマリーはこれを盗んだのだ。


 また、これを持っていれば、いずれ武者小路コウジが殺された理由も知ることができるのではないだろうか。


 そんな淡い希望も抱いていた。


 車窓から外を見ると、夕暮れが眩しかった。


 日が暮れる頃は、夕飯時である。



『ぐぅ』


 いくら悲劇的な光景を見た後であろうと、フードファイターの性、腹は減る。



 一度戦った相手への薄情さに自己嫌悪して、マリーは苦笑した。



 都会へ出るには、次に停車する駅で、特急電車に乗り換える必要があった。


 このターミナルとなる駅には、名物の駅弁がある。


 鮭といくらとの海鮮丼に、たけのこの煮物が添えられた、名物駅弁『海鮮!こぼれイクラのサーモン弁当〜真心をこめて〜』。


 


 テレビにも取り上げられた、この地域では有名な逸品であり、離れた土地に住むマリーも存在は知っていた。



 しかし、食べるのは今日が初めてであり、駅が近づくにつれ、胸の高鳴りは高まっていった。


 「次は〜○○駅〜」


 停車時間は短い。すぐに弁当を買って帰ろう。


 電車が止まった瞬間、マリーはホームに飛び出した。


 終電の近いこの時間、まだ弁当が残っているか定かではない。


 しかし、それでも飛び込むのが食いしん坊なのである!



 弁当売り場を見つけたマリーは売り場員に駆け寄る。


「すみません、海鮮!こぼれイクラのサーモン弁当〜真心をこめて〜ありますか?」



 売り場員はいじっていたスマホをしまい、顔を上げる。



「海鮮!こぼれイクラのサーモン弁当〜真心をこめて〜なら、全裸の男の人が最後の10個を買っていったわ。今日は売れきれよ」



「全裸の男?」



 眉をしかめるマリー。


「ほら、あのひと」


 売り場員が指差す方向を見ると、そこには10個の弁当を両手で抱えて、電車に入ろうとする全裸の男がいた。


 

 全裸の男。シャツもパンツもなしのすっぽんぽん。唯一の衣装は頭につけたGoProだけ。



 そんな男が、弁当を抱えて電車に乗ろうとしていたのだ!


「くっ……いちかばちか!」



 マリーは全裸の男を追いかける。


 都合よく、男が乗り込んだ電車はマリーが乗ろうとしていたものと同じだったので、電車内で交渉して、弁当を一つ分けてもらおうと思ったのだ。



 全裸の男の入った車両に乗り込むと、マリーは席に座る彼に話しかける。



「あの、すみません、もしよかったら」



  言いかけた口が止まる。



 全裸の男の胸へ目がいったのだ。



「ま、まさか……」


 なんと……なんと!


 右乳首にセロハンテープで貼られたカードには、『裏大食い会会員証』の文字が書いてあったのだ!!!



  裏大食い会の関係者。


 まさかこんなところで発見するとは!



 この男にうまく取り入れば、自分を裏大食い会に推薦してもらえるかもしれない!


 マリーは自分の強運に感謝した。


 しかし、邪念を払う。


 マリーには、その前に聞かなければならないことがあるのだ。


 この全裸の男が、裏大食い会の関係者というのなら、もしかすると、あの事件の真相を知っているかもしれない…….犯人かもしれない!



 マリーは声を張って尋ねる!


「武者小路コウジという男を殺したのは貴様か!」

 

マリーは、さらに啖呵を切る。



「あと、弁当も独り占めしないでちょうだい!」




全裸の男は顔をしかめて、マリーを諫める。


「電車内で大声は、お嬢さん、ちょっと非常識ではないですかい?」





 次回!全裸の男とマリーの電車内での激闘に幕が開ける!



 無限弁当列車編、開幕!!!

①駅員さんの指差す方向へいき、目当ての相手を見つける→武者小路コウジの胸を見る→叫ぶ



②売り場員さんの指差す方向へいき、目当ての相手を見つける→全裸の男の胸を見る→叫ぶ


 これが「天丼」ってやつですねぇ

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